第83話:袁家討伐中編
小覇王と銀狼、戦場を駆け巡る。
袁家三女の袁煕がレオンによって討ち取られたというニュースは瞬く間に広がった。
郭嘉の策通り、仲介役がいなくなった袁家の3人は連携を無くし、それぞれが保身に走って互いを前に出させようとする。
指揮系等の欠如と士気低下を確認した曹操は行動を開始する。次のターゲットは次女の袁譚と末っ子の袁尚。
そして右翼にいる末っ子の袁尚を討ち取るべく、私が指揮する孫呉海兵隊が戦闘を繰り広げていた。
「臆するな‼敵は数だけの烏合の衆‼我ら孫呉の敵ではない‼」
『応っ‼』
流石はライルが将軍を務める部隊だけのことはあるわ。一般兵であってもその武や勇猛さ、連携は私達の兵と比べても強力。
全員が弱い相手だからと油断せずに連携で戦い、それぞれが得物の長所短所を埋めてある。
だけど私も負けてはいられない。馬に乗り、袁紹軍兵士を南海覇王で斬り伏せながら、殺気や覇気を敵にぶつける。
「我は孫呉の王‼江東の虎と呼ばれ、孫呉を築いた英雄、孫堅 文台の子‼孫策 伯符‼我の首を討ち取る者がいるならば前に出よ‼」
檄を飛ばし、味方の士気を高めると同時に敵の士気を落とす。冥琳もこれが皆を率いる者としての責務と言っていた。
まあ、私は負ける気はしないけど。
「くっ・・・・・・たかだか一人の女相手になにしてやがる⁉束になって掛かれ‼」
向こうの指揮官らしい男が指示して私に10人以上で斬りかかって来たが、彼がそれを許すはずが無かった。私の後ろから聞こえてくる乾いた音。そして同時に倒れる敵兵達。
私の後ろには武器を構えるライルだ。さっきの攻撃はライル達による援護で、大丈夫なんだけど私の護衛をしてくれているのだ。
そしてライルが武器を抱えながら、彼の愛馬に乗って私の側に歩み寄って来た。
「雪蓮殿・・・あまり無茶なことはしないで頂きたい」
「あら?だって冥琳に言われたんだも〜ん♪」
「それにしたって他にもやり方があるでしょ?敵の士官や将を討ち取るとか・・・」
「ブーブー‼だって袁紹軍の兵士ってすっごく弱いんだもん‼それじゃ退屈‼」
「退屈ってね・・・」
「それにぃ〜♪私の背中はライルが護ってくれるから平気だし♪」
戦場に不釣り合いの無垢な笑みを浮かべる私にライルは顔を赤く染めて視線を外してしまう。
もう、本当に可愛いんだから♪
そんな空気に痺れを切らしたのか、敵の士官が剣を片手に斬りかかって来た。
「なにいちゃついてやがる⁉うざったいんだよ・・・・・・」
剣を振りかざそうとした瞬間、私はその男の胴体。ライルは首を切断して斬り捨てた。
「まあ、あなたが討たれるというのは想像出来ませんが、早く我らも役目を果たしましょう」
「もう、ライルも相変わらず真面目なんだから♪(そんな不意にカッコいい顔をしないで‼目を合わせられないじゃない・・・)」
恐らく私の顔は赤いと思う。しかしライルも普段は冷静沈着で凄く強いけどみんなに優しくって、時折見せる変化がある表情も飽きないし、本人は隠してるつもりだろうけど、かなりの照れ屋さん。
みんなもそんなライルに心を惹かれて、集まる。だけどいつまでもこんな雰囲気を味わっている訳には行かない。心を落ち着かせて南海覇王を掲げる。
「このまま突き進め‼我とライル将軍と共に袁尚の首を獲るぞ‼」
『応っ‼』
「総員突撃‼孫策殿に続け‼」
私を先頭にライル達も私に続いて突撃を敢行する。敵はその光景に恐れを抱いたのか、得物を捨てて逃げ出す。しかし奴等に逃げきれるということはないだろう。
敵は我々に斬り捨てられ、そのまま亡骸は踏み潰されてしまうからだ。
怯んだ敵を蹴散らしながら袁尚がいる右翼の砦へと到着。周辺の制圧をみんなに任せると私とライルは馬に乗りながら砦へと殴り込みを掛けた。どういう訳か門は開けっ放しだったので、簡単に入る事が出来た。
「な・・・何事ですの⁉」
砦の中央付近に見るだけで腹立たしい女がいきなりの来客に驚愕しているようだ。
髪型とスタイルが違う少しだけ小太りの体型だが顔がそっくりなのですぐに分かった。
「あなたが袁紹の妹の袁尚 顕甫ね?」
「そ・・・・・・そうだとしたらどうだというのですの⁉」
「分からないか?・・・・・・ここは戦場だ。あんたは逆賊袁紹の妹で、俺達はそれに敵対する連合軍所属だ」
「そうよ♪それにこうやって敵同士が目の前にいる目的はただ一つ♪」
そうすると私とライルはそれぞれ馬から降りて、南海覇王と神斬狼の鋒をこの女に向けた。凄まじい殺気と共に・・・。
「「貴様の首を貰う為だ‼‼」」
「ひいっ⁉な・・・何をしてますの⁉早くこの汚らわしい獣を始末なさいな‼」
袁尚が指示を下すとゾロゾロと敵が湧いて来た。全員が私達に怯んで腰が引けている。
「舐められたものね?」
「ええ、この程度の数で俺達に勝とうなどとは・・・」
「右側は任せるわね?」
「了解です。しかし手早く片付けましょう」
そういうと私達は左右に別れて敵を食らい始める。ここからは言葉は不要と思う。敵兵は私達の武を前になす術なく命を散らせ、まともに攻撃が出来ない状況だ。
恐らくは100人近くで仕掛けて来たのだろうけど、雑魚はどこまでも雑魚。
私の血には一つ問題がある。一定量以上の返り血と一定時間を超えて闘い続けると、一時的な戦闘狂になってしまう。
“身体が熱くなり、血が欲しくなる。”
だけどこんな連中が相手だとその傾向は見られないようだ。
対してライルは本当に凄い。ライルは冷静さを常に保ってられるし、剣技や格闘技だけではなく、状況に合わせて短剣の二刀流や銃に素早く切り替えて対処する。
雑兵では敵うはずがなく、数分後には周辺に死体だらけになっており、私達の身体や武器には敵の返り血。その光景はまさに修羅。地獄という言葉が生易しい状態にも思える。
周辺の敵を排除し終わり、私達は腰が抜けて震える袁尚にそれぞれ刃を向けた。
「さて♪邪魔はなくなったし、死ぬ用意は出来た?」
「いやっ⁉死にたくありませんわ‼い・・・命だけは・・・・・・そ・・・そうですわ‼わ・・・私の側近にして差し上げますわ‼そうすればお姉様を殺して私達だけで天下を統一出来ますてよ⁉」
ここまで往生際が悪い奴はそういない。しかも現状に目をやらず、ただ死ぬのに抗う。私達は溜息を吐きながら武器を構える。
「・・・・・・遺言は・・・」
「・・・・・・それだけか?」
「まっ・・・・・・」
最早時間は与えない。私は袁尚の首、ライルは心臓に突き刺して息の根を止めた。私はライルと共に袁尚の落とした首を拾い上げ、点高く掲げた。
「「敵将袁家四女袁尚‼孫 伯符とライルが討ち取った‼」」
『わぁあああああああ‼‼』
私達の勝鬨に兵士達は得物を掲げた。周辺にいた袁紹軍は次々と降伏して行き、中には袁紹に反発して共に闘いたいと志願してきた兵士もいた・・・・・・。
戦線の左右は制圧出来た。これで中央に展開している袁譚を討ち取れば、袁紹軍の戦線は崩壊して、最終目的の鄴に向かえる。
中央線戦を担う曹操軍も進撃を続けていた。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[袁家討伐後編]
魏武の猛追、刮目せよ。