第91話:華佗
負傷兵で溢れる陣地。そこに一人の名医が現れる。
再占領した宣城の城壁前の負傷者テント。ここには負傷した重軽傷者300人以上がいた。
「こっちにリンゲル液を‼チェストシールもだ‼」
「駄目だ‼肺を損傷してる‼人工呼吸器を‼」
「おい‼しっかりしろ‼こんなところでくたばるんじゃない‼」
「目を開けろ‼お前には嫁さんが待ってるんだろ⁉だから死ぬんじゃない‼助けてやるから目を覚ますんだ‼」
テント内では瀕死の重傷を負った孫権軍兵士を必死に助けようとするウルフパック隊員が治療をつづける。
しかし何とか九死に一生を得た兵士より無念にも息を引き取った兵士が多い。
俺も医療テントの一つで腹に矢創を受けた兵士を治療も虚しく見届けていた。
「くそっ⁉くそっ⁉くそっ⁉」
「中佐‼ここは任せて下さい‼中佐は他を‼」
「分かった‼」
俺は部下にこの場を任せて他のテントに向かう。外には比較的軽傷の兵士が治療を受けており、中には無傷の孫権軍兵士が進んで治療に当たる。彼等は孫呉海兵隊の中で俺達の医療技術の基礎を教え込んだ言わばコンバットメディックだ。
「ライル‼」
「そっちはどうだ⁉」
「医薬品が全く足りない‼輸血剤が底を尽きかけてる‼」
「分かってる‼ヴェアウルフに通信したが最低でも30分は掛かる‼」
「くそっ⁉それじゃ間に合わない‼」
はっきり言って孫権軍の損害は予想外であり、あまり多くの輸血剤を含む医薬品や医療器具を持って来てはいなかった。加えてウルフパックの弱点の一つである衛生兵の不足が祟っている。
すると治療に当たっていた兵士が駆け寄って来た。
「ライル将軍‼アレックス将軍‼近くから医者が治療に加わりたいと‼」
「本当か⁉」
「ありがたい‼すぐに案内してくれ‼」
「御意‼」
兵士が暫くしてから話していた医者という人物を連れて来た。赤い髪で黒のノースリーブの上にヒーローのような服装をした若い青年だ。
「患者はどこだ⁉」
「将軍‼お連れしました‼」
「来てくれて感謝する‼部隊長のライルだ‼隣は副官のアレックスだ‼」
「あんた達が噂の孫呉海兵隊か・・・俺は流れの医者をしている華佗だ‼」
「「華佗⁉」」
彼の名前を聞いて驚きを隠せなかった。
かなりの年寄りだった筈だが、彼の場合は性転換ではなく相当な若返りとは・・・・・・。
「どうした?」
「いや・・・何でもない・・・・・・それより来てくれた事を感謝する‼」
「君には重傷者を頼む‼向こうの天幕だ‼」
「任せろ‼」
簡単に挨拶すると俺達は華佗を連れて医療テントに入って行く。中には腹に斬創を受けて瀕死の状態である味方兵士だ。
「こいつだ‼腹を斬られてる‼」
「解った‼すぐに病魔を退治してみせるぜ‼」
そういうと彼は何処からか鍼を取り出し、それで身体を押し始める。
「ここか・・・違うか、こっちか?」
流石に何をしているのかきこうとした瞬間、彼は鍼を持った右手を高く掲げた。
「見つけたぁ‼かなり厄介な病魔だ・・・だが患者を死なせたりはさせん‼貴様等病魔など‼この鍼の一撃で蹴散らしてやる‼はああああああああああ‼‼」
何か気合を入れ始めた瞬間、驚くべきことが起きる。彼の右手が光り始め、そこから溢れんばかりの氣が集中力し始めたのだ。
その光景に俺も驚愕してしまう。
(なんて奴だ⁉氣が膨れ上がっていく⁉)
「我が身、我が鍼と一つなり‼一鍼同体‼全力全快‼必察必治癒‼病魔覆滅‼ゴッドヴェイドゥーー‼‼」
「・・・・・・・・・」
「げ・ん・き・に・・・なぁああれええええええっ‼‼」
凄い掛け声と共に氣を集中させた鍼を負傷兵の腹筋付近に突き刺して、そこから氣を兵の体内に注ぎ込むのを感じ取れた。
そしてどこかで落雷の落ちる音がした・・・・・・様な気がする
「貴様の野望‼もはやこれまで‼病魔退散‼‼」
一応は治療が終わったようだ。俺もすぐに確認すると光景に驚きを隠せなかった。
「・・・傷跡が・・・無くなってる・・・」
負傷兵の致命傷となっていた斬創の後が綺麗に無くなっており、兵も痛みが消えて眠っているのだ。
俺達の医療技術を持ってしてもこれだけ完璧に治療出来るのは流石に不可能だ。
「次の患者は⁉」
「あ・・・・・・ああ‼頼む‼」
しかし華佗は休むことなくその後も次々と重傷者を治療していき、俺達も外にいる軽傷者を片っ端から手当していった。
それから一時間後・・・。
「(ガツガツ‼モグモグ‼)」
「・・・・・・・・・・・・」
治療を済ませた華佗は氣と体力を回復させる為に食事を摂っていた。それくらいなら思う存分食べてくれとは確かに言ったが、よくこれだけ食べられるとヒシヒシと思う。
何しろ机は空いた紙トレーが文字通り山のように積まれ、調理担当の兵士も目まぐるしく料理を運んでくるし、厨房では戦闘よりも修羅場になっている状況だ。
規模的に例えると第一次大戦終結翌日に第二次大戦が起きて、更に終戦翌日に第三次大戦が勃発したような状況だ。
「ごちそうさん‼‼いやぁ〜うまかった‼‼」
「ははは・・・・・・喜んでくれて幸いだよ・・・」
満腹になったと聞いて厨房がようやく終戦になったと思って、派手に音を立てながら崩れた。
「華佗君・・・君には本当に感謝してもし切れない。仲間達の命を救ってくれたこと・・・心から礼を言う」
「礼なんていい。俺は苦しむ人々を救うこそが俺自身の使命だと思ってるだけだ」
華佗の印象はまさに“いい奴”だ。実は最後の患者であった明命の傷跡を全て綺麗サッパリ消してくれて、彼女の身体は以前の綺麗なものに戻してくれた。
その直後に目を覚ました明命から思わずアッパーカットを食らって顎が痛いが・・・・・・。
「そういえば、一つ気になってたんだが・・・」
「なんだ?報酬ならいらないと言っただろ?」
「それはもう諦めた。治療の度に言ってた“ゴッドヴェイドゥー”というのは「今なんていった⁉」・・・」
いきなり目を輝かせながら華佗が顔を近づけてきて質問してきた。
「・・・ゴ・・・ゴッドヴェイドゥー・・・だが・・・・・・」
「(プルプルプル)」
「・・・どうした?」
「素晴らしい‼‼」
いきなり華佗は両手を挙げて喜び始める。というか今の会話の何処に喜ぶ要素があった?
「な・・・何が素晴らしいんだ?」
「五斗米道を一発で完璧に発音できる者に出会えるとは‼一刀の言っていたことは本当だったんだな‼」
「一刀を知ってるのか?」
「ああ‼あいつもゴッドヴェイドゥーの発音を一発で言えた一人だからな‼」
そういうことか・・・・・・。つまり彼の所属している一団で五斗米道の発音が英語風になっているから発音出来る人間がこの世界の人間では非常に限られるから、喜んだのだろう。
「ライル‼お前も一刀と同じ今から俺の親友だ‼これからは神医(カムイ/華佗の真名)と呼んでくれ‼」
「親友ってね・・・・・・まあいい。俺からもよろしく頼む。神医」
そういうと神医の差し出された右手を掴み、固く握手を交わした。
「そういえば神医はここに一人で来たのか?」
「いや、仲間と一緒に来たんだが怪我人が大勢いると聞いて俺だけ先に来たんだ。もう到着する筈だが「ラ・・・ララララ・・・ライル‼⁉⁇」」
何か言うとした瞬間、アレックスが物凄い血相をかいて食堂テントに飛び込んで来た。普段からこんなに取り乱す奴では無いので、俺もビックリした。
「なっ⁉ど・・・どうした⁉」
「いいいいい今、じょ・・・城門にば・・・・・・ばばばば・・・化け物が⁉」
「化け物・・・そんなのいる訳が「「だ〜れが一度みたらむこう一月は悪夢に出て来そうな筋肉ダルマですってぇえ⁉」」化け物⁉」
本当にいた⁉
目の前に筋肉ダルマスキンヘッド三つ編み紐ビキニ下オンリーの気色悪い化け物に白髪執事ヒゲ褌マッチョの化け物が⁉
思わずその場にいたウルフパック全員が銃火器を構えて、俺もM45を取り出して構えた。
だが神医だけは違う反応を見せていた。
「二人とも‼やっと来たか‼」
「あんらぁ〜神医ちゃん♪やっと会えたわねん♪」
「神医殿よ。遅れてすまなかったであるな」
「・・・・・・・・・知り合いか?」
「ああ、こいつ等が俺と一緒に旅をしてる仲間だ」
「あ〜らぁ♪神医ちゃんやご主人様と同じくらいにいい漢乙じゃないのん♪」
「うむ、それに中々の力を持っておるようじゃな」
「頼むから近づかないでくれ・・・それで俺はライル。あんた達は?」
「美女。貂蟬ちゃんとおぅ〜♪」
「漢乙道亜細亜方面前継承者の卑弥呼であ〜る‼」
『貂蟬に卑弥呼‼⁉⁇』
ここにいる全員(神医を除く)が呆気に取られた。というよりも全員が本当に同じことを思っただろう。
(あ・・・悪夢だ・・・)
それもそうだろう。絶世の美女である貂蟬と、神秘に包まれた邪馬台国の王だった卑弥呼のイメージが音を立てて崩壊したのだから・・・・・・・・・。
その後に神医と化け物ブラザーズは宣城を去り、再び放浪の旅に出た。その道中・・・・・・。
「貂蟬よ」
「なぁ〜に?卑弥呼?」
「あの者達をどう感じた?」
「うぅ〜ん・・・この外史を壊そうだなんて考えてはいないわねん。むしろ逆に雪蓮ちゃんと出会えたから守りたいと感じたわん♪」
「ジーンの言っていた通りじゃな。見事なまでのアメリカ海兵隊員じゃ♪」
「そうねぇん♪」
貂蟬と卑弥呼は何やら神医には聞こえないように話していた・・・・・・・・・。
孫権が営倉に入ってちょうど3日。ライルは孫権の答えを聞くために営倉へと向かう。それはライルを納得させるものか?それとも・・・・・・。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
“孫権”
次期王の答えが聞かされる。