第94話:詠の不運日
苦労人の詠の“あの日”が到来。
劉備軍の本拠地である下邳城。この日はドタバタしていた。
「あぁああああ‼⁉⁇ご主人様の為に苦労して作った炒飯が⁉」
愛紗は一刀の為に苦労して作った炒飯(という名前のなんだか分からない料理)を床にぶち撒けてしまったり・・・。
「にゃにゃあ‼⁉⁇鈴々のオヤツ返すのだぁああ‼‼」
鈴々が楽しみに口にしようとした肉まんをカラスに持っていかれたり・・・。
「「はわわぁ〜(あわわぁ〜)‼ライルさんから貰った大事な兵法書が虫に‼」」
ライルさんから貰ったアメリカ軍の戦術マニュアルを虫に食べられていたり・・・。
「あぁああああ‼‼わ・・・私の大事な秘蔵メンマがぁ・・・・・・」
星も大事に取っておいたメンマを食べようとしたら腐っていたり・・・。
「・・・・・・・・・(グズっ)」
「れ・・・れれれ恋殿ぉおお‼泣かないで下さいぃい‼・・・ギャフッ‼⁉⁇」
城下町では給金支給日の前日で最後の小遣いをつぎ込んで買った紙袋一杯の肉まんを全て台無しにしてしまった恋に、慰めようとして慌て、壁にぶつかった拍子に頭に木箱が落ちて来たネネだ。
その様子を一部始終、城壁から俺は露蘭と霞と共に眺めていた。
「・・・・・・相変わらず凄いな・・・」
「ほんまやで。せやけど今日の奴は今までで一番強烈やなぁ」
「そうなのか⁉」
「せやでぇ。今までで酷かったんが確か・・・・・・うち等がまだ洛陽におった時に嵐が薄力粉ぶち撒けてもうてな、そこに火つけたらなんや知らんけど食堂が爆発しよったんや」
そっちの方が強烈だろ⁉
まあ、この時代に粉塵爆発なんて知られてないから不可解な爆発だと思われるだろう。
詠は普段はツンデレ眼鏡っ子だが、何かと苦労が絶えない苦労人でもある。どういう訳か稀にそれ迄蓄積された不幸が一気に放出されて、本人や月、桃香、刀瑠以外の人間に何らかの不幸が降り注ぐのだ。
「それで詠は?」
「今は自分の部屋におるで」
「でも大丈夫かよ・・・城の中や外でこんな調子だから本人は大変なことになってないのか?」
「それは大丈夫だよ露蘭。どういう訳か知らないけど今までで本人や月や桃香には不幸なことになったことが無いんだよ」
「・・・なんで?」
「さぁ・・・」
本当に謎である。そう思いながら霞を見るとどこからか酒壺を取り出していた。
「まあ、今日一日だけは本当に大人しいしといた方がええで」
「・・・霞、どっから出したの?」
「一刀と露蘭も飲むか?前にアレックスが来た時にくれた天界の酒やねんて♪」
「おっ♪いいねぇ♪」
「俺は遠慮するよ。何だか嫌な予感がするからね」
「さよか・・・ほんならいっただっきま〜す‼」
そういうと霞と露蘭は盃に注がれた酒を飲むと、暫くしてから顔が赤くなってきた。それも大量の汗を掻きながらだ。
「「み・・・・・・水ぅううう‼⁉⁇」」
2人は全速疾走で井戸に向かうが、その道中に階段から落ちたようだ。俺は露が置いていった盃に小指をつけて確認する。
「‼‼・・・・・・ウォッカじゃないか‼流石の霞でも無理な筈だよ・・・しかもよく見たらスピリタスウォッカって書いてあるし・・・・・・。」
酒壺をよく見ると小さく“Spirytus rektyfikowany”と書いてある。
96度という高アルコール度数に仕上げられた世界最高純度のスピリッツで、喫飲中は喫煙を含め火気厳禁と聞いたことがある。
しかし霞達がよく呑む白酒は高くても50度位だから、倍近くもある酒には勝てないはずだ。
そういえば去年にライルさん達と一緒に祝いに来た時の祝杯でも大量に呑んでもアレックスさんは一切酔わなかったな・・・。
俺は酒壺に蓋をして片付けるとひとまず城壁から降りた。
取り合えずは桃香と刀瑠の部屋に行こうとするが、それが不味かった。部屋のすぐ側で侍女の仕事をしていた月と鉢合わせになる。
「あっ、ご主人様」
「やぁ月。洗濯物?」
「はい、詠ちゃんがお休みですから、早めにお洗濯を片付けておこうと・・・」
詠にはこういう日には必ず一週間前くらいには前兆があるので、事前に休みを組み合わせているのだが、当の本人にはばれている。
「手伝うよ月」
「へぅ?大丈夫ですよご主人様。今日はいつもより多いけど、1人で大丈夫ですから」
「俺も急ぎの仕事は無いし、半分持つよ」
「いえ。自分のお仕事は自分でやらないと・・・・・・へぅ⁉」
「月⁉・・・・・・うわっ⁉」
俺が半分持とうとした瞬間、月がメイド服のスカートを踏んでしまい倒れかける。俺もすぐ反応したが無理な態勢だったので月を巻き込んで倒れてしまう。
(いたたたた・・・・・・な・・・なんだ?・・・口元が妙に柔らかいような・・・‼‼‼)
(へ・・・へぅうう////)
互いが目を開けた瞬間、瞬時に顔を赤くしてしまった。
何しろ洗濯物をクッション代わりに俺が月を押し倒したような姿勢で、左手は支える際に月の右手首を掴み、左手は月の胸。極め付けに月の唇と俺の唇が重なっている。ハタから見たら俺が月を襲っているような格好だ。
「ご・・・・・・ごめん‼⁉⁇」
「へぅうううう/////」
顔をすぐ離して謝るが、月は顔を本当に真っ赤にしながら気を失っているようだ。その直後に背後から妙な金属音と凄まじすぎる殺気と嫉妬が感じ取れ、震えながら振り向いた。そしてそこにいたのは・・・・・・。
「ご主人様・・・・・・何をしてらっしゃるのでしょうか?」
「主様・・・月様に何をされておいでか?」
そこにいたのは青龍偃月刀を構えた嫉妬神こと愛紗に、金剛爆斧を担いだ狂将こと嵐。
2人の背後には燃え盛る漆黒の炎が見えるような感じがして、更にその発せられる気配と笑っているが目が笑っていない表情が怖すぎる。
「で・・・ご主人様。なにかご説明はありますか?」
「あと・・・何かと言い残したいことはありますかな?」
「は・・・はははは・・・・・・ふ・・・2人とも・・・なんで武器を構えているのでしょうか・・・?」
「はい♪・・・なんだか分かりませんがなんとなくです」
「私は遠征の帰りです♪さあ、主様。逝きましょうか?」
「ははは・・・・・・・・・誤解だぁあああ‼⁉⁇」
「「逃がしませんよご主人様(主様)ぁあああ‼‼」」
「へぅうう・・・・・・ご主人様と口付け・・・////」
幸せの絶頂の表情をしながら気を失っている月を他所に俺は全速力で鬼から逃げ回る羽目になった。結局は捕まって2人の強力なフルスイングで吹っ飛ばされたのはいう迄もなかった・・・・・・。
魏の中でも男嫌いの桂花。最近華琳に優遇されている牙刀に一泡吹かせるために行動に移る。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[桂花と罠]
魏の平和な日常。