第3話:2人の武将
後漢末期に降臨したウルフパック。情報収集に専念しているある日、ライル達の前にある武将が現れる。
ジーンからの依頼を受けて俺が率いるウルフパック総数427名は約1800年前の後漢末期に降臨した。
現在は司州北西部に位置する河東の山岳部に野営陣地を構築して諜報活動に従事している。幸いにも近くに集落があり、情報をもらいに赴いた際には盗賊団に間違えられたが、俺達が遥か西の羅馬から北に進んだ小国からやって来た傭兵団と説明すればすんなり情報を提示してくれた。
今のところで入手できた情報は二つ。一つは洛陽からの情報だ。時系列から考えてた今の洛陽を納めているのは“乱世に蔓延る悪鬼”と称された董卓 仲穎だが、この世界の董卓は圧政を敷いておらず、むしろ民の安全と生活を第一に考える慈悲に満ちた当主らしい。
しかし現在、豫州を納める袁家当主の袁紹 本初が諸侯に“帝を手駒として洛陽に暮らす民を苦しめる巨悪の根源、董卓を打ち滅ぼし、苦しむ民と我等の帝を救い出して大平の世を!!”という轍文を送っている。
次の情報がその袁紹に関する情報だ。この世界の袁紹は自分が名族という理由だけで他の将より優れていると勘違いしており、権力の横暴、私腹を肥やすために民に対して圧政に続く圧政。噂では既に多数の餓死者が出ている。
この世界に君臨して一ヶ月。ひとまず入手した情報を纏めるために野営陣地内部の指揮所に俺を含めたウルフパック部隊長クラスの兵が集まっていた。
「・・・・・・・・・以上が我々が入手した情報であります」
「ご苦労、座ってくれ」
報告を終わらせた少尉は自分の椅子に座る。俺達の服装は米海兵隊の正式採用迷彩服であるMARPAT ピクセルグリーンデジタル迷彩服。主力ハンドガンのM45が入ったCQCホルスターを取り付けたピストルベルト。ピクセルグリーンの野戦帽やウルフパックの部隊章が入ったブラックベレー帽を頭に嵌めている。
「次は各勢力に関する情報だが、アレックス。頼む」
「分かった」
指名するとウルフパックの副官を務めるアレックス・ヴォード少佐が立ち上がる。彼は俺の相棒であり、同時に2人で幾度の激戦区を潜り抜けて来た歴戦の猛者でもある。
「俺の部隊が入手した情報は2つ。時系列的に考えると荊州東部にある長沙で太守をしていたのは“江東の虎”と称された英雄孫堅 文台だが・・・・・・」
「どうかしたのか?」
「孫堅は既に戦死しているんだ、劉表との戦で・・・・・・」
その言葉に三國志に詳しい部下と俺は驚愕した。確かに孫堅は劉表討伐の際に襄陽で黄祖の伏兵によって射殺されたとされているが、それはあくまで陽人の乱が終結した後の話である。
「孫堅戦死後、孫策 伯符が継いで劉表を討伐したが荊州軍を抑え切れずに撤退。今は袁術の客将をしている」
「流れそのものは合っているが発生するタイミングが早まっているということか・・・・・・・・・他には?」
「まだある。次は劉備義勇軍に関する情報だ」
「劉備とはあの劉備か?」
「ああ、劉備 玄徳。関羽 雲長と張飛 翼徳の2人と“桃園の誓い”を立てた蜀の初代皇帝になる仁徳の王だ」
恐らくではあるが三國志の中で最も有名なのが劉備達による桃園の誓いだろう。
“我ら三人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わん”
俺達の前世でもかなり有名な話であり、俺自身も好きな句でもある。
「少佐、確かに劉備の存在は有名ですが、
それがどうかしたのですか?」
「それを話す前に手元の情報に目を通してくれ」
「なになに・・・・・・“黒天を切り裂いて、天より飛来する一筋の流星。それは輝く純白の衣を身に纏い、光り輝く二筋の刃を手に取る勇敢なる英雄を乗せ、乱世を鎮静す。そのものは天の御遣いなり”・・・・・・なんだこれ?」
「黄巾の乱より前に大陸中に広まった予言だ。管路という予言者が広めて、その天の御遣いが劉備義勇軍と行動を共にしているらしい。この時代には不釣り合いの剣術と戦術を用いてな」
そういうと俺も情報に目をやる。それによると御遣いが現れたのは黄巾の乱が発生する少し前で、名前は不明だが現代戦術や結果が分かっていたような行動をするらしい。
ジーンから聞かされている情報と合致しているが、まだ情報が不足している。
「確かに気になるな・・・・・・」
「ああ、だが情報が欠如しているな・・・・・・今後の方針は?」
「もうすぐ開戦になる戦は確実に“陽人の乱”だ。俺達も戦に参加しようと思うが問題はどちらの陣営に組するかだ」
確かに今後の情報を得る為には陽人の乱への参加は必然。しかし今までの情報を統合すれば、董卓は他者からの妬みをかわされただけで、連合そのものが悪になる。特に袁紹は解放など考えていない筈で、奴の狙いは洛陽を手に入れて権力の中枢を獲得すること。
そんな奴に協力する気などさらさらないが、董卓軍に協力するとしても情報があまりにも少なすぎる。
方針を話し合っているとテントの中に部下の伍長が飛び込んで来た。
「会議中に失礼します!!」
「どうした?」
「ハッ!!偵察斑より報告!!東から騎馬部隊が接近しています!!」
その報告を受けて全員が表情を強張らせる。報告だけでは勢力が不明だが敵の可能性だってある。
「中佐!!」
「会議は中止だ!!部隊に戻って指揮を執れ!!」
『了解!!』
そういうと全員がテントから飛び出して行く。俺も急いでHK416+M320A1を手に取って最前戦に駆け寄る。双眼鏡を取り出すと騎馬部隊が接近している方角を見る。
「・・・・・・ライル」
「見えてるさ・・・“紺碧の張旗”に“漆黒の華旗”だろ?」
「そうだ、そしてここから東の勢力で牙門旗に張と華が入る武将といえば・・・・・・」
「董卓軍所属の“神槍”張遼と“猛将”華雄だろ?」
接近している部隊は董卓軍配下の張遼 文遠と華雄。特に張遼といえば後に魏軍に参加して曹操が信頼を寄せた武将とされる。
「どうする?」
「ひとまずは様子を伺う。だが両方とも騎馬戦術のスペシャリストだ。戦闘になると突破力は計り知れないぞ」
「いえてるな・・・・・・・・・単騎掛けで2人来るぞ」
双眼鏡を覗き込むと確かに騎馬部隊から先行する2人が確認できた。部下達がそれに気付き武器を構えるが、無線で待機続行を指示する。
「武器を収めよ!!こちらに交戦の意思は無い!!」
接近中の傍が大声で叫ぶ。それを示すかの様に、確かに武器は見当たらない。だがそれだけで警戒を解除する訳にはいかない。
ひとまずは俺とアレックスが出迎える為に歩み寄る。
「馬上から失礼する!!羅馬より北の小国から来た傭兵団とは貴様達か!?」
馬でやってきたのは2人の女性で、1人は後ろ髪を束ねた紫色の髪で、胸をさらしで巻き、袴を羽織った女性で、もう1人は俺と同じ銀髪で胸元とヘソを出し、蝶柄と銀の装飾を施した目線が鋭い女性だ。
2人の共通点とすれば“大胆な服装の美女”だ。
「そうだが・・・・・・すまないが姓名と所属を教えてくれないか?」
「私は董 仲穎様が家臣!!都尉をしている第4師団師団長の華雄だ!!」
「うちは騎都尉しとる第3師団長の張 文遠や!!しっかり覚えてや!!」
俺とアレックスは彼女達の名前を聞いて驚愕する。何しろ目の前にいる2人が神槍と猛将なのだから・・・・・・。
次回予告
ライル達の前に現れた張遼と華雄。しかし2人が女性であるということに驚愕する。
そして彼女達の目的は・・・・・・。
次回 真・恋姫無双 海兵隊の誇り.Re[進路を洛陽へ]
狼達が行動に移る。
※次回は本編ではなく、主人公のライルと副官のアレックスを紹介いたします。