第220話:乱世の先の未来
乱世の終結。それは新たな時代の到来を意味していた。
あの歴史上最大の大激戦となった赤壁の戦いから2ヶ月が経過した。曹操を新野にて追い詰め、戦が終えてようやく乱世が終わると思っていたがそうはいかなかった。
赤壁にて大敗したことを察知した司馬懿率いる晋軍による一大武装蜂起。これにより魏は司馬懿により奪われる形となり、疲弊していた連合軍は苦戦を強いられてしまったが晋内部で鍾会が反乱を起こす。
これにより晋の勢いは削がれ、鎮圧は直ぐに行なわれた。その戦により捕らえられた鍾会は斬首。司馬懿は牙刀との一騎打ちにより敗北、息子の司馬師と司馬昭、俺達に未来を託して妻の張春華と共にこの世を去った。
そこから間を置かないで五胡が攻め込んで来たが、絶大な団結力を持った俺達に叶う筈もなく、被害拡大を防ぐ為に指導者の姜維は終戦協定を提案。これにより呉、蜀、魏、五胡による統一国家が締結された。
全ての戦いを終えた俺達は家族が待つ建業へ凱旋し、街では連日に渡って祭りが行なわれた。
そして俺はコーヒーを片手に城壁で祭りを眺めていた。
「…………ふぅ…やっと………終わったんだな……」
全ての戦いが終わって安堵の溜息を吐き出す。
「…いや……これからだな………全てはこれからだ……」
国内での戦いは確かに終わった。だがいずれは外界からの侵略が来ない保証などどこにもなく、この勝ち取った平和を守り続けるのが今後の俺達の使命だ。
コーヒーを飲んでいると階段から誰かが歩いてきた。それは誰かがなんてすぐに分かった。
「あ〜♪やっぱりここにいた♪」
現れたのはやはり雪蓮だった。あれから彼女は母親になるということを皆に伝え、呉の王座を蓮華に継承した。
そして妊娠数ヶ月の雪蓮のお腹は赤壁よりも大きくなり、自らは隠居生活を送ることを決定した。
「どうしたんだ雪蓮?」
「もうっ‼︎それはこっちの台詞よ〜………折角のお祭りなんだからライルも楽しまなきゃ損よ♪」
そういいながら雪蓮は俺の隣に座って俺の肩に頭を乗せてきて、俺も彼女の肩に手を置いて寄せると頭を同じように乗せて密着させる。
「………終わったのね…」
「あぁ……長かったな」
「これで…民が笑って平和に暮らせる……父様や母様が望んだ平和………やっと来たのね…」
「民の笑顔が勝ち取った平和を象徴している……だが本当の戦いはこれからだ」
「そうね……だから私達はこの平和を守り続けなければならない………この平和の為に散っていった人達の為にも…」
「そうだな………」
そう……この平和は計り知れない尊い犠牲があったからこそ実現したものだ。だからこの平和を守り続けなければ死んでいった全ての者たちが無駄になってしまう。
「それよりライル……ライルはこれからどうするの?」
「なにが?」
「一刀から聞いたわ。あなたを新国家の相国になって欲しいって……だけど保留してるらしいじゃない」
「まぁな………今はまだ決め悩んでいてな……」
相国………宰相、総理大臣の名称だが、人臣の最高位で国のNo.2となる存在だ。一刀からも相国となって国を導いて欲しいと頼まれているが、一ヶ月以内に答えを出すという条件で保留にしてもらっている。
「自信がないの?」
「そうじゃない。いきなりだったから考える期間が欲しかっただけだ。期限までに答えを出すよ」
「そう……」
「それに………俺にはまだやるべき大仕事があるからな」
そういいながら俺はコーヒーカップを置いて雪蓮を立たせる。彼女の表情は夕日に照らされて非常に神秘的な美しさを醸し出している。
「雪蓮………赤壁での言葉……覚えてるか?」
「………えぇ」
「俺の気持ちは今も変わらない。むしろ強くなったともいえる………だから改めて言わせてくれ」
そういうと俺は雪蓮の左手を取り、彼女から一旦返して貰っていた指輪を取り出して、それをゆっくりと彼女の左薬指に嵌めた。
「雪蓮………俺と……結婚してくれ」
そういいながら左手を軽く握り、笑顔でこちらを見る雪蓮に俺は左手を見せる。そこには俺がこの世界に来てから暇を見つけては時間を掛けて作った婚約指輪が嵌められていて、ジーンに頼んだ貴重な宝石…アレキサンドライトが輝いていた。
雪蓮は同じように左手を見せ、泣きそうなくらいに嬉しそうな表情をしながら俺の胸に飛び込んで来た。
「………はい……私は……あなたの……妻になりたい…愛してるわ……ライル」
「俺もだ……雪蓮。俺の……妻になってくれ……」
互いの気持ちを再確認し、俺達は目を閉じて唇が近づこうとしたその時、少し離れた場所から人の気配。それに気付いて振り返るとそこには………。
「お〜い、何処か他でやれ♪」
アレックスやレオン達、蓮華達。更には一刀達蜀の面々や曹操と牙刀達魏の重鎮。更には俺達に力を貸すことになった司馬師と司馬昭達、更には姜維の姿があった。
それだけではない。気が付けば城の内外問わず軍民が歓喜の声を挙げていた。
「くふふ…………大きなお世話だ♪」
そういいながら気にせず雪蓮を抱き寄せ、夕日を背景に彼女とキスをした。
それから一週間…………俺は黒い蝶ネクタイ・黒のズボン・赤色のカマーバンドのディナードレスを身につけてある場所にいた。
そこは雪蓮のご両親である孫堅様と呉狼様の墓前。彼女の希望で2人にもドレス姿を見せたいことでここになったのだ。
そして左右には式に参列してくれた一刀達。その中央に敷かれたレッドカーペットのヴァージンロードで、俺は息を飲んだ。
そこには明るい桃色のドレスを着て、クラス‘‘B”ブルードレスを着用した冥琳殿と祭殿に付き添われた喝采を浴びる雪蓮の姿があった。
その美しさは言葉で表すことは不可能だ。それほどにまで美しい。ゆっくりと歩いてきた雪蓮はブーケを両手に持ちながら俺の隣に立ち止まる。
「今日…この2人は結ばれます」
俺達の目の前には神父役を引き受けてくれたアレックスがいる。
「私達は、この記念すべき場に立ち会うことが出来ました。ここに生あることを心から感謝し、2人の永遠の愛を祈りましょう。
この先、多くの困難が待ち受けているでしょう。しかし愛し合う2人が手を取り合い、それを乗り越えることを信じています。ライル・L・ブレイド、あなたはこの孫策 伯符を妻と認め、終生変わらぬ愛を誓いますか?」
「誓います」
「孫策 伯符。汝はこのライル・L・ブレイドを夫と認め、終生変わらぬ愛を誓いますか?」
「……はい…誓います」
「では2人を夫婦と認め、永遠の愛の証として指輪の交換を執り行います」
そういうと俺達の義妹となる美羽と美花が俺達の婚約指輪を持って来て、それをまずは俺が手に取り雪蓮の薬指に嵌める。
続いて雪蓮も同じように指輪を手にとって俺の薬指に嵌めた。
彼女を見るとベール越しに嬉しそうな表情をしながら涙を流している。その涙を拭いながらだ。
「母様…父様……私………幸せになります……2人のように幸せに………立派な母になります…」
(……義母様……義父様………俺は誓います。この命が尽きても…雪蓮を守り…愛することを…….)
心の中で義理の両親となる2人に誓う。
「では…2人を夫婦と認めます」
アレックスの言葉に俺はベールをゆっくりと捲り、雪蓮を見つめる。意図を理解したのか、ゆっくりと目を閉じる。俺も目を閉じて、想いの全てをのせて雪蓮と口付けを交わした。
これまで何度も雪蓮とはキスをしたが、今日ほど心の底まで満たされるキスは初めてだ。
そして唇を離した直後に割れんばかりの拍手が俺達に送られ、雪蓮は少し身を屈めた。
「さぁ♪次に幸せを掴むのは誰かしら♪」
そういいながら彼女はブーケを投げ、投げられたブーケを手にしたのは何と凪であった。
「あぁ〜‼︎凪ちゃんが花束を取ったの〜‼︎」
「ほんなら次の幸せ者は隊長と凪っちゅ〜こてになるな〜♪」
「なっ⁉︎…わ……私が…隊長と……」
「……………」
ブーケを手にした凪は顔を真っ赤にしながら俯き、珍しく牙刀も頬を赤くして照れ隠しのつもりか頬をかいていた。
その微笑ましい光景に俺達は自然と笑みを浮かべ、不意に互いを見た。
「ふふふっ♪これからよろしくね♪旦那様♪」
「あぁ……必ず君を幸せにするからな……」
笑顔でいいながら自然に俺達は再び口付けを交わす。
乱世の果てに勝ち取った平和。恐らくは困難な戦いが待っているだろう。だが俺達ならそれすらも乗り越えられると確信している。
未来を勝ち取った俺達なら…………。
5年の時が過ぎた。乱世で傷付いた大地は実りを蘇らせ、民の笑顔に溢れて国が栄える。
未来を勝ち取った英雄達はそれぞれの人生を歩み、ライルと雪蓮も幸せな生活を送っていた。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
最終回[A Marine Corps's Pride]
平和を満喫する英雄。戦士達はそれぞれの平和を満喫する。