第70話番外編:呉のハロウィン
ハロウィンということで、番外編をお届け致します。
10月31日、ハロウィン。子供達がお化けの仮装をして家に“トリック・オア・トリート”といいながらお菓子を貰いに回る祭典である。
この時代でこの国には存在する訳が無いのだが、建業城城内では・・・・・・。
『トリック・オア・トリート‼』
「はい、お菓子だよ」
建業に暮らす子供達がお菓子をもらい回っていた。俺も手作りパンプキンクッキーを5つ入れた袋をやってきた子供達に配る。
なぜ城内でハロウィンをしているかというと、一週間前に遡る。大の子供好きで知られる優龍が執務室にやって来て、“孤児院に暮らす子供達の為に何か出来ないか”ということらしい。
ちょうどそこに南瓜を持ってやって来た雪蓮殿がやって来て、時期を思い出してハロウィンを提案したのだ。
子供達の為にしてあげるということで全員賛同してくれた。約一名を除いてだが。その一名はというと・・・・・・。
「お・・・お化けが一杯・・・・・・お化けが・・・・・・・・・ととさまかかさま・・・こ・・・怖いよぅ」
お化けが大の苦手である百合は布団に蹲って、虎のぬいぐるみを抱きしめながら震えていた。俺は仮装として12騎士団の格好で配っていると、執務室の扉が再び開けられた。
「精がでるな」
「これは祭殿・・・それに美花もか」
入って来たのは特殊メイクを施したゾンビ姿の祭殿に相変わらず恥ずかしそうに、祭殿の後ろに隠れている熊の着ぐるみを着た美花だ。
なんというか二人とも違和感が無い。はたから見たら本当の親子に見える。
「見回りですか?」
「そうじゃ。せっかくじゃから見て回ろうかと思うてな」
「まさか祭殿も菓子目当てで・・・?」
「そんなことはせんわい。しかし・・・ほれ♪」
「・・・と・・・・・・とりっく・・・お、おあ・・・・・・とりー・・・とぅ」
美花は恥ずかしそうにしながらも俯きながら両手を前に出してトリック・オア・トリートという。
見ていると本当に小動物に思える可愛らしさだ。俺は躊躇なく彼女の手にクッキーを置いた。
「はい、後てゆっくり食べな♪」
「(コクリコクリ)」
頷いて礼をすると、誰かが飛び込んで来た。
「ラ〜イル様ぁ〜‼」
「ラ〜イル♪」
「兄様なのじゃ♪」
「はぅあ・・・」
元気娘三人衆の明命、シャオ殿、美羽に加えて亞莎が飛び込んで来た。もちろん仮装をしてだ。
明命は雛里の服装を藍色から白と黄色に変えて、更に猫耳+尻尾+肉球手足を付けた魔法猫少女。
シャオ殿はやはりというべきか、黒一色の衣装で手に模造品の鎌を持った小悪魔。
美羽も予想通りに蜂だった。蜂の被り物に蜂の尻尾の部分。背中に羽を付けた蜂コスチュームだ。
活発トリオの後ろには恥ずかしそうに袖で照れ隠しをしている執事服を着た亞莎。以外過ぎてかなり似合っている。
「兄様ぁ〜♪妾達は似合っておるかえ?」
「ああ、可愛い蜂だ」
「にょほほ〜♪もっと褒めてたも♪」
「明命もシャオもよく似合ってるよ。可愛らしい猫と悪魔だな」
「ニャ♪ニャニャニャ♪なんちゃって♪」
「やっぱり♪シャオってやっぱりなに来ても可愛いよね♪」
「あ・・・あのぅ・・・・・・」
「亞莎も似合ってるよ、いつもの服装もいいけど、執事服も可愛い」
そういうと再び亞莎は顔を赤く染めて袖で顔を隠す。どこか調子でも悪いのだろうか?
そう思いながら祭殿に視線を送ると、なにやら呆れた表情でため息を吐いていた。
「あのぅ・・・ライル様」
「なんだ?」
「えっと・・・・・・ト・・・トリック・オア・トリートです」
「あ〜⁉亞莎だけずる〜い‼」
「兄様‼妾も鳥食うあ鳥井戸なのじゃ‼」
「ええっと・・・美羽ちゃん。それをいうならトリック・オア・トリートです」
「大丈夫だ。来ると思ってみんなのクッキーも焼いてあるから」
そういいながら机の中に閉まってあった袋を取り出した。
これは彼女達の好みに合わせて材料を変えたもので、明命には同じマタタビの一種であるキウイフルーツを使ったキウイクッキー。
美羽は言わずもがなでハチミツペーストを練り込んだハチミツクッキー。
シャオには桃の果肉を練り込んだ桃クッキー。
亞莎には表面にゴマをふんだんにまぶしたセサミクッキー。
「なんじゃ、儂は除け者なのか?」
「祭殿にもちゃんと用意していますよ。ほら」
祭殿にはリンゴと干しぶどうを練り込んだジュエルクッキーを渡す。本来ならクリスマス用のクッキーだが、まあ問題はないだろう。
「すまぬのぅ、催促したようじゃ」
催促しただろう。
「それよりも策殿達はまだ来てはおらぬのか?」
「えぇ、優龍と千里は菓子作りに行ってますが、雪蓮殿達は「ライル様ぁ」来たようです・・・・・・⁉」
間延びした口調で入って来た穏の格好に思わず膠着してしまう。何しろ格好が牛を思わせるのだろうが、牛柄のビキニを見に付けて頭に牛の角に腰には尻尾という何とも大胆極まりない格好だから。
「ふむ、やはり予想通りの反応だな」
次に入って来たのが冥琳殿だ。彼女は真逆で大胆ではない。だが黒を主体としたロングコートに黒のズボン、黒のロングブーツ。更には首にロザリオを付けている。悪魔祓いで有名なエクソシストだ。
いつもは天女の様な服装で、恐らくは呉で一番の美貌を誇る彼女だ。その神々しい雰囲気に加えてあまりにも似合いすぎる服装で見惚れてしまった。
「どうだライル、お前達の世界の退魔士の服装だが、おかしくはないか?」
「いっ・・・・・・いえ・・・その・・・よ・・・よく似合っています・・・」
「そうか、しかしお前はなぜ顔を赤くしているのだ?」
「それは・・・」
「ライルさぁ〜ん、私も似合ってますかぁ?」
「あぁ・・・似合い過ぎる位に似合ってるよ」
「えへへぇ〜♪」
「ところでライル。皆には甘味があって私たちにはよもや無いというのはないだろうな?」
「ありますが・・・」
「あぁ、そうだったな・・・・・・トリック・オア・トリート」
「はぅあ〜・・・トリック・オア・トリートですぅ」
流石は大軍師だ。発音も完璧で話せている。そうしながら穏にはミルククッキー。
大のお茶好きである冥琳殿には抹茶を練り込んだ抹茶クッキーを渡す。
「すまないなライル」
「結構ですよ。それより雪蓮殿の姿が無いのですが・・・」
「ああ、あの子なら「ラ〜イ〜ル♪」来たようだな」
ちょうど話題の人物がやって来て、扉が勢いよく開けられた。
「雪蓮殿、お待ちしていまし・・・たぁ⁉」
俺は少し座っていたので、部屋に入ってきた雪蓮殿を見て思わず後ろに倒れこんでしまう。
何しろ穏以上に大胆極まりないビキニにミニスカート、フリルが付いた手袋とハイヒール、背中に悪魔の翼、更に口には牙。
つまり彼女のコスチュームはヴァンパイアだ。しかも似合い過ぎている上に本当に刺激的すぎる格好だ。
「ねえねえライル‼どうっ⁉似合ってる⁉」
雪蓮殿はそういいながら前屈みになって似合うか否かと問い詰めて来る。しかも豊満な胸の谷間が視線に飛び込んで来て、恥ずかしいあまり俺は視線をそらす。
「えっ・・・ええ・・・・・・とても」
「むふふっ♪照れちゃって・・・ライル可愛い♪」
「・・・・・・いきなりトリックですか?」
「ねえ、ところでトリック・オア・トリートってどういう意味なの?」
「・・・・・・今更ですか?」
「うん♪」
「はぁ・・・・・・トリックが悪戯という意味で、要約すれば“お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ”です」
「へえ〜・・・・・・(ニヤリ)」
「それより雪蓮殿。クッキーが欲しかったら合言葉を・・・・・・」
「分かってるわ・・・・・・・・・」
なんだか嫌な予感しかしない。
「トリック・オア・・・・・・・ライル‼」
「・・・・・・・・・はい?」
「だ〜か〜ら〜♪ライルをくれなきゃ悪戯しちゃうわよ〜♪」
俺は頭で今の言葉を理解しようとする。いま確かに“トリック・オア・トリート”ならぬ“トリック・オア・ライル”と言った。
意味は“俺をくれなきゃ悪戯するぞ”だって俺⁉
「ちょ⁉雪蓮殿⁉お・・・俺を貰ってなにするつもりですか⁉」
「そんなの決まってるじゃない♪。あっ‼逆でもいいんよ♪ライルが私を貰ってくれても♪」
「・・・・・・じゃああげなきゃどうするんですか?」
「むふふっ♪・・・・・・じゅる♪」
なんだか様子がおかしい。条件反射で俺は飛び上がって窓に足を掛けるとそのまま飛び降りた。3階からだ。
「あーっ‼待ちなさーいライル‼大人しく私に貰われなさーい‼」
そういいながら雪蓮殿も俺を追い掛けて飛び降りる。その状況に冥琳殿や祭殿達は呆気にとられていた。
一方その頃、孫権殿の私室では・・・・・・。
「蓮華様、もはや覚悟を決められたほうがよろしいのでは?」
「嫌‼こんな格好で行ったら死んじゃうわよ‼」
「私も一緒に行きますから」
「絶対に嫌ぁーー‼」
水色のメイド服に髪を下ろした甘寧に覚悟を決めると言われながら、恥ずかしいあまり部屋から出たくないバニーガールの衣装を着た孫権殿の姿があった・・・・・・・・・。
次回は本編に戻ります。