第44話:仁徳と天の武人
今回はもう1人の主人公である一刀視線です。
ライル率いるハンターキラーが無事に袁紹から公孫瓚こと白蓮と夏侯覇こと露蘭を救い出して少し後の徐州の下邳城。
劉備軍は盟友だった公孫瓚軍が袁紹に攻められたという情報をいち早く手に入れ、日夜軍議が行なわれていた。この日も遅くまで軍議が続き、指導者である俺と劉備こと桃香もようやく体を休められた。
深夜になって眠っていた俺が目を覚まして、寝ぼけ眼で自分の寝台に目をやる。
「すー・・・すー・・・」
隣には可愛らしい寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っている桃香がいた。
また自分はやらかしたのかと思ったが、着用している和風の寝間着はしっかりと着られ、彼女自身も寝間着は着ている。
「はぁ・・・・・・ふふっ」
俺は溜息を吐きながらも“相変わらずだな”と思って微笑んでしまう。恐らくだが、寝ぼけて自分の部屋と間違えたのか、それとも純粋に一緒に眠りたかったのかのどちらかだろう。
彼女は甘えん坊だ。だからたまにこうやって俺の寝台に潜り込んでくることがあり、それが縁となって何度も身体を重ねている。
今や彼女達は俺にとって何物にも替え難い存在だ。
この世界にいきなり飛ばされ、いく宛も無かった俺を何の疑いも持たずに仲間に加えてくれ、今は袁紹に陥落された桃花村の桃園で兄妹の契りを交わし、彼女達の優しさに触れて“守ってあげたい”と決意して、どんなに困難でも“人と人が互いに手を取り合い、笑って暮らせる国”を共に作りたいと決意させた。
俺は湯飲みに茅台酒を少し注ぎ、それを飲む。茅台酒は清の時代からのアルコール度数35〜65%ほどの中国酒で、何でこの時代にあるのか理解し難い。
飲みすぎても二日酔いせず、むしろ適度の飲用は健康に良いとされて、かつて周恩来は風邪を引いても薬は飲まず、茅台酒を飲んで治したという記録が残っている。
「う〜ん・・・・・・」
外を見ながら茅台酒を飲んでいると桃香が目を覚ましたようだ。振り返ると寝間着が少し崩れて胸がかなり強調されている。
髪も乱れて寝癖が付いており、目はまだ眠そうだ。
「ごめん、起こしたみたいだね?」
「う〜・・・ご主人様ぁ〜・・・・・・ふわぁ〜」
俺は湯飲みを机の上に置くと今にも眠りそうな桃香の隣に腰掛け、彼女の肩に手を置いて寄せると、桃香は自分の頭を俺の肩に乗せて来た。
「桃香、何でまた俺の寝台に?」
「う〜ん・・・確か愛紗ちゃんと鈴々ちゃんと一緒にお風呂に入って・・・それでご主人様の部屋に間違って・・・・・・それでご主人様の寝顔見てたら眠たくなっちゃって・・・・・・」
「それで俺の寝台に?」
「(コクリ)」
俺の寝顔を見たから眠たくなったって・・・・・・いかにも桃香らしい理由だ。
普段の俺なら寝ている時でも気配を察知できるが、それは悪意や邪気を持った人間に限定される。
桃香達からはそういったマイナスエネルギーは一切感じられないので、対処のしようが無いのだ。
「桃香、大丈夫?」
「・・・・・・白蓮ちゃんのこと?」
「白蓮だけじゃない・・・俺達が契りを交わした時に飲んだ酒をくれたおばさんや街のみんな・・・・・・」
「・・・正直・・・・・・まだ信じられないよ・・・」
そういうと彼女は俺から頭を離して、俯くと両手を強く握り締める。
「・・・・・・白蓮ちゃんもおばさんも・・・街のみんなもすっごくいい人達ばっかりだったのに・・・みんな・・・死んじゃっただなんて・・・・・・」
「桃香・・・・・・」
俺は彼女の手と肩に自分の手を置くと、顔を覗き込む。
「私達があのまま幽州に残ってたら・・・白蓮ちゃん達も・・・死ななかったかもしれなかったのに・・・」
「桃香・・・・・・」
俺の手の甲に水滴が落ちる。それは彼女の瞳から零れ落ちた涙だ。
彼女は優し過ぎる。この乱世には不釣り合いの底が知らない“仁徳”故の優しさだ。それが彼女の長所でもあると同時に最大の短所でもある。
桃香の泣いている姿を見て、辛くなった俺は彼女を抱き寄せて、少し間を置くと落ち着かせるために彼女の唇と俺の唇を重ねた。
「んっ・・・・・・んんっ・・・」
「んん・・・はぁ」
きっかり5秒ほど経ったら、自然的に唇が離れた。俺と桃香は顔を少し赤く染める。
「落ち着いた?」
「・・・ご主人様・・・・・・」
「白蓮やみんなが死んでしまったって聞いた時に、俺も信じられなかった。もし桃香達がいなかったら、1人でも袁紹を討ち取りにあってた筈だよ」
そういうと俺は自分の額を彼女の額にくっ付ける。彼女の息が鼻をくすぐる。
「だけど・・・俺達は生きなきゃならない・・・・・・桃香の夢を実現するために・・・死んで行ったみんなの為にもね」
「ご主人様・・・」
「だから・・・必ず叶えよう。俺達の想いを・・・一緒に歩んで行こう」
「・・・・・・うん♪」
そういうと桃香は何時もの明るい笑顔で返して来た。ようやく彼女の笑顔を見れて俺も嬉しくなり、右手を彼女の後頭部に、左手を腰に持って行ってさらに寄せると、必然的に唇と唇が重なった。
暫く彼女とのキスを堪能していると、何やら外の様子がおかしい。
「ご主人様?」
唇が離れて桃香が心配そうに尋ねるが、俺は気にせずに耳を澄ます。なにやら規則正しい機械音みたいだが、同時に剣を振るった際になる空気の音にも似ている。それもそれはこちらに徐々にではあるが近づいて来ている。
「何の音かな〜?」
「この音・・・・・・まさか⁉」
音の正体を悟った俺は壁に掛けられていた心龍双牙を帯に通して部屋を出る。
「ご主人様⁉」
「桃香‼急いでみんなを起こして来て‼集まったらドラを鳴らして召集を‼急いで‼」
「えっ⁉あっ・・・うん‼」
あまりにも凄い勢いで桃は返答すると俺は中庭へと急ぐ。そして全員が揃った直後に銅鑼が鳴り響き、夜の空から一機の軍用機が着陸したのであった・・・・・・。
一刀達の城にオスプレイでやって来たライル達。死んだ筈だった公孫瓚の姿を見て彼女達は喜びに包まれた。
そして一刀はライルの力を借りれることになる。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[仁徳王と白馬の再会]
異世界の英雄。白馬を送り届ける。