第208話:信念の名の下に
赤壁開戦直前。ライルは一刀に自身の信念を聞かせる。
徹底抗戦………。それは余りにも無謀な決断に見えた。
曹操軍兵力50万に対して呉蜀連合軍の総兵力は28万弱。一応は数日前に荊州を追われた劉琦率いる水軍残党も劉備軍に合流したが、それでも気休め程度にしかならない。
一見すれば曹操軍の勝利を予感させるが、俺達は負けることなど考えてはいない。寧ろ勝利するための策を巡らしている。
そして開戦を決意した俺達は急ピッチで兵員や物資を連合軍の駐屯地が設けられた樊口に集結させていた。
「武器弾薬の積み下ろしを急がせろ‼︎資材も同じだ‼︎」
「通信司令所の設営は完了か⁉︎」
「誰かこっちを支えてくれ‼︎」
連合軍駐屯地の一画であるウルフパックのスペースでは急ピッチで設営が行なわれていた。作戦司令部に指揮所、弾薬庫にバンカーが設けられ、まるでベトナム戦争時代のアメリカ軍FOBだ。
俺は来客として赴いた一刀をテントに案内し、机を挟んで対談をしていた。
「…いよいよ来たな」
「えぇ…いつかは来ることでしたから覚悟をしていたつもりでしたけど…兵力差は歴然ですね」
「あぁ。敵は新野城から軍を進出させて江陵で友軍と合流。そこで大規模な水軍船団を待機させているらしい」
この情報は昨日オスプレイからHALO降下を実施したハンター3により齎されたものだ。
その情報を確認すると今度は机に敷かれている地図を見る。
「まだ出港していないらしいが、それも時間の問題だ。こっちの分析官からの報告ではこの一週間以内に動き始める」
「やっぱり…速度を計算にいれたら会敵地点は赤壁…」
「どこまで運命は皮肉なんだろうな?」
「だけど予測なら出来ますね。仮に曹操が敗走すれば烏林に陣を張り、そこから陸路で江陵へと引き返し、樊陽から新野へと向かう可能性がありますね」
「抑えるとしたら烏林なんだろうが、難しいだろうな。立地条件敵にはこちらが不利だ」
「なんでですか?……って、大体は分かりますけど…」
「風向きだ。この時期だったら赤壁周辺は北風が吹いている。そんな状況で火矢なんか使ったりしたらこっちが危ない」
「それに‘‘あれ”もありますからね」
「分かってるさ…あんなことは俺も見たくない」
俺が見たくないと口にしたのは祭殿……黄蓋による偽りの降伏‘‘苦肉の策”だ。
たしか周瑜に自らの身体に棒打ちをさせ、離反させるだけに充分な状況を作り出して曹操軍に降伏。
その後、諸葛亮による祈祷で東南の風が発生したと同時に船団に火を放ったと言い伝えられている。
つまりこのままいけば2人は確実に仲違いを演技し、祭殿の身体が傷付けられる。そして下手をすれば祭殿が死ぬ可能性だってあるのだ。
そんな危険を彼女には犯せたくはない。それにもし彼女が傷付いたら間違いなくサイファーがショックを受ける筈だ。
「俺も見たくありませんからね。ライルさん達が家族と思っているなら俺達にとっても家族みたいなものですから……」
「そうだな……話は変わるが、そっちの持ってきた策とはなんだ?」
「恐らくはライルさんと同じです………これです」
そういうと一刀は掌を見せてくる。同時に俺も掌を見せる。そこに書かれているのは……。
‘‘Fier”
「…やっぱり同じ考えですね」
「あれにはこれが一番だろうから」
「それで実行出来たらライルさんの機甲部隊と航空隊の支援で「いや……今回は使わない」…え?」
俺の言葉に一刀は呆気に取られたようだ。
「……使わないって……なぜですか?」
「この戦いでは…銃火器を除いた戦車やヘリは使わない。使うとしたらボートくらいだ」
「なぜ?」
「……この戦い……俺達には別の目的ぐあるからだ。一つは天界の兵器と呼ばれている戦車やヘリを使わなくても孫呉は魏に劣らないと思い知らさせること。あれが存在するだけで敵にとっては脅威そのものだからな」
「そ…それは分かります」
「もうひとつは……曹操の目を覚まさせてやる」
「目を………ですか?」
「そうだ。今の曹操は内心でかなり焦っている。君と雪蓮に対する暗殺未遂や呉蜀との度重なる敗戦。今は落ち着いたようだが魏内部では曹操に対する不信感が募っているらしい」
「…………」
「曹操は自らの覇道の為に強行策をしてきている。だが気が付いていない」
「何をですか?」
「既に‘‘魏”という国は大きくなり過ぎている。このままでは民は疲弊していき、そこから再び漢王朝腐敗が始まり、やがては無限に同じことが繰り返される」
確かに魏は強大になり過ぎている。もはや1人の王では制御しきれない位に強くなり過ぎ、そこから生まれるのは民の不満。
やがてそれが蓄積されていき、最後には何かのキッカケで爆発して再び乱世が始まる。
「だから今回は使わない。使ってもいいのは銃火器やボート。あとは俺達呉と君達蜀が力を合わせて魏を撃退させ、最終的には話し合いに持ってこさせる」
「…………天下三分の計…ですね?」
「そうだ。あれこそがこの国に平和を齎すと確信した。だから何としてもこの戦…負ける訳にはいかない」
「……ライルさん……」
「それが俺の…信念だ」
「信念………ですか……」
「もっとも…雪蓮と平和な世の中を一緒に暮らしたいというのもあるんだがな」
そういいながらスリングにHK416を繋げてテントを後にする。少ししてから一刀も俺の後に付いて来る。
雪蓮や桃香、そして曹操。目指す先はみんな同じだが道が違う。そして俺は雪蓮を選んだ。だから彼女の‘‘みんなが笑って暮らせる世界”を実現させなければならない。
だからこの戦いでは負けは許されない。
それが俺の信念だから……………。
50万もの大軍勢で進軍する曹操軍。自身の船に乗船している牙刀を船尾で凪が見つける。彼から聞かされる不安や迷い。凪がそこで感じるのは………。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[駆け抜ける龍]
穏やかな心が龍を支える。