第216話:42高地攻防戦
高地奪取に赴くレオン達。そこで久々に魏の知人と対面する。
俺達はいま、魏軍が展開している右翼で激戦を繰り広げていた。
俺が率いるC中隊と海兵隊第3大隊と第4大隊、明命率いる周泰隊は赤壁の右翼にある小さな丘‘‘42高地”を占領するために作戦行動をしているが、予想以上に激しい抵抗を受けて苦戦中だ。
「くそっ⁉︎倒しても倒しても切りが無いぞ⁉︎」
「でもここまで来て退けないです‼︎」
「凌統殿‼︎右に敵重歩兵‼︎」
「甘い‼︎」
俺達は其々の得物である龍舌と魂切、地破剛斧、飛燕で乱戦状態にて向かってくる敵兵を斬り伏せる。
事前情報によると、ここ右翼には魏軍屈指の団結力と戦闘力を有する青州兵が展開しており、海兵隊にも引けを取らない勇猛さを有している。
加えて水軍が壊滅して他の部隊の士気が落ちているにも関わらず、この青州兵は戦になれば士気は高まる。つまり相当厄介な相手だということだ。
「くそ⁉︎噂に聞いただけのことはあるな‼︎流石は青州兵って処だ‼︎」
敵の練度に感心しつつも、俺は龍舌で向かって来る敵兵を斜めに振り下ろして斬り捨てる。
目の前に槍を構えて刺突を繰り出して来たが身体を横に向けたことで受け流し、間近になった敵の顔に肘打ちを浴びせて隙を作り、素早くM45をCQCホルスターから抜き取って、そのまま銃口を額に突き付けてトリガーを弾いた。
「邪魔な敵は確実に仕留めて下さい‼︎油断せずにトドメを忘れないで‼︎」
『応っ‼︎』
明命は俺のすぐ側で小柄の身体を駆使して素早く敵の懐に飛び込むと魂切を突き刺し、抜き取ると柄頭で顎に一撃加え、そのまま振り下ろす。
その直後に数人が同時に槍と剣で仕掛けて来るも、近付かれる前に脚に取り付けられている苦無を取り出し、それを敵兵に投げつける。
「敵の勢いに飲まれるな‼︎黄蓋様が切り拓いた功が無駄にならぬよう戦い抜け‼︎」
優龍は地破豪斧を振り上げて敵を吹き飛ばし、隣の敵は振り下ろして叩き潰す。そのまま目の前にいた敵兵の顔を掴み、そのまま握り潰すと敵集団に投げ飛ばし、手甲‘‘火炎豪爆射”を構えてつぶてを敵に放つ。
「孫呉の未来を貴様等なんかに潰させはしない‼︎歯向かうならば容赦はしないぞ‼︎」
百合も負けていられないようだ。彼女は飛燕特有の多方向同時斬撃をフル活用し、いちど敵に包囲させて多方向からの刺突を背中を反らすことで全て回避し、飛燕の5本の刃が舞い踊るかのように敵を切り裂く。
各人が其々の武を振るい、その甲斐もあって徐々に戦局はこちらに傾いて来ているようだ。
俺も龍舌からHK417に切り替えて離れた場所の敵を射撃していると、目の前に見覚えのある人物。それはかつて建業にて成り行きでチンピラから助け出し、俺が経営しているメイド喫茶にまた来ると約束した古参兵とも言える少年達だ。
「「レオンさん‼︎」」
「やっぱり君達か…張 萬成。それに波才」
それぞれ剣と槍を構える2人。俺もHK417を背中に預けて龍舌を構える。
「元気そうだな…」
「レオンさんも…この節はお世話になりました」
「一応は客商売だからな。客を喜ばすのが副業の目的だ」
「流石ですね…」
「……2人とも…大人しく降伏してくれないか?」
「なにを…言ってるんですか?」
「そうです‼︎まだ私達は負けていません‼︎それなのに何で降伏なんかしなきゃならないんですか⁉︎」
「もう勝敗は決まった。魏の水軍は壊滅し、既に我が軍は魏軍の内部にまで深く入り込んだ。勢いに乗った狼を止める手段は残されてはいない」
「でも‼︎俺達にはまだ立て直せる程の兵力げあります‼︎貴方たち呉に勝ち目なんて‼︎」
「降伏するのは貴方ですレオンさん‼︎」
「君達のようないい子を殺したくはない。武器を置いて降伏し、家に帰れ」
「そっちこそ武器を捨てて下さい‼︎天和ちゃん達も会いたがってるんですよ⁉︎」
俺達は互いに降伏するよう促すが、話は平行線のままだ。これでは堂々巡りだと判断した俺は龍舌を力強く地面に叩きつける。
「このままじゃ話は進まんな……漢なら…いや………」
そういうと俺は龍舌を構え直し、鋒を2人に向ける。
「戦士なら……己の意思は闘いで語れ‼︎‼︎」
「くっ⁉︎この分からず屋‼︎だったら首に縄を掛けてでもあなたを連れて行きます‼︎」
「レオンさん‼︎天和ちゃん達の為にも貴方を連れて帰ります‼︎」
「レオン様‼︎」
「来るな明命‼︎この2人の相手は俺がする‼︎お前は2人と共に丘周辺の敵を駆逐しろ‼︎」
「はい‼︎」
そう指示すると2人は同時に斬りかかって来る。萬成は槍での刺突を繰り出し、波才も一糸乱れない動きで剣を振るう。
だが練度は一般兵よりも少し優れている程度で、俺は龍舌を少し動かす程度で攻撃を全て受け止める。
「くっ⁉︎まだまだぁ‼︎」
「反応が遅いぞ‼︎」
「ぐはっ⁉︎」
「萬成⁉︎でりゃあぁあああ‼︎‼︎」
「踏込みが甘い‼︎」
「ぐわっ⁉︎」
一瞬の隙を突き、萬成には龍舌を地面に突き刺してからの回し蹴り、波才には剣を吹き飛ばしてから頭突きからの前蹴りで吹き飛ばす。
「くっ…はっ‼︎」
「うらぁああ‼︎」
今度は2人同時の連携で来たが無駄だ。龍舌を手から放し、HK417で刺突を防ぎ、銃口でまずは波才の腹に一撃加え、怯んだ隙にストックで下から振り上げて顎に攻撃。
続けて萬成の左突きを防ぎ、鋒をずらすと右足を前に出して防左弾倉攻撃で顔に打撃を与る。
顔に打撃を受けてよろめく萬成に防左側撃という横打撃で彼をその場に倒す。
流石に今の格闘技が効いたようであり、痛みに這いずり回る2人の得物を遠くに蹴り離すとHK417の銃口を向けてホールドアップする。
「くっ…くそ……」
「なんて…強さだ……」
「よし、そのまま動くな」
額と口の切傷から少量だが血を流してこちらを見る2人だが、圧倒的不利にも関わらず戦おうとする。
「くっ……俺達は負けてられないのに…」
「天和ちゃん達が…3人を慕ってくれる人達笑える世界を…」
「それが2人の戦う理由か?」
「………あぁ….」
「私達はずっとそうして戦って来た……3人の歌を…大陸中に広める為に…」
「歌……か…」
「はぁ…はぁ…それなのに……なんで貴方達はそれを妨げる⁉︎」
「………なら一つ聞きたい………お前達は彼女達の歌を広めたいと言ったが…こうは考えなかったのか?」
「「?」」
「曹操が彼女達の歌を徴兵活動で利用しているのは聞いてる。歌は確かに人を惹きつける不思議な力があるが、それで徴兵されて戦場に行った者達が‘‘生き抜いて、また彼女達の歌を聴きに来てくれるか?”とな…」
俺の言葉に2人は言葉を失う。これまでの内部調査で天和、地和、人和の3人がかつて‘‘黄巾の乱”にて黄巾党を率いた張角・張宝・張梁だということは判明している。
彼女達の歌に不思議な力があるのなら一度聴けば彼女達のファンにすぐなるだろう。
だが今の乱世ではファンになった者達も戦場に赴き、再び歌を聴けずに散ってゆく。歌手にとってこれほど悲しいことはない。
「お前達のやっていることは歌を聴けずに死んでいく人間を増やす。そんなこと…彼女達が喜ぶと思うか?」
「そ……それは……」
「…………」
「俺は君達を殺さない…だが曹操の覇道を阻止する。悲しみを減らし、喜びを増やす為にな…」
「悲しみを減らし……」
「……喜びを増やす」
「大尉」
2人と話していると小隊を率いていたクラウドがSCAR-L CASVを手にして歩み寄って来た。
「クラウド、周辺はどうなった?」
「周辺の制圧は完了。残存戦力も降伏もしくは退却していってます」
辺りを見渡すと武装解除されて連行されていく青州兵。丘の頂上では明命達が‘‘ある物”を持って待っていた。
「軍曹…2人を頼む」
「了解です」
クラウドは指示を受けてMTVアーマーベストに取り付けている簡易手錠を2人に掛け、そのまま連行していく。
それを見送ると明命達に歩み寄る。
「怪我はないか?」
「はい‼︎」
「某もなんとか生き残りました」
「レオン将軍、これを…」
そう言われて百合から一本の棒を受け取り、状態を確認するとそれを地面に突き刺す。4m以上もある長い棒なので支え切れずに倒れそうになるが、素早く3人が支えてくれた。
それを確認した俺は頷き、4人で棒を立てる。
「………任務完了だ‼︎」
そういいながら風に仰がれて露わになる一つの牙門旗。
それは‘‘孫呉に海兵隊あり”と表す象徴的な旗。
左右に雄叫びを挙げる2匹の狼に、錨を背後に描かれた呉を力強く掴む羽根を広げた大鷲…………。
孫呉海兵隊の牙門旗が42高地に靡き、硫黄島を彷彿とさせる光景は高地の戦いが孫呉の勝利で終わりを告げる瞬間であった………。
圧倒的な戦力差を覆し、勢いに乗る呉蜀連合軍の前に魏は各戦線で総崩れとなっていた。魏軍の後方にて偵察任務を実施していたハンター3も後続の動きを封じる為に行動を開始する。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[後方撹乱]
4人の精兵が大軍に挑む。