第219話:誇り
銀狼のライル。魏武の龍こと牙刀。好敵手と認め合う2人の決着が遂に決まる。
曹操を追い詰めたのも束の間、脱出を援護していたであろう牙刀が俺達の前に立ち塞がった。
このままだったら奴を倒さなければ先には進めない。だから俺は牙刀を引きつけて一刀を先に向かわせることにした。
辺りで連合軍と曹操軍の戦いが繰り広げられている中、俺達は互いの得物を構えて動かないでいた。
「「………………」」
互いに機会を伺う。そんな中、俺達のちょうど真ん中辺りに一本の流れ矢が突き刺さる。
「「‼︎‼︎‼︎」」
それを合図に地面を力強く蹴り、瞬く間に刃をぶつけ合う。
「でりゃあぁあああ‼︎‼︎」
「はっ‼︎‼︎」
牙刀が偃月刀を斜めに振り上げ、それを回避すると石突で薙ぎ払う。それを受け止めると雪で左から右へと振り払うが奴は姿勢を低くすることでかわし、反動を利用しつつ回転しながら偃月刀を突き出す。
今度は雷で逸らし、斬撃と蹴り技を組み合わせながら牙刀を翻弄する。
だがそこは魏軍筆頭の武将だ。向こうも同じように斬撃と蹴り技を匠に使い分け、回し蹴りを回避すると牙刀は右足を前に出しつつ、そのまま正拳を見舞う。
すかさず反応した俺はショートグレイブを重ねて防御するも、10mは吹き飛ばされる。その隙を突くように刺突を繰り出してくるが、素早く体制を立て直した俺は身体を少し右にずらし、両脇で偃月刀を挟むとそのまま回転して牙刀を投げ飛ばす。
向こうも同じように素早く体制を立て直し、偃月刀を構え直す。
それから再び睨み合いだ。
「………フッ……」
「何がおかしい?」
「いや………嬉しく思っていてな……思わず笑みが零れてしまうようだ」
「嬉しく?」
「私は人生を面白く感じるのだ……曹操殿に仕え……夏侯惇殿や夏侯淵殿達と出会い、凪達と仲間となり………そして貴殿という好敵手とも出会えた……これが嬉しくならない訳がない」
「………その点に関しては同感だな……俺もお前と闘えて嬉しく思う……もし俺達が最初に出会っていれば、仕えた主が曹操だったかもしれない……」
「だが……そうはならなかった………運命とは皮肉なものだ」
「あぁ……そうなっていれば俺達はよき理解者になっていたかもな……」
「しかし………私は魏に仕え…」
「俺達は呉に降った………それは紛れもない真実だ」
「うむ………ならばやるべきことはただ一つ…………」
「………そうだな……」
そういいながら俺達は再度構える。
「互いの武勇と信念を掛けて‼︎‼︎」
「誇りと愛国心を掛けて‼︎‼︎」
「徐晃 公明‼︎‼︎」
「ライル・L・ブレイド‼︎‼︎」
「いざ尋常に‼︎‼︎」
「推して‼︎‼︎」
「参る‼︎‼︎」
互いの全てを掛けて俺達は激しくぶつかり合う。牙刀は身体を回転させながら赤龍偃月刀を連続で振り上げ、最後に6回目で一気に振り下ろす。
それを受け止めて軽く飛ばすと俺は間髪入れずに突きを見舞う。牙刀にはそれを受け止められ、今度は雪を振り上げるが弾き返される。
そのような攻防戦が激しく続けられ、瞬く間に30合、40合、遂には50合を軽く越えて、いつの間にか俺達は崖の上にまで登っていた。夢中になって気がつかなかったが、赤壁に雨が降り注ぎ、炎上中だった曹操水軍の船団の火災を鎮火していく。
近くで部下達による銃声が鳴り響く中、俺達は引き続き斬り合いをする。
「はぁ‼︎」
「ぐっ⁉︎……でりゃああ‼︎」
「がっ⁉︎」
疲れが出てきたのか、最初に牙刀の偃月刀が俺の左腕を掠り、雷を地面に落としながらも雪にて牙刀の右腕を斬る。
互いに軽傷ながらもそこから血が流れ出し、足下に垂れ落ちる。
しかしアドレナリンが身体中から溢れ出て、コンバットハイとなっている俺達は痛みを感じることがなく、互いの身体中に切り傷がどんどん増えていく。
その間も70合、80合と数値を重ねていき、やがて100合を突破させた。かつて関羽と徐晃が戦った際には80合続いたとされていたが、今回はそれを大きく上回る程の激戦だ。
だが幾らアドレナリンが体内に回っているといっても100合以上続けたら流石に疲労が隠せず、俺達は肩で息をしている状態だ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
今や得物を持つだけでも重労働とも思える位に身体が重い。互いにふらつきながらも力を振り絞り、ショートグレイブと偃月刀を振るった。
「⁉︎」
「…………」
衝撃に手の力が負けたようであり、互いに武器を手放してしまう。だが倒れるのを何とか抑え、握り拳を作って構える。最終的には拳で決着をつけるということだ。
「はぁ…はぁ………でりりゃあぁ‼︎」
「ぐっ……うらぁああ‼︎」
ふらつきながらも互いの顔に拳を見舞う。額や口、鼻から血が流れだし、片目も青く腫れ上がる。そして互いの腕が重なり合い、取っ組み合いの格好となると俺達は頭を後ろに出す。
「「ふんっ‼︎」」
そのまま渾身の頭突きを食らわせる。それも何度もだ。そうしていく内に額を激しく切ったようであり、左目に血が流れ込んで来て目を開けられなくなった。しかしそれは牙刀も同じであり、奴は右目が開けられなくなっている。
だが俺達は闘うのをやめない。俺が殴り掛かると牙刀は姿勢を低くして回避し、そのままアッパーで顎を攻撃する。
少しよろけたが右足で踏ん張り、右ストレートを受け止めて奴の腹に一撃を与える。
それからはその繰り返しだ。俺が有利になれば一転して不利となり、逆に牙刀が有利ならば逆転して俺が有利となる。
「ぐっ……はぁ…はぁ……」
「ふっ……はぁ…はぁ…はぁ…」
ここまで格闘を続けていればもはや満身創痍の状態。はっきり言えば立っているのも辛い状態に陥っていて、視界もぼんやりとしてきている。
ここまで来たら武芸や技術などは関係がない。相手の根性を少しでも上回れば勝ちという状態となっている。
俺と牙刀はふらつきつつ、構える。
「はぁ…はぁ……はぁ…」
「はぁ………はぁ………………」
そして互いが攻撃範囲に捉えると………。
「「うぉおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎‼︎」」
右拳に最後の力を振り絞り、右ストレートが放たれる。そしてそれが互いの頬を捉え、顔に凄まじい衝撃が走る。
「……………」
「……………」
互いに沈黙が走る。だがそれはあまり長くは続かなかった。
「………………」
「………見事……だ………」
それだけ言うと牙刀は力が抜けていき、ゆっくりと倒れていく。俺はすぐに受け止めて姿勢を楽にしてやる。
牙刀の表情は悔しさなどは全く感じられなく、満ち足りた満足気な表情をしていた。俺は彼の腕を肩に回し、そのまま歩き出す。
「………よく頑張ったな……今はゆっくり休め………友よ…」
崖から降りた俺は牙刀を待ってくれていたスレイプニルに乗せてゆっくりと雪蓮が待っている本陣へと帰還する。
この戦いの後、赤壁に展開した曹操軍は総兵力50万の内の34万が失われ、軍備を纏めて新野へと撤退。
牙刀や凪達と有能な将や郭嘉などの軍師も捕虜となった。
決定的な戦力差を覆した連合軍も劉備軍5万、孫策軍7万が戦死。行方不明者や負傷者を含めれば更に膨れ上がるだろう。
俺達は軍備をすぐさま纏めて曹操軍を包囲するべく進軍するのであった。
誰もが笑って平和に暮らせる天下泰平の世界。これが夢物語ではなく、目の前に迫っていた……………。
赤壁の戦いから2ヶ月後、全ての戦いが終焉を迎えた。魏で反乱を起こした司馬懿率いる軍勢は駆逐され、姜維率いる五胡も撃退された。
平和を迎えた新野にてライルは雪蓮と共に過ごす。最後の仕事をする為に。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[乱世の先の未来]
未来を見つめる2人。将来に生きる。