第40話:加速する時代
孫呉に齎された情報で動き出すライル。
俺たちによる部隊創設の選抜試験実行を二ヶ月後に決定。試験内容や基準値の選定をしていた3日後の昼。雪蓮殿から部隊長の緊急招集が命じられ、何かあったと判断した俺は急いで無線でアレックスとレオン、南郷を呼び出して軍議室に向かった。
「雪蓮。アレックス、レオン、南郷の3名を連れて到着しました」
「もう⁉遅いわよ4人共〜⁉」
「申し訳ありません。何しろ潜州城で執務をしていましたので・・・・・・」
「まあ気にするな。それよりも席に付いてくれ」
そういうと直ぐに空いている席に座った。室内には俺達と雪蓮殿、冥琳殿の他に孫権殿、祭殿、穏、亞莎、甘寧、千里の他に見慣れない文官がいる。
青い文官の服装を身につけ、肩まで伸ばした茶髪を束ねた俺と比べても年上と思わせる人物だ。
「姉様、皆を集めて何があったのですか?」
「そうなのよ蓮華。冥琳、詳しい説明をお願い」
「ああ・・・・・・実は冀州に忍び込んでいる明命の部下が先ほど帰還して、入手した情報を報告した」
冀州という名前に俺達は表情を少しだけ強張らせる。何しろあそこを納めているのは不倶戴天の敵である袁紹だからだ。
「ライル、気持ちは分かるけど今は我慢してね♪」
表情を読まれたのか、雪蓮殿が宥めてくる
。よく見ると周囲からも視線が集中していて、特に亞莎に関しては震えている。
恐らくは無意識に怒気を出していたのだろうが、何もそこまで怖がらなくてもいいと思ってしまう。
「失礼しました雪蓮殿。それと怖がらせたな亞莎?」
「えっ⁉いえ・・・・・・大丈夫でしゅ⁉」
思わず呼ばれて焦ったのか、最後の方で噛んでしまった亞莎。しかしそれのお陰で空気が少しだけ和んだ。
「話を戻すぞ。報告によると袁紹が北に軍を進めたらしい」
「北というと公・・・・・・なんとかさんの幽州がありますね〜」
「穏様・・・・・・公孫瓚ですよ」
「そうでしたぁ〜」
相変わらずのんびりとした口調だ。
「報告によると袁紹は大規模な軍勢を北進させ、幽州を瞬く間に制圧。公孫瓚軍は壊滅したらしい」
全員が表情を驚かせる。確かに正史でも公孫瓚は袁紹に壊滅させられたらしいが、時期的にかなり早いのだ。
「こちらが予測していた速度よりもかなり速い速度で進軍して、公孫瓚は真面な反撃が出来なかったらしい」
「恐らく袁紹は補給や兵の消耗を無視して、公孫瓚軍が反撃に転じる前に攻め込んだのでしょう」
千里も僅かな情報で推理する。確か公孫瓚は常に白馬に乗り、騎馬戦術を基礎とした機動戦を得意とした事から“白馬長史”として恐れられた。
「宣戦布告も無しに攻め込むなど・・・・・・やはり袁家は腐っている‼」
「落ち着きなさい蓮華」
誇り高い孫権殿が怒りを露わにするが、雪蓮殿が彼女、宥める。しかし彼女の表情も袁紹に対して怒りを覚えている。
「蓮華の気持ちも分かるわ・・・・・・私も報告聞いて我慢ならなかった程よ」
「ほぅ・・・策殿がそこまでなるとは・・・・・・何があったと見ようぞ」
「伝令によると袁紹は幽州城を攻め落とした後・・・・・・・・・残った民もろとも町と城を焼き払ったのよ。捕虜も全員・・・」
『‼‼‼』
その言葉を聞いて全員が驚愕する。他国への宣戦布告も無い一方的な侵略に加えて捕虜虐殺、非戦闘員に対する殺人。
どれを取っても俺達がいた世界であからさまな戦争犯罪だ。俺は思わず立ち上がって机を思いっきり殴る。俺が殴った箇所は見事なまでに粉砕して、周囲に破片が散らばった。
あまりにもいきなりだったので、全員が騒然としてしまう。
「ちょ⁉ライル⁉」
「・・・・・・なんだ?」
怒りのあまり口調が乱暴になっていることに気が付かず、話しかけて来た雪蓮殿を睨み付けてしまった。
その表情は怒りそのもの。“虎牢関の悲劇”で見せた感情よりも更に強大になった雰囲気。
その怒気に孫権殿、甘寧は得物に思わず手を掛けている程だ。
現状を理解した俺は深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「・・・・・・ご無礼をお許し下さい」
「構わないわ。気持ちは分かるし・・・・・・それよりライル?」
「何でしょうか?」
「動くのね?」
そう言われると俺は小さく頷く。
「姉様、何の話です?」
「ライル達が呉に降る時に密約を結んだのよ。“袁紹が動きだしたら、独自行動の容認”ていうね」
「なっ⁉・・・貴様‼何を勝手なことを‼」
「お言葉ですが孫権殿。この密約はしっかりと容認されています。いくら貴女でも口答えは無用です」
「なんだと⁉」
「やめなさい‼」
孫権殿が突っかかって来たので反論すると、雪蓮殿が喝を入れた。
「蓮華、この事は確かに私と冥琳で認めたのよ。それにライル達は私達が出した条件をしっかりと守ってるわ」
「しかし⁉」
それでも尚反論しようとする孫権殿を雪蓮殿が睨みつける。それを目の当たりにした彼女は無言のまま席に付く。
「ライル、独自行動は容認する。しかし1つだけ頼まれてくれないか?」
「・・・構いません。何でしょうか?」
「部隊の一部を隣国の徐州に回してほしい。袁紹の性格からすると次は徐州に攻め入る筈だ」
「北郷 一刀への仕返しですか?」
「ええ。一刀と私は袁紹を徹底的に否定した。それを踏まえても確実に攻め入る筈よ」
「それと千里と魯粛を連れて行ってくれ頼めるか?」
「承知しました」
「お任せ下さい」
先ほどの男性の名前は魯粛と分かった。
「ライル殿、申し遅れた。私は魯粛、字を子敬だ」
「こちらこそよろしく頼む」
「2人には劉備への使者として赴いてもらう。これを劉備と北郷に・・・」
そういうと冥琳殿は何処からか竹簡を取り出して千里に渡す。
「それは?」
「よく聞いて頂戴。我ら呉と劉備軍には同じ志を持っている。だから我等は劉備と同盟を結ぶ。これは上意よ。反論は許さないわよ」
反論を許さない上意命令。
“劉備との同盟”
本当に歴史の流れ方が早い。確かに劉備と孫呉は同盟を締結したが、それは赤壁の戦い前だ。しかし今からでも同盟を締結しておけば、色々とこちらに有利だろう。ならば後1つ何かしておいた方がいいだろう。
「冥琳殿、1つ質問があります」
「なんだ?」
「公孫瓚はどうなりましたか?」
「報告によると、公孫瓚は捕らえられて今は桃花城に監禁されている。以前は劉備が治めていた城よ」
「了解です。では明日の朝一番に本隊を徐州に派遣します。千里と魯粛殿も急いで準備を・・・・・・」
「分かりましたライル様」
「承知した」
「アレックス、本隊の指揮を任せる。レオンは残ってヴェアウルフの守備。南郷はグレイブ隊とファルシオン隊を指揮してくれ」
「「「Sir Yes Sir」」」
「それと本部に通達。“狩人出動”だ。隊員は完全装備。2時間後に出撃する。詳細はブリーフィングで伝える」
「了解だ。すぐに伝える」
そういうとアレックス達は雪蓮殿達に敬礼をして退出する。
「では、我々はすぐに向かいます。詳しい話は帰還後の報告でお伝えします」
「そう・・・・・・それでライル」
「何でしょう?」
「・・・必ず帰って来てね」
「・・・・・・・・・・・・」
「貴方の帰る家はここよ。私達家族が待ってることだけは忘れないで・・・・・・」
「・・・・・・勿論です」
そういいながら俺は彼女達に敬礼をして直ぐに準備に取り掛かる。孫呉による袁紹対策。そしてこの準軍事作戦でウルフパック最強の部隊が活動を開始する・・・・・・・・・。
遂に動き出した袁紹軍。アレックスが本隊を徐州に向かわせる中、ライルは“狩人”を動かし、公孫瓚救出の為に幽州の桃花城へと向かう。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[ハンターキラー]
ウルフパック最強部隊が動き出す。
キャラクター設定
魯粛 子敬
当初は袁術に仕えていた軍師だったが、裏で彼女を救い出してくれた孫呉に恩を返すべく仕えた軍師。
軍師というよりも外交官としての能力が高く、主に劉備軍への交渉役を担当している。
性格は威厳漂う感じだが、美羽と七乃のことを妹のように思っている。