第37話:女性版ハートマン軍曹
必要用務の1つである南郷 武久大尉。そんな彼等の前に1人の少女が現れる。
ライル達が潜州城を改修している頃、建業郊外にある鍛練場では、ウルフパックの業務の一つである訓練の指導が行なわれていた。
「もっと機敏に動きやがれ‼そんな亀みてぇな腰抜け動きで戦場に出れると思ってんのか⁉分かったらそのくせぇケツを引き締めやがれ‼‼」
『Sir Yes Sir‼‼』
「ここはクソガキ共の遊び場じゃねえんだぞ‼気合もぶらさがってるゴミも小せえ野郎はとっとと母ちゃんとこに帰りやがれ‼」
『Sir No Sir‼!!』
「分かったら走りやがれ‼糞虫みてぇに這いずり回りやがれ‼」
『Sir Yes Sir!!!!』
南郷はリクルート共(新兵)に罵声を浴びせながら用意した障害物コースをひたすらに走らせる。
俺達が訓練方式として採用したのは通称“ハートマン軍曹式海兵隊新兵訓練”。
前世で海兵隊員全員が通過して来た試練で、その過酷さは4軍の中で最も厳しいとされる。
ブーツ・キャンプに到着した新兵は、 まず徹底的に娑婆ッ気を捨てさせられ、全員が軍人になりきることを要求される。
全員丸坊主のクルーカットに一人大体、約20秒で刈り上げられる。ともに裸で身体検査を受け、 一緒に風呂に入り、同じ軍服を着る。ゼロからの人間形成である。
小隊の指導は一切DIが仕切る。
彼は隊内を絶えず歩き回り、 どんな小さなミスも見逃さない。見つけたらDIは新兵と顔と顔とをつきあわせ、 つばをとばし罵声を浴びせる。各人はドッグタグをぶら下げ、 入隊1日目から文字通り犬以下の扱いを受ける。
“自由を奪われ、地獄をもらう”。
学歴も家柄も人種も一切関係ない。 DIは新人に対して人間性を欠いたサディストのごとく振る舞いつつも、 彼等に新しい知識を叩き込む。
鍛練の様子を見せて貰ったことがあるが、俺達から見て“小学生の運動会”と思える程に酷かった。人海戦術を主とするこの時代はチームとしての連携は皆無だ。
個々の能力を重視していらしいが、そんな訓練は実戦では何の役にたたない。雪蓮殿達のような強さを誇る奴もいることはいるが、そんな奴は全軍の中では非常に稀だ。
どんなに強い奴でも数と地形に任せた戦術の前には無力となる。
そうならないようにこの訓練で連携の重要性を認識させ、軍人としての忠誠心を徹底的に植え付けさせる。
海兵隊のモットー“センパーファイ”を認識させるのだ。
少しだけ部下の下士官達に指導を任せると、南郷はテントに向かって、自分が持ってきた緑茶と抹茶羊羹を口にする。
「はぁ・・・」
「どうしましたか南郷大尉?」
「いや・・・随分と減ったと思ってね・・・・・・」
「自分は食べてませんよ?・・・栗羊羹なんて食べてないですよ?」
「羊羹じゃない、ルーキーのことだ。てか、お前か俺の羊羹つまみ食いしてたのは・・・・・・」
「ギクッ・・・・・・」
そういえば持って来た羊羹の数が減っていると思ったら、二等軍曹か・・・犯人は。
後で何かしらの仕返しを考えていると不意に背後を振り向いた。
「ヤッホー♪武久♪」
振り向いた先にいたのはライルと南郷の実質的主の雪蓮殿と上官にあたる祭殿がいた。
椅子に座っていた南郷はすぐに立ち上がり、二等軍曹と共に敬礼をして挨拶する。
「相変わらず凄く厳しいわね」
「孫策様、黄蓋様。確かこの時間帯は業務の最中では?」
「ブーブー、武久も冥琳と同じこと言う〜。ちょ〜っと息抜きするくらいいいじゃない♪」
「そうじゃ‼男が細かいことを気にするでないわい‼」
確かこの前もそういって丸一日“息抜き”をしていたような・・・・。しかも酒を飲みながら・・・。
「・・・・・・周瑜様に怒られますよ?」
「いいも〜ん♪冥琳なんて怖くないし♪」
その反応に失笑してしまうが、さっきから気になることがある。祭殿に誰かいるのだ。顔を少しだけ出して、こちらが見るとすぐに隠れる。
「ええっと・・・黄蓋様?」
「なんじゃ?」
「さっきから気になっていたのですが・・・後ろにいるのは誰ですか?」
「おお⁉そうじゃった‼今日はお主等に合わせてやろうと思ってな・・・・・・ほれ、早ようでてこんかい‼」
そういうと祭殿は後ろにいた人物を前に出す。
紫色の髪を三つ編みで束ね、白色のゴスロリ風チャイナ服を身に付けた茶色の瞳をしたまるで“ヨーロッパ人形”のような可愛らしい少女。寝るときにテディベアを抱き締めながら寝そうだ。
「えっと・・・この子は?」
「私達の家族よ、ほら」
「はっ・・・・・・は・・・初めみゃして・・・‼せ・・・性は太史、名は慈。あじゃなは子義‼まにゃ・・・真名は美花(めいふぁ/太史慈の真名)でしゅ‼・・・・・・ぐずっ・・・」
全体的に噛みまくりの少女の名前は太史慈 子義。南郷はその名前を聞いて驚愕してしまうが、自己紹介も恥ずかしいあまり言えなかったことで、今にも泣きそうな美花に南郷は少し慌てながら話しかける。
「わ・・・だ・・・・・・大丈夫‼気にしてないから‼気にしてないから泣かないでくれ‼」
「ぐずっ・・・本当でしゅか?」
・・・・・・やばい・・・本気で可愛すぎる・・・・・・。
「そ・・・それで、美花ちゃんを連れて来てどうなさったのですか?」
「うん♪実はね・・・祭、あとお願い♪」
「御意じゃ。実はのう、お主等の鍛練の指南役にこ奴もやらせようと思ったのじゃ」
「「・・・・・・・・・はい?」」
南郷と二等軍曹は素っ頓狂な声を出してしまい、“何を言っているんだ、この熟女は?”と思ってしまった。
しかしよく見ると2人とも何かを企んでいる表情で笑っている。絶対に何かある。そう考えて、一応は上官の頼みなので断る訳にもいかない。
「・・・・・・まあ、孫策様と黄蓋様の指示でしたら断る訳にも行きませんね・・・軍曹」
「了解です・・・・・・・・・訓練中断‼全員集合‼」
軍曹が拡声器を使用してルーキー共に命令すると、奴等は全速力で整列していく。その素早さは15秒も掛かっていないだろう。
「全員傾注‼これよりこちらの太史慈殿も貴様等の指導を行なわれる‼心して描かれ‼」
『S・・・Sir Yes Sir!!』
「声が小さいぞオカマ野郎共‼」
『Sir Yes Sir‼‼』
何やら新兵の様子がおかしい。最初の頃と比べたら声の大きさで怒鳴られるのは久しぶりなのだ。更に奴等の額からは冷や汗が流れている。
「では・・・お願いします」
「は・・・ひゃい‼」
噛みながらも返事を返したら美花はオドオドしながら前にでる。今にも泣き出しそうだ。
心配になってきた南郷が話し出そうとした直前、祭殿が何かを思い出して美花に話しかける。
「ほれ美花よ。これを忘れておるぞ♪」
「あ・・・し・・・しゅみましぇん」
『‼‼????』
祭殿が取り出したのは美花の背丈よりも長い弓だ。確かに弓の名手である太史慈ならおかしくは無い。
しかし弓を受け取った瞬間にルーキー共の顔が引き攣った。それもそれは分かり易いくらいの“恐怖”によるものだ。
なぜそんな反応を見せているのか考えている中、彼女が俯きながら足幅を肩幅にまて広げて、大きく息を吸い込み・・・・・・。
「てめえ等なぁにしけたツラしてんだクソ野郎が‼ぶっ殺されてぇのか‼ああぁん⁉」
『‼‼????』
「・・・・・・・・・」
物凄い怒気を秘めながら罵声を浴びせ始める。その状況にルーキー共は顔を真っ青にして、南郷達は空いた口が塞がらなかった。
「返事はどうした⁉その臭っせえ息吐くしかねえクソ口は飾りか⁉分かったらさっさと返事しやがれ‼ぶっ殺すぞ‼」
『S・・・Sir Yes Sir‼‼』
誰かこの状況を説明して欲しい。先程までの可愛らしい表情の面影は無く、南郷達以上の罵声を浴びせる修羅のような表情が、今の彼女だ。
「分かったらとっとと建業の周りを走ってきやがれぇ‼‼」
『S・・・Sir Yes Sir‼‼』
彼女がそういうとルーキーは全速力で建業の外に走り出す・・・・・・否、正確には全力疾走で逃げ出す。それもそうだ。
彼等の最後尾からは阿修羅をも凌駕する恐ろしい表情をしながら、弓矢を連発する美花が追いかけて来ていたのだ。
「うぉらぁ‼あたいに追い付かれたクソは弓を打ち込んで殺してやる‼嫌だったら死ぬ気で走りやがれぇぇぇ‼‼」
どっちにしても死ぬ。呆気に取られながら南郷達は突っ立っている。
「・・・・・・南郷大尉?」
「・・・何だったんだ・・・・・・今のは?」
『・・・さぁ・・・』
俺達はあの状況に反応に反応しきれずにいた。その直後に雪蓮殿達に聞いたのだが、彼女は三重人格者らしく、弓を持つとああいう風に凶暴になり、双斧を手にすると甘寧みたいに無口になるらしい。
彼女による“訓練"という暴走から帰って来たのはその日の深夜で、新兵は魂が抜けたような表情をしていた。それでも一切疲れていない美花は尚も走らせようとするが、南郷が弓を預かると元にもどった。
そして俺達訓練担当官達に暗黙の了解が可決した。
“この子に鍛錬中は弓を渡すな”。これが決まりとなった。
何処の世界にも孤児がいる。イリーナ中尉が慣れない土地での警邏を1人の武将がサポートする。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[心優しい龍]
子供達の笑顔が満ちる。
キャラクター設定
太史慈 子義
孫呉に仕える武将の1人で、可愛らしい少女。極度なまでの恥ずかしがり屋で、上手く人と接せないでいる。
しかし弓を手にすると真逆に正確が反転して、ライル達も真っ青の凶暴な性格になる。