第23話:魏の刃
連合軍による虎牢関への総攻撃が開始された。ライル達の相手は曹操軍。精鋭部隊を相手に苦戦する。
虎牢関での戦闘が開始されてから5日が経過。流石に戦力の大半を失ったことで、袁紹軍は後方に撤退していくが、レイヴンからの偵察写真によると、交代に曹操軍、馬騰軍、そして劉備義勇軍と公孫瓚軍が前に出てきた。
予想よりも早い攻撃開始に戸惑いつつも、防衛を開始する。
しかし実をいうと、既に俺達の準備は完了している。本当なら別に防衛に出る必要はないが、相手は突破力に長けている。ここで下手に退却しても追いつかれる可能性がある。
そこで恋達が“打って出る”という案を利用して、一度だけ打って出てから怯んだ隙に退却することにした。
恋とアレックスには劉備義勇軍の相手を任せ、嵐と霞とレオンには馬騰軍、そして俺達は曹操軍を攻めるべく、最前戦右翼で戦闘を繰り広げていた。
「撃ち続けろ‼敵を近付かせるな‼」
「こいつ等‼かなりやるぞ‼」
「くそっ⁉やられた⁉」
「負傷者を退がらせろ‼」
曹操軍の猛攻に俺達は苦戦しながらもなんとか持ち堪える。しかしいま相手にしている曹操軍兵士の装備が他と違う。
黒一色の鎧に青色の手甲と青色のマント、猛禽類を思わせる兜、顔がばれないように配慮されたと思われる黒の覆面だ。
事前情報では、曹操軍は練度の高い精鋭部隊から更に厳選した最精鋭部隊“黒騎兵”と呼ばれる部隊がある。恐らくはこいつらだろう。
敵の装備は“盾牌剣”と呼ばれる片手剣と盾を装備した西洋風の編成で、全体的にバランスが取れている。
「負傷者は後方に退かせろ‼敵を侮るな‼油断すると殺られるぞ‼」
「中佐‼上です‼」
部下に言われて見上げると、俺に斬りかかろうとする敵の姿があった。HK416+M26 MASSを構えるが逆光で眩し過ぎる。
素早く横に回転しながら回避すると、俺がいた場所には1人の女性がいた。赤いチャイナ服に黒いロングヘア、右肩に髑髏の肩当てを取り付けている、目力が凄まじい女性だ。
「我は魏王、曹 孟徳様が刃‼夏侯惇 元譲だ‼貴様が傭兵隊の長か⁉」
自らを夏侯惇 元譲と叫ぶと大剣の切っ先を俺に向ける。夏侯惇といえば正史で曹操が最も信頼したとされる武将で、曹操が亡くなって暫くしてから後を追うように亡くなったとされる猛者だ。
「・・・・・・そうだ。海兵隊指揮官のライルだ。俺に何か用事か?」
「華淋様が貴様に用事があられる‼私と来てもらうぞ‼」
その言葉に俺は表情を変えずに驚く。個人的に武将として尊敬している曹操が、俺に興味を示して連れてくるように仕向けたのだ。
しかし今はそんな場合ではないし、そんな気も毛頭無い。
「それは無理な相談だ・・・俺達は董卓軍に雇われている身だ。一方的な契約破棄はしたくない。どうしても連れて行きたいんだったら・・・・・・」
そう言うと俺はHK416をスリングから取り外し、部下に預けると神斬狼を構える。
「この俺を倒してからにしろ‼‼」
「ふんっ‼いいだろう‼我が七星餓狼の前にひれ伏させてやる‼」
そう叫ぶと夏侯惇は凄まじい勢いで、俺に斬りかかって来た。それを受け止めるが予想以上に力が強力で、受けた反動を流すべく後方に飛び上がった。
「中佐‼・・・・・・・・・ぐっ⁉」
部下の何人かが援護しようとしていたが、足に弓矢が突き刺さって撃てなかった。
「姉者の邪魔はさせない」
弓を射たのは夏侯惇とは色違いの青色のチャイナ服に水色の髪、左肩に髑髏の肩当てを取り付けた少女だ。
夏侯惇を姉者と呼ぶなら、恐らくは彼女が夏侯淵 妙才だろう。正史で夏侯淵ていえば夏侯惇と共に曹操を支えた弓の名手だが、定軍山での戦いで蜀軍の黄忠 漢升に討ち取られた。
「はぁああああああああ‼‼」
「くっ⁉」
夏侯惇は俺に凄まじい斬撃を仕掛けてくる。魏の大剣とも呼ばれる彼女の剣術は一撃が重く、尚且つ素早い。例えるなら恋の実力の一歩手前。
だが確実に霞や嵐よりは実力が上だろう。しかし俺も負けてはない。神斬狼でこちらも機動力を活かした素早い攻撃を仕掛ける。夏侯惇の武が“力”なら俺の武は“素早さ”を基準にする。そして互いの刃がぶつかり合う。
「ふん‼なかなかやるじゃないか‼」
「・・・貴様もな」
夏侯惇の攻撃で俺も若干のコンバットハイになっていたその時、そのテンションはいきなり低下させられる。
いきなり何処からか一本の弓矢が飛来して、それが夏侯惇の左目に突き刺さったのだ。
「ぐっ・・・・・・ぐぅううう⁉」
「姉者⁉」
「ちぃ⁉誰だ邪魔しやがったのは⁉」
弓矢が飛来した方角を見ると、そこには弓を構えた金色の鎧を身に纏った敵を見つけた。袁紹の兵だ。
恐らくは俺を仕留めようとして、もしくは袁紹本人の差し金だろう。しかし一騎打ちを邪魔されたといいのには変わらない。
「クソ野郎が‼あのクソ野郎を殺せ‼」
俺がM45を構えて命令を下すと、部下達が一斉に発砲する。凄まじい弾幕で袁紹軍兵士は文字通り“蜂の巣”となり、最後の一撃で撃ち出された40mm弾の斉射で木っ端微塵となる。
「か・・・夏侯惇将軍が⁉」
「夏侯惇将軍が倒れた⁉」
「やられたのか⁉」
いきなりの出来事に敵は動揺を隠せずにいた。しかしその状況に1番不味いと判断しているのは夏侯惇本人だ。
優秀な将軍である彼女なら、動揺による士気の低下がどれだけ不味いことか、よく理解している。
自分の姉が負傷したことで夏侯淵が血相を変えて駆け寄る。
「大丈夫か⁉姉者「来るな秋蘭(しゅうらん/夏侯淵の真名)‼‼」えっ・・・?」
大声で妹を静止すると、ふらつきながらも何とか立ち上がって曹操軍将兵に振り向く。
「聞け‼我が勇敢なる魏の精兵達よ‼これしきのこと、この夏侯惇の武を恥ずからしめるもなではない‼
この身に受けた傷などで我が猛った心が怯むことは無い‼
私はただ、名を傷つける事をいとおおう‼
魏の将兵達よ‼見よ‼我が猛勇を‼そして感じよ‼魏武の思いを‼」
魏兵に演説をしながら左目に突き刺さった矢を握り締めると、全員が驚愕した。
彼女は自ら突き刺さった目と共に矢を引き抜いたのだ。
「身体髪膚‼これ父母にうく‼たとえ片眼を失ったとて、我が武の猛りは未だ冷めず‼
心中渦巻くは敵を叩き伏せんが為の炎‼
将よ見よ‼
兵よ見よ‼
我が眼と共に、その身の惰弱を飲み干して、魏の妙門を天に高々と名乗りあげよ‼
天は我等と共にあり‼我が片眼は天への供物と心得るがいい‼‼」
そういうと俺達は思わず息を呑んだ。彼女は自らの片眼を飲み込んだのだ。後に有名となる“盲夏侯”だ。
自分の片眼を飲み込むと、息を荒くしながらも再び叫ぶ。
「ハァ・・・ハァ・・・供物は捧げられた‼これよりは、我が身を“天兵”と心得よ‼
立よ将‼
立よ兵‼
虎牢関を突破し、いざとく行かん‼帝都洛陽へ‼」
「おお‼流石は夏侯惇将軍だ‼」
「戦うぞ‼俺達はまだ戦える‼」
「俺達には天兵の夏侯惇将軍がいる‼俺達は勝てるぞ‼」
夏侯惇の凄まじい演説で士気が低下していた曹操軍兵士が息を吹き返して来た。
しかしそれは俺達も気分が高まった。これほど勇猛で、誇りに満ちた敵は見た事が無い。
「ならば立て‼剣を取れ‼弓を構えよ‼虎牢関を突破し、目の前にいる敵兵を・・・・目の前にいる精兵の傭兵共を・・・殲滅せよ‼」
『応‼‼』
「全軍整列‼鋒矢の陣のまま、城塞内部に突撃せよ‼魏武の強さを天に見せ付けてやろうぞ‼‼」
『うぉおおおおおおおお‼‼』
士気をこれまでになく高めた曹操軍は矢の形をした正面突破に特化した陣形[鋒矢の陣]で突撃を開始する。
しかし我に帰った俺達はすかさず銃撃を行なうが、敵は怯むどころかこちらに向かって来た。
「中佐‼これ以上は‼」
「これまでか・・・A中隊は退却だ‼全部隊に通達‼魏の大攻勢だ‼直ちに戦闘を中止して退却しろ‼」
「了解‼」
「待て‼逃げるのか⁉」
「夏侯惇 元譲‼貴様の誇りは見事だ‼だが消耗しきった状態では戦えまい‼決着は次にお預けだ‼」
夏侯惇の静止に耳を貸さず、俺達は銃撃を加えながら虎牢関に退却を開始する。
「ウルヴァリンからウォーハンマー‼敵が大攻勢に出た‼直ちに阻止砲撃を実行しろ‼適当で構わない‼とにかく撃ちまくれ‼」
<了解‼退却を援護します‼>
ウォーハンマーによる援護砲撃で魏兵は若干だが速度を落とし、その隙に俺達は退却した。
城門を固く閉ざすとすぐに虎牢関を放棄して退却を開始。
ウルフパックに戦死者は出なかったが負傷者は87名。先にB、C中隊と共に合流地点である荊州の南陽へと向かわせた。
董卓軍の被害は甚大で戦死者は5万に及ぶ。しかし何とか霞達は俺達と合流を果たし、僅かな部隊と共に洛陽へと向かう・・・・・・・・・・・・。
何とか時間を稼ぎ、無事に洛陽に帰還しらライル達。しかしそこで問題が生じた。
董卓軍の一部隊による反乱。
兵力の大半を南陽に向かわせたことで苦戦するが、ライル達の前に御遣いと小覇王が駆けつける。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[三英雄]
3人の英雄が少女を救う。
※オリジナルキャラクターに付いて報告があります。