第92話:孫権
次代の王となる者の覚悟と覚醒。
宣城の戦いから3日、周辺にいた山越は壊滅して黄巾の残党は呉に降伏。以降は孫呉軍の一員として暫くの捕虜生活の後に貢献することなる。
神医が施してくれた治療のおかげで負傷兵は歩けるまでに体力を回復させ、後から来た宣城駐留部隊と交代で建業に帰還を始める。
俺も腰に営倉の鍵を取り付けて宣城地下にある営倉へと階段を降りていた。
「・・・・・・加減はどうだ?」
「・・・・・・・・・」
営倉には先日の作戦を台無しにしかけた孫権殿と、昨日から隣の営倉から移った甘寧がいた。
「早速だが、この前の答えを聞かせて貰いたい。だが、俺に納得させられない答えなら・・・・・・分かってるな?」
孫権殿のやったことは軍において決して許されるものでは無い。作戦を無視した独断専行に加えて味方を危険に晒した。
本来は軍法会議に処して斬首だが、彼女は雪蓮殿の妹であると同時に次期王だ。雪蓮殿が王を退役して彼女が孫呉を導いて行かなければならない。
だから彼女には自覚してもらわなけるばならない。“指導者としての責務と覚悟”を・・・・・・。
「・・・その前に聞かせて欲しい」
「何をだ?」
「・・・アレックスが2日前に来て話してくれた。お前が私に厳しくしていたのは、お前の過去にあると・・・」
「・・・あの馬鹿・・・余計なことを・・・・・・」
「ライル、何があった?」
「・・・私も聞きたい。お前が蓮華様をそこまで心配していた訳を・・・」
俺は2人の営倉の前で暫く考え、ため息を吐くとすぐ前の壁に座り込む。
「・・・・・・俺が天の世界にいた頃の話だ」
そう言うと2人は俺の言葉に耳を傾ける。正直に言うとこの話をするのは辛くて仕方がない。いい思い出などなに一つないからだ。しかしここで話さなければ彼女は前に進めない。そんな気がして仕方が無かった。
「向こうの世界で10年前、俺が士官になりたての頃だ。俺が所属していた軍はとある国家と戦争をしていた。敵は練度も技術力も低く、戦局はそのおかげで優勢だった」
「「・・・・・・・・・」」
「俺の部隊は敵首都で指導者がいると情報があった。確保の為に向かったが・・・罠だった」
「罠・・・」
「俺の部隊は敵に包囲され、部下が次々と死んで行った。副官が退却を進言したが、俺はそれを拒んだ。海兵隊は敵に背中を見せないと・・・思い込んでた」
俺の言葉で孫権殿はこう思っているだろう。
“私と同じだ”と。
「敵指導者は殺害したが、生き残ったのは俺1人。国は俺を英雄と称えて勲章授与や昇進が決まった。だが死んだ仲間には棺桶・・・遺族からも恨まれたさ。“人でなし”、“味方殺し”だとも言われた。何度自ら命を絶とうと思ったか・・・・・・」
「でも・・・・・・」
「だが、そんなことをしても逃げていると同じだ。そんな時に教えてくれたのが・・・俺の親父だ」
「父親?」
「ああ、“国民を守るということは、部下達を守ること。部下を悲しみから守ることはその家族の悲しみを無くすこと。部隊を守ることは国家を守ることと同義。死んだ者達を真に思うのならば、生き続け、1人でも多くの家族を守れ”」
その言葉に2人は言葉を失った。自分と全く同じ状況を知り、そんな素晴らしい言葉を預けたのだ。
「だから俺は部下達の墓標前で誓った。この命が尽きるまで1人でも多くの部下達を、生きて家族の下に返してやると・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「この話は終わりだ・・・・・・それで、君はどうだ?次期王としての覚悟の意味は?」
「・・・・・・正直・・・まだ解らない」
俺は何も言わずに耳を傾ける。
「私は母様みたいに器は持たないし、覇気でも姉様の足元にも及ばない」
「・・・蓮華様・・・」
「・・・・・・・・・」
「この3日間で思ったことは、それを知っているからこそが・・・私の強さになる。己の弱さ、無力を知る。たとえ私の行動が姑息だろうと、呉という家族を守る為の策を練る。それこそが・・・・・・私の力に・・・次期王としての覚悟となる」
俺は彼女の言葉の直後にジッと彼女の眼を見る。その眼は覚悟を決めた眼であり、一切の迷いは見当たらない。
俺は軽く笑うと鍵を手にして営倉の扉を開けた。
「・・・貴女の覚悟・・・しかと聞きました・・・孫権殿「蓮華よ」・・・・・・」
「わたしの真名は蓮華。この名をあなたに預けるわ」
「私もだライル・・・・・・。今までの非礼を詫びる意味でも我が真名・・・思春を預けたい」
2人からの真名。蓮華と思春。俺は2人の顔を見ながら微笑み、踵を鳴らして最敬礼をする。
「このライル・ローガン・ブレイド。確かにお2人の真名を預からせて頂きました‼」
俺は敬礼を解くと2人を外に案内した。ここに次代の孫呉の王となる孫権 仲謀の覚醒が成された瞬間であった・・・・・・・・・。
覚醒した蓮華と思春に真名を預からせて暫く、孫呉海兵隊の定期合同訓練を終了させたアレックスに珍客が訪れる。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[意思の硬さ]
保守派の魔の手がアレックスに近づく。