第207話:Surrender or Resistance
曹操からの降伏勧告。強大な敵を目の前にし、雪蓮は未来を見据える。
合同演習が終了したとほぼ同時に実施された曹魏による二回目の南下。敵は総戦力を導入してきたようであり、レイヴンからの情報でまだ増える傾向がある。
予想敵兵力は最低でも50万を上回る筈だ。そんな状況で俺達は各地で友軍部隊の撤退支援にあたり、魏との決戦に備えて戦力を増強するが、呉内部では建業の玉座にて荒れていた。
「孫策様‼︎曹操のような奸物の脅迫に屈してはなりません‼︎」
「何を言うか⁉︎孫策様‼︎まともに戦って勝てる相手ではありません‼︎降伏すべきです‼︎」
玉座に集められた孫呉の重鎮達。発端は曹操からの使者が持ってきた曹操直筆の竹簡だ。内容は……。
‘‘天命は我等魏にあり。今や呉に天兵なる我等に敵うこと叶わず。全ての城の門を開門し、我等の軍門に下られよ。
曹 孟徳の名の下、孫家等には相応の地位を約束する。なれど刃向かうことは天に刃向かうことと同義。天の名の下に刃向かう者には鉄槌を下す。どちらが互いに取って有効的かしかと考えられよ”
…という内容だ。この世界で城門を開放するということは無条件降伏を意味している。
曹操からの降伏勧告ということだ。だから家臣達は意見が別れているのだ。
武人としての誇り、愛国心、忠誠心、己の保身。これらの感情が蠢く中で雪蓮は机に置かれた。雪蓮から見て左側が曹操からの降伏勧告。もう片方……。
(曹操からの降伏勧告……劉備ちゃんと一刀からの共闘要請…)
そう、もう一つの竹簡は桃香と一刀からの共闘要請だ。
使者として赴いた朱里と雛里、夏雅里、飴里の4人から蜀にも同じものが送られたらしいが、一刀達はこれを拒否。曹操を止める為に軍備を集結させているらしい。
因みに朱里と夏雅里を見た千里は暴走していたが……。
(こんな時……父様ならどうするかしら?……母様なら……)
雪蓮は先程から竹簡を睨みつけている。無理もない。今回は国の一大事だ。少しでも選択を間違えれば待っているのは‘‘死”。
「……ライル」
「なんだ?」
「あなたが私だったら…どうする?」
雪蓮が隣にいる俺に問い掛け、玉座にいた全員が俺に注目する。それは左右に分かれているアレックス達や蓮華達も同じだ。
俺は暫く考えてから答えを口にする。
「……確かに曹操の軍勢は強大だ。兵力はもちろんだが兵の質もまさに脅威。俺達も50万なんて大軍と戦った経験はない。普通に考えれば降伏を選ぶのは当然だ」
その言葉を聞いて降伏を唱えていた文官達は安堵の表情を浮かべ、武官達は焦りの表情をみせる。だが俺は気にせずに話を続ける。
「俺達海兵隊は孫呉に絶対的な忠誠を誓った。だから俺は君の決定に従う」
「ライル………」
「たとえそれが降伏にしろ、抵抗にしろ、俺達の役目は呉を護ることだ。だから雪蓮の決めた道を俺は進み続けるつもりだ。たとえそれが茨の道であってもな」
俺は出来るだけ優しい表情をしながら雪蓮を見つめる。たとえ呉の旗が無くなり、代わりに魏の旗が靡こうとも俺は愛する雪蓮を護る。
「ライル………ありがとう」
一言礼をいうと雪蓮はすぐに王としての顔に戻る。恐らく…いや……間違いなく決めたのだろう。
「………降伏…共闘…我等呉にとってどちらにも利があると私は考える」
全員が固唾を呑んで見守る。
「だが…私は孫呉の……皆の力を信じる‼︎よってこの孫 伯符は未来を見据えた決断をここに下す‼︎‼︎」
そういうと雪蓮は側に立て掛けてあった南海覇王を鞘から抜き取り、それを左側にあった曹操からの降伏勧告に振り下ろした。
竹簡は容易く砕かれ、机はそのまま真っ二つとなる。梃子の原理で宙を舞う一刀達からの共闘要請。彼女はそれを掴み取り、高々と宣言した。
「我はここに上意を下す‼︎抗戦なり‼︎我等は盟友劉備と北郷 一刀と共に曹操を討つ‼︎以後、降伏を少しでも口にする者は如何なる者であろうが、この机と同じ運命を辿ることになるであろう‼︎」
彼女が選んだのは徹底抗戦。降伏して無駄に生きるよりも何かの為に死ぬことを選んだということだ。
だが俺はこの結果を予測していた。辺りからは武官からの歓声が飛び、逆に降伏を考えていた文官達は落胆していた。
こんな腰抜け連中は放っておいて無線機を取り出す。
「ウルヴァリンから全部隊‼︎聞いていたな⁉︎総員完全武装の状態で待機‼︎いつでも出撃できるように準備をしておけ‼︎」
<こちらヴォルグシャンツェ‼︎了解です中佐‼︎>
シャンツェに出撃準備命令を発すると雪蓮を見る。
「ライル、貴方に一計を任せる。いいわね?」
「了解した雪蓮……美花」
「は…はい⁉︎」
「‘‘例のもの”を使うぞ‼︎」
そういうと暫くしてから軍議は終了。各自は戦の準備をする為に持ち場へと戻る。
交渉失敗を知った曹操はすぐさま荊州より大船隊を出動させ、呉に対して進軍を再開。対する呉蜀連合軍も水軍を纏めて決戦の地へと向かう。
その場所は………………
…………赤壁。
呉蜀連合軍と魏軍。兵力差が存在している連合軍に勝ち目がないようにみえる。だが彼等には秘策がある。
その準備の為にライル達は行動を開始する。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[信念の名の下に]
運命を分ける赤壁が聳え立つ。