第49話:未来の父
対袁紹軍態勢を構築中して、ひと段落するライルと一刀。一刀からめでたい話が聞けた。
劉備軍との同盟を締結させ、使者である魯粛と千里は物資運搬で到着したスーパーシースタリオンに乗り込んで、建業へと帰還していく。妹との別れを嫌がった千里は気絶しながらだが・・・。
国境付近には既にハンターキラーを偵察と監視で派遣している。既に国境付近には袁紹軍が集結していて、いずれ侵略が開始されるらしい。
予想外だが敵の侵攻速度は遅く、今は兵士の休息と補給を行なっているようだ。しかし、こちらもその分だけ防御態勢構築に時間を掛けられる。
俺は一刀と共に支城の城壁に設けたM2の機関銃座で寛いでいた。
「くぅ〜‼やっぱりコーラうまい‼」
「ははは、喜んでくれて幸いだよ」
俺は持って来ていたコーラを一刀と共に飲む。彼にとっては本当に懐かしい味と刺激であり、既にペットボトルを2つ空にしている。
劉備達も飲んでみたが刺激が強すぎたみたいで、特に関羽に関しては“人が飲むようなものではない”と言い放った。
「しかし意外でしたよ」
「何がだ?」
「ライルさんが酒を飲めないってことですよ。印象的には強そうなのに・・・」
「誰にだって弱点はあるものだ。呉では色々と苦労するがな・・・」
「苦労?」
「うちの大将達は酒が強いんだよ・・・しかも相当な飲兵衛でな・・・・・・俺達の基地が完成した際の打ち上げパーティーには酷い目に合わされた」
俺がそういうと一刀は失笑してしまう。思い出すだけで頭が痛くなってしまいそうだ。
「しかし・・・・・・奴等の侵攻速度が予想よりも遅いな・・・」
「あの馬鹿女にしては意外でしたね・・・・・・兵士に補給する為に停止するなんて・・・」
「恐らくは誰かが進言したんだろう。袁紹がそんなことを指示する訳がない」
「ええ・・・虎牢関であんなことを仕出かした悪党ですから・・・」
「ああ・・・・・・一刀君」
「何ですか?」
「君はこの世界と流れをどう思ってる?」
俺がそういう風に尋ねると、彼の表情が変わった。
「この世界は俺達の知っている三国志の世界に似た世界だ。流れそのものは合致しているが、時期が早すぎる」
「・・・それは俺も思ってました。陽人の乱でも呉軍を指揮したのは孫策さんじゃなく孫堅。朱里・・・・・・孔明も劉備軍に加わるのは長板橋の戦いより少し前・・・新野城の戦いの後です」
「孫策殿の母親である先代の孫堅殿もだ。しかも演義の世界も混ざってやがる」
確かにそうだ。この世界はどう考えても俺達の知っている三国志ではなく、三国志演義が混ざった世界だ。
それを表すかのように関羽は偃月刀、呂布が方点画戟を使っているが、それらの得物が登場するするのは10世紀、栄の時代にようやく登場する得物で、後漢末期や三国時代には登場していない。
「いずれ袁紹は滅び、青州と西涼、更に幽州を奪った曹操は破竹の勢いで南下を開始するだろうな」
「ええ・・・曹操の覇道による“力での天下”・・・それだけはなんとしても阻止しないと俺達の世界の二の舞になる」
「400年以上も大乱が繰り返された挙句、英雄達の願いは都合のいいように書き換えられた」
「俺達の知らない世界だからこそ、何が起こるか分からない。だから俺達で平和な世を作る」
「・・・・・・そうだな」
一刀の言うとおり、この世界が俺達が知っている三国志の世界とよく似た“別世界”ならば何が起こっても不思議ではない。
正直にいうと、彼等の理想は理解し難い。人と人が手を取り合って分かり合えるなどは夢物語でしかなく、人が人である限り争いが無くなることはまずない。
そんな現実を見て行動を起こしたのが曹操だ。
力による支配は確かに一時的な平和を生む。しかし支配者が死ぬと後継者争いが起こり、やがては再び戦火が広がる。
だが信じるものを持つことで力を得るというのもまた事実。その志こそが人に力を与えるのだろう。
俺も彼と同じ様にコーラを胃に流し込んでいると、ある事を思い出した。
「そういえば一刀君。実は気になってたことがあるんだが・・・・・・」
「何です?」
「劉備殿のことだ」
「桃香ですか?」
「ああ、初めて会った時から気になっててな・・・どういえばいいか分からないから単刀直入に聞くが・・・・・・・・・」
俺からの質問に彼はコーラを飲みながら耳を傾ける。
「俺の間違いだったらすまないが、もしかして彼女・・・・・・妊娠してるのか?」
「ブッ⁉」
俺の言葉が予想すらしていなかったのか、一刀は飲んでいたコーラを思いっきり吹き出してしまった。
「大丈夫か?」
「げほ⁉げほ⁉・・・・・・だ・・・大丈夫・・・大丈夫ですけど・・・いきなり何を⁉」
「いやだって・・・初対面の時から腹をさすっていたし、調子が悪いにしたら顔はすっきりしているし、なによりも妊娠特有の穏やかな表情をしてたからな・・・」
俺の推理に彼は顔を赤く染めながら視線を背けてしまった。これは確実に図星だろう。
「で・・・どうなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・ええ」
「今日で何ヶ月だ?」
「・・・7日前で・・・・・・丁度3ヶ月らしいです」
ということは妊娠したのは陽人の乱より少し前ということになる。しかし17歳ほどで父親になるとは・・・・・・。俺はコーラが入った湯飲みを置いて彼の背中を叩いた。
「ははははは‼めでたいじゃないか‼」
「ちょ・・・ライルさ〜ん」
「ははは・・・すまんすまん。それで、名前はやっぱり幼名は“阿斗”にするのか?」
「は・・・・・・はい・・・一応は・・・」
「だったら祝いに何か用意しないとな」
「ええっ⁉そ・・・いいですよ⁉」
「気にするな、俺からの些細なプレゼントだ。用意が出来たらすぐに渡すよ」
「す・・・・・・すみません」
「今はコーラしかないが、ひとまずは乾杯だ♪」
そういうと、俺と一刀は湯飲みに新しいコーラを注ぎ、掲げると互いの湯飲みの底で乾杯をする。
劉備軍では既に“天の血が入った子供”が生まれてくる。俺達もいずれは考えなければならないが、ひとまずは袁紹軍との戦に備えるのであった・・・・・・・・・。
袁紹軍による徐州侵略が開始された。数では圧倒されているが、ライル達と劉備軍の有能な将達が策を持って構える。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[一歩前へ]
御遣いと海兵隊員の戦い方が見られる。