第213話:切り拓かれる道
老兵の役割。若者の為に道を切り拓く。
<ウルヴァリンからマイティソー(サイファーのコードネーム)>
「こちらマイティソー。感度良好」
<東南の風の発生を確認。作戦開始だ。‘‘ムジョルニア”を使え>
「了解ですウルヴァリン。ムジョルニアを使います。マイティソー out」
乗船している船にて中佐からの通信を返答すると、私はブラックベレーを被り直して風向きを確認する。
不思議なものだ。先程まで吹いていた北風が今では東南より吹き荒ぶ強風となっているのだから。
しかし東南の風が吹いたことで流れはこちらに向いているし、何よりも‘‘こいつ”を使える。
自らの得物であるハンマーの‘‘蚩尤瀑布砕”を担ぎながら船首へと向かう。そこには指揮をしている祭殿の姿があった。
「祭殿、中佐から連絡がありましたぞ」
「応っ。それでライルはなんと言っておった?」
「はい、作戦開始ですぞ」
「おぉ‼︎ようやく儂等の出番か‼︎待ち侘びたではないか‼︎」
「待たされた分も纏めて暴れてやりましょう」
「応っ‼︎それであれは使うのか?」
「そこはお任せします………聞いての通りだ貴様等‼︎これより我等は魏軍に一発かます‼︎一番乗りとして敵を思う存分に叩いてやれ‼︎」
『Sir yes sir!!!!』
「よし‼︎いい返事だ野郎ども‼︎‼︎配置に就け‼︎モタモタするなよ‼︎」
『Sir yes sir!!!!』
私がそういうと孫呉海兵隊の各大隊から選抜された海兵隊員達がそれぞれの配備場所へと向かう。
「針路そのまま‼︎魏軍の前衛に各部署照準合わせ‼︎」
「サイファー‼︎いつでもよいぞ‼︎」
「左舷一番手準備よし‼︎」
「左舷二番手よし‼︎」
「右舷一番手‼︎攻撃用意よし‼︎」
「右舷二番手準備完了‼︎」
祭殿を含めた攻撃担当班の班長が大声で報告してくる。目の前に広がっているのは鎖で繋がれた魏水軍の船団。このまま進めば衝突してしまうがそうはいかない。
私はタイミングを見計らい、やがてこちらの攻撃範囲に入ったのを確認して右手を振り下ろした。
「0番手‼︎撃てぇえええ‼︎‼︎」
「狙い撃ちじゃ‼︎食らうがよい魏兵共よ‼︎」
祭殿は設けてあったレバーを勢いよく弾き、同時に乗船する船から敵軍目掛けて、あるものが放たれた。それを食らった一隻の船は船首が木っ端微塵に吹き飛び、大穴を開けるとそのまま沈没していく。
この船に搭載されているのは小型化されたバリスタだ。そしてこの船は中佐が考え出した孫堅級強襲攻撃揚陸一番艦[孫堅]。
孫呉海兵隊の上陸支援と敵船団への中央突破、更には対艦戦闘という3つの優位性を一つに纏めた楼船と呼ばれる司令船ベースの新造船で、敵船を正面から確実に撃沈出来るようにバリスタを搭載している船だ。
直撃を受けた敵船は鎖に繋がっていることもあり、隣同士の船を道連れにするように沈んでゆく。
一撃で撃沈に追い込める威力に弓の名手である祭殿の腕が合わされば有効性は更に向上する。
だが魏軍も混乱を最小限に留めているようであり、通過するのを阻止する為にこちら目掛けて弓矢を放とうとするがそうはいかない。
「左右砲撃手‼︎攻撃許可‼︎」
合図で左右に二門ずつ搭載している近接攻撃用のスリングショットが近くで生き残った船に攻撃を始める。
この兵器はバリスタと比べて射程も威力も低いが信頼性は高い上に射出するのは魚油を使用した特性焼夷弾。
これは魚油がぎっしり詰まった壺を漏れないようにしっかりと固定し、その周りに松明を巻きつけるという非常に簡単な構造だが、この時代ならば効果絶大だ。
なにせ向こうも火計で使用する筈だった魚油を搭載している。そこに引火して攻撃を受けた何隻かは爆発を起こし沈没していっている。
敵は完全に不意を突かれたように慌て始めるが、これは事前に策を巡らせていた結果だ。
民間人に成りすませた間者で魏軍に地方の鎖を使った固定方法を教えた‘‘連環の計”。
一刀達による戦闘力低下と冥琳殿による敵指揮官の誅殺。
千里達による祈祷を用いた‘‘東南の風”
そして私達による敵船団への中央突破と火計。
合計4つもの計略が成して始めて成功するこの作戦は‘‘オペレーションスペクトラムウォリアー”だ。
やがて敵船団を突破した我等は針路を魏軍の楼船へ突き進む。
「総員‼︎陸戦用意‼︎敵の懐に飛び込むぞ‼︎」
『Sir yes sir!!』
先程まで配置に就ていた兵士達は呉鈎一型や二型、短槍、戦斧を手にとって乗船体勢を整える。祭殿も多幻双弓を持ちながら蚩尤瀑布砕を担いでいる私の隣に立ち止まる。
「サイファーよ‼︎儂はみな見てきた‼︎」
「はい‼︎」
「孫呉の行く末‼︎若者達の道を切り拓くのは儂等の役目‼︎」
「そして勝利への狼煙を挙げるのも我等の使命‼︎」
「おしっ‼︎身体中が滾って来よったぞ‼︎」
「私もだ‼︎燃えて来よったわぁああ‼︎」
徐々に距離を詰める孫堅級。このままでは正面衝突はまぬがれないが、この船をぶつけて上陸出来るようにするのが役割だ。
「見ておれ‼︎」
「この魂の炎が‼︎」
「孫家代々の‼︎」
「我等海兵隊の‼︎」
「「燃える想いよぉおおおおお‼︎‼︎‼︎」」
その熱い想いを体現するかの如く、揚陸艦が楼船に衝突。その際に敵楼船から小規模な爆発が発生し、魏兵はそれで大混乱に陥る。
私達は揚陸艦から飛び上がり、混乱した敵兵の真っ只中へと着地する。そして私と祭殿はゆっくりと立ち上がり、闘志と気迫の全てを乗せて口を開いた。
「「ゆくぞぉおおおお‼︎‼︎‼︎」」
私と祭殿は敵に気迫をぶつけ、そしてその場から駆け出す。若い連中の行く先を切り拓く為に…………。
スペクトラムウォリアーは最終段階へと突入していく…………。
全ての策は成った。今こそ魏との戦いに決着を付ける時だ。ライルもまた最前線に向かう為に出撃するが、雪蓮がそれを引き留める。
自らの気持ちを伝える為に………。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[愛し合う者達]
2人の英雄、互いを想い合う。




