第50話:一歩前へ
対袁紹軍対策、それが軍議室で話し合われる
。
俺達が劉備軍の指揮下に一時的に加わって4日後、遂に袁紹軍が徐州に攻め入って来た。
奴等は怒涛の勢いで国境付近の関所や支城を次々と制圧していったが、戦略的撤退を完了させた劉備軍には一切の損害は無く、奴等は其れすら気付いていなかった。
俺達は現在、袁紹軍を撃退する為に城内にある軍議室に集められていた。
室内には俺とアレックスと南郷の3人に加えて劉備軍の首脳陣が集結していた。
「皆が知ってる通り、袁紹軍が国境を越えて侵略行為を始めた。敵の数はこちらの偵察隊と無人機によると約10万、大半が歩兵を占めている」
「よくこんだけの人数が揃ったものだな・・・他に職場が無かったのか?」
「あの袁紹よ。徴兵で徹底的に掻き集めたのよ。拒否した人達は皆殺しにされたそうよ」
俺達の掴んだ情報の疑問点を詠が答える。確かにこの世界で兵を集める大半の方法は徴兵制度による。
孫呉軍でも徴兵制度を採用して兵力拡大を行なっている。俺が考えている部隊では完全志願制だが・・・本音を言えば徴兵制度は賛同出来ない。
「孔明殿、そちらの状況は?」
「こちらは準備万端です。袁紹軍が国境で進軍を停止してくれたおかげで、迎え撃つ準備が整えられました」
「後は袁紹軍を上手くこちらに誘き寄せるだけだな?」
「(コクリコクリ)」
「そんで陣形はどうするんや?」
「決まってるです‼恋殿が大活躍すれば袁紹は逃げ出すです‼」
「だったら鈴々も暴れてやるのだ‼」
「張飛や呂布が行くのであれば私もだ‼」
「はいはい、元気なのはいいけど程々にね」
ネネによる一言で武人としての血が騒いだのか、張飛と嵐が志願し出す。それを一刀が手を叩いて場を納める。
「ライルさん、何か有効な戦術はありますか?」
「いいのかい?俺達は客将だぞ?」
「違うよライルさん」
「違う?」
「うん♪ライルさん達はもう私達の友達だよ♪」
そういうと劉備殿は無垢な微笑みを見せる。しかし客将ではなく友とは・・・・・・どれだけ器が広いんだ?
一刀からの問い掛けで全員の視線が俺に集中する。
「・・・俺の解釈だが、袁紹軍の戦術は基本的に“突撃”しかしない筈だ」
「はい、袁紹軍は数に頼り切った人海戦術しか行なっていません」
「そちらが動員出来る兵数は?」
「掻き集めてようやく3万です」
実質上は約2倍の兵力を相手にすることになる。しかし兵一人一人の実力を考えるとその差は埋まってくる。
「奴等が何も考えず、無謀に真正面から攻撃してくるなら、地の利に加えて待ち構えているこちらが有利になる。あのクソ野郎に優秀な人材はいない上に、奴自身もこの国で最も無能。対してこちらは名高い優秀な武将や軍師が揃っている」
「にゃはは〜、褒められたのだ♪」
「さっすがライルや♪分かってるやん♪」
「そこでだ・・・・・・敵をこの城の前に誘き出すには誰かが引き付ける必要がある」
「ほぅ、つまりは囮ということかな、ライル殿?」
「その通りだ趙雲殿。一度だけ真正面から敵にぶつかって退却。袁紹の性格からして確実に全軍をその一点に集中させる筈だ。陽動部隊が退避完了したら、俺達が敵の数を減らす」
「しかしライル、どうやって減らすんだ?」
嵐がそういうと俺は腰に身につけてあるM45を軽く叩く。嵐はその動作を見て納得したようだ。
「敵の数を減らしたら次は君達の出番だ。怯んだ隙を突いて一刀君、関羽殿、張飛殿、趙雲殿、嵐、露蘭の6人を主力とした迎撃部隊で畳み掛ける」
「なあなあライル、うちは?」
「・・・恋も」
「それをいったら私もだぞ」
「心配するな、3人にも役割はある・・・劉備殿」
「ほぇ?」
「ほぇって・・・・・・劉備殿の軍に騎馬部隊は?」
「ええっと・・・ご主人様ぁ〜」
「はぁ・・・・・・全部で2000あります」
相変わらず超天然の劉備殿。それを一刀が呆れながら答える。
「3人には騎馬部隊の指揮を任せたい。振り分けは恋と霞が500ずつ。白蓮は1000。ここまでくれば分かるだろ?」
「ええっと・・・騎馬隊による速さを重視した敵の分断ですか?」
「そうだ。分断に成功したら3人の騎兵隊を中心にして、城寄りの敵部隊は包囲殲滅。それより後方の部隊は士気が挫かれて逃げ出す筈。追い討ちとして俺達の航空戦力と地上部隊120名がこれを殲滅、敵の戦闘力を完膚なきまでに粉砕する」
作戦の流れはこうだ。
袁紹の性格を逆手に取り、陽動兼誘導を行なう隊が城に退却。
退却完了と同時に俺達が城壁や城の前に設けてある塹壕で待機しているウルフパックが攻撃を開始して敵の数を削ぐ。
数と士気が低下したら劉備軍が反撃を開始。それと足並みを揃えた霞、恋、白蓮率いる騎兵隊が退路を分断。
それより後方を俺達が航空戦力を用いて、グレイブ隊による対地攻撃、ファルシオン隊に輸送されたソードブレイカー隊とハルバート隊が更に奥へと回り込んで敵戦力の大半を撃滅する。
袁紹の性格と敵兵の低い能力を逆手に取って、二手三手先を読んだ計算された作戦だ。敵は確実に食いつくだろう。しかし一つだけ問題がある。
「しかしライル殿、問題はこの囮ではないのか?」
「ああ、敵はかずが多く、些細な囮は歯牙にも欠けぬ。だから敵を確実に食い付かせるには・・・・・・・・・一刀君が最適だろう」
そういうと全員が驚愕する。特に関羽殿は表情を強張らせる。
「なっ⁉ご主人様を囮だと⁉」
「そうだ。この中で袁紹に恨みを最も多く買っているのは一刀君だ。袁紹に頭に来そうな挑発をしてやれば確実に食い付く」
「ご主人様にそのような危険な役回りをさせる訳には行かない‼貴様、それが分かっているのか⁉」
「百も承知だ。だがな関羽」
「なんだ⁉」
「君は自分の主が信じられないのか?」
そういうと彼女は言葉を詰まらせる。
「君は袁紹如きの軍勢に一刀君が殺られるとでも?」
「何を言う‼ご主人様があのような輩に負ける筈がない‼」
「それが君の答えだろ?」
「・・・・・・・・・」
「“危険を冒す者が勝利する”・・・ですか?・・・ライルさん?」
「そうだ」
危険を冒す者が勝利する。
イギリス軍特殊部隊[SAS]のモットーだ。ただ待って勝利を掴むなど、それは敗北でしかない。本当に勝ちたいのなら自分から危険に飛び込む必要があるという意味だろう。
「ただ勝利を待つだけではダメだ。君達の願いは劉備殿の目指す世界を現実のモノにするのだろ?」
「えぇ」
「現実させるなら、それ相応の危険も付き纏う。それを避けていたりしたら、夢は夢のままで終わってしまう・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
「夢を実現したいなら覚悟を決めろ・・・」
「・・・・・・分かりました」
「ご主人様⁉」
「愛紗がそんなに心配してくれて、それだくで嬉しいよ。だけでライルさんのいう通りだ」
一刀は心配し続ける関羽の肩に手を載せる。彼女は顔を覗き込まれると、赤く染めて背けてしまう。
「楽な道なんて存在しない・・・だけどどれだけ困難な道だろうと、みんなが信じてくれたら俺は・・・・・・みんなのところに必ず帰ってくるよ」
「ご主人様・・・・・・・・・・・・分かりました」
一刀の説得でようやく関羽が折れた。
「けれども約束してください・・・必ず帰ってくるって・・・・・・」
「あぁ・・・必ず帰ってくるよ」
そういうと室内に甘酸っぱい雰囲気が蔓延するが、全員の視線(何人かは嫉妬)が集中して、2人は顔を真っ赤にしながら互いに離れる。そして対袁紹軍の策は俺の策で進めることになった。
徐州攻防戦・・・この戦いで俺達は歴史の分岐点に関わることになる・・・・・・。
遂に袁紹軍が攻撃を開始した。しかし一刀の挑発に乗せられ、袁紹軍は罠に掛かった。
そして袁紹軍が次々と駆逐される中、前衛と後衛を分断する役割を任された恋達も行動を開始する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[深紅と紺碧と純白]
徐州の蒼天に3つの牙門旗が靡く。