第203話:正始
才に溢れる司馬懿。退屈な戦に嘆いていた。
五丈原での一件の後、我等は魏に対して反旗を翻した幽州の公孫淵とその一族が率いる燕軍の討滅に向かっていたが、はっきり言えばくだらない戦だった。
かつてこの地で烏丸族などの異民族を幾多も撃退した公孫瓚と同じ血筋だと聞いてどのような輩かと思えば有利な籠城戦を捨てて城の前に布陣したり、要所を抑えて陽動部隊で軽く挑発すれば面白い位に釣られたりと愚策の極みだ。
こんな凡愚に上等な策を巡らす必要などない。
交戦開始から僅か5日、我等ら燕の本拠地である遼東へと攻め込んで燕を滅ぼした。
「し・・・司馬懿殿⁉︎こ・・・降参いたします⁉︎命だけは⁉︎」
「・・・・・・・・・」
捕らえた公孫淵は必死に命乞いをしている。反乱を起こしといてなんとも図々しい・・・。
「え・・・燕建国は撤回し、魏に帰従します‼︎だから命は「黙れ凡愚が‼︎」ひぃ⁉︎」
「さっきから聞いておれば情けない・・・・・・反乱を起こしたならそれ相応の気概と覚悟を示さぬか‼︎」
「ひっ⁉︎」
「反乱を起こしたことそのものは大した罪ではない・・・・・・貴様が犯した最大の罪状は己の才を弁えず、下らぬ反乱を起こして私の手を煩わせたことだ‼︎」
「し・・・司馬懿殿⁉︎」
「連れて行け‼︎この凡愚の頸を刎ね、槍に突き刺しておけ‼︎」
「御意‼︎」
「お・・・おのれぇええええ‼︎‼︎」
公孫淵は悲鳴に近い声を出しながら兵に引きずられていく。最後までなんとも情けない・・・・・・公孫瓚が聞いたら呆れるだろうな。
そんな状況に私は空を見上げながら大きく溜息を吐いてしまっていた。
「はぁ・・・なんともつまらなぬ・・・凡愚どもの乱痴気騒ぎに付き合わされる・・・・・・虚しい・・・」
私は自分の才を持て余す状況と魏の現状に嫌気がさしていた。
今の魏は呉と蜀に対する攻勢では敗退を喫し、将兵の士気低下が否めない。加えて曹操殿は1人の将の為に漢中といい戦略上重要な領土を劉備と北郷に明け渡し、寿春も一度は制圧したにも拘らず手放した。
その及び腰とも取れる策に公孫淵のような凡愚が図に乗り、果ては国を立ち上げて自滅していく。
「父上、如何なされましたか?」
「師か・・・いやなに・・・・・・相変わらずつまらぬ戦だったと思ってな」
「確かに・・・・・・張り合いが全くありませんでした。始まる前から勝利は見えていたというのは分かっていましたが、呆気なさ過ぎでしたな」
師の言う通り張り合いが無さ過ぎる。特に今回の戦は右を見ても左を見ても凡愚、凡愚、凡愚。
立場ある者は時に下らぬ戦にも出向かなければならないが、流石に今回は我が息子達に放り投げたい気分だった。
「それで・・・お前は私に何の用だ?昭みたいに怠けにきたのではなかろう?」
「ご冗談を・・・父上宛てに許昌より伝令が来ております」
「なんだ?」
「はい、内容は‘‘これより我が軍は改めて歩み出す。帰還が可能な軍勢は速やかに許昌へと帰還せよ”です」
「ふん・・・今更か・・・・・・まあいい。このような退屈な場所、さっさと立ち去るとするぞ」
「はい、それと徐州に予定通り‘‘知人”が出来ました」
「そうか・・・誰にも悟られてはないだろうな?」
「無論です。既に子上は洛陽、母上は長安、その他の将兵達も各地に治安維持を名目に向かいました」
「上々だ。誰にも悟られぬように・・・ゴホッ⁉︎ゴホッ⁉︎」
「父上⁉︎」
いきなり咳き込んでその場に倒れてしまう私に子元が慌てて駆け寄る。
「父上⁉︎」
「ぐっ・・・・・・大丈夫だ師」
「・・・父上・・・・・・やはりお身体が・・・「それを口にするな」・・・」
少しふらつきながらも師の助けなしで立ち上がる。手には咳き込んだ際に吐血し、少しだが血が付いていた。
「ふふっ・・・祈願成就までに身体が持てばよいが・・・」
「・・・・・・・・・」
「さぁ帰るぞ。早く帰らぬと曹操殿の機嫌が損ねてしまう」
何事もなかったかのように私は自軍の本陣へと歩き出す。
私にはまだやるべきことが残っているのだ。道半ば・・・更にはこのような場所で果てる気など更々ない。
必ず私は手に入れる・・・・・・才ある者が束ねる平和な国をな・・・・・・。
眠れない夜。辺りが暗くなった建業の城壁で風に当たりに来た蓮華。同じく城壁に来ていたレオン。
呉蜀の合同演習が近い中、二人は・・・・・・。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[月夜の音色]
獅子と虎。月夜に導かれる。