第201話:老兵と宿将
老兵と宿将。互いの主について語り合う。
いま私は休暇を楽しんでおる。反乱軍との戦いで育成部隊から一時的に戦闘部隊に回され、迫撃砲部隊を率いて中佐や少佐達の支援にあたった。
その反乱軍鎮圧も無事に終わり、私の部隊は1週間の休暇が与えられ、私自身も久々の趣味を満喫していた。
「いい風だ‼︎」
「しかし本当に馬とはまた違った感覚じゃな‼︎」
「気に入ってもらって何よりですな‼︎」
「サイファー‼︎もっと速く走れんか⁉︎」
「もちろんですぞ‼︎しっかり掴まって‼︎」
私の趣味というのはツーリングだ。だから中佐に無理を頼んでジェーンから取り寄せたイギリスの軍用バイクである12馬力単気筒サイドバルブエンジン搭載のBSA M20を操り、祭殿を載せて草原を走っていた。
下手にバイクで市街地を走るとバイクを見たこともない民が混乱してしまう。
だから休暇・・・しかもこういった平原でなければ走ることなど出来はしないが、広い緩やかな平原を気持ち良く走れるのでかえって都合がよかった。
祭殿に速さをせがまれて速度をどんどん速めていく。しかし流石に時々であるがエンジンを休ませる必要があるので、山道を走行中に見つけた茶屋にて休息を摂ることにした。
「ぷはぁ〜‼︎やはりお主の酒は美味いな‼︎」
「はははっ・・・飲み過ぎには充分に気を付けて下され」
「そう固いことを言うでない。ほれ、お主も飲まぬか」
「私は帰りも運転するのです。飲酒運転など言語道断。それに俺は紅茶がありますし・・・」
そういいながら祭殿はブランデーが入った酒壺を飲み、私はポットに入れていたミルクティーを飲む。周囲は山中であり木々に囲まれながら目の前に広がる風景を楽しめる。いい場所だ。
「しかし平和ですなぁ・・・」
「本当じゃ。儂には少し物足りないがのぅ」
「ははっ・・・しかし戦わなくてもよいのならそれに越したことはありますまい。早く引退して余生をノンビリと過ごしたいですしな」
「儂は引退する気など考えておらぬぞ。生涯現役じゃ」
「流石ですな」
「応っ‼︎まだまだ若い者には負けはせぬぞ♪」
生涯現役とは・・・相変わらず元気なお方だ。
「サイファー」
「なんでしょう?」
「お主はライル達をどう思っておる?」
「中佐ですか?」
「そうじゃ。儂は先代様より孫呉に仕えておるというのは知っておるな?」
「・・・確か孫策様の母君、孫堅様でしたかな?」
「そうじゃ。じゃから策殿や権殿、翊殿、それに尚香殿や冥琳。みな儂にとって実の娘みたいな存在じゃ。無論、ライルも儂は息子のように思っとる」
「息子・・・ですか・・・・・・」
「知っておるか?冥琳は今では威張っておるが昔は泣き虫でよく儒子共に虐められておってな。儂がよく助けておったのじゃ」
「あ・・・あの周瑜様がですか?」
「そうじゃ、それに策殿も昔は一人で厠に行くのが怖かったし、権殿も昔は甘えん坊だった」
・・・なんだか聞いてはならないような爆弾発言を聞いてしまった気がするな・・・。
祭殿は酒壺の酒を口にしながら話を続ける。
「お主とライル達はいつ知り会った?」
「そうですな・・・もう10年以上も前になります。中佐や少佐達がまだ新兵だった時に鍛え上げたのが私だった・・・」
「ほぅ・・・」
「中佐と少佐はその頃から能力が卓越しておりまして、2人揃って歴代の成績を全て塗り替えました。あらゆる優秀者の称号を総なめにしてましたな」
「さすがはライル達じゃな」
「だからすぐに直感したんです。‘‘こいつは化ける”と・・・ですから中佐の訓練はあえてより一層厳しくし、徹底的で大事に鍛え上げました。本当の息子みたいに・・・」
「・・・・・・」
実際、私にとって中佐達は息子や娘達にも思える。それは孫策様や孫権様達にも同じであり、みな私の子供達のように思える。すると祭殿は手にしていたブランデーを長椅子に置き、軽く微笑んでいた。
「ふぅ・・・お主は本当に呉狼様に似ておる」
「呉狼・・・・・・たしか孫策様達の父親でしたかな?」
「うむ・・・家族や仲間を大事に思い、優しさの中に熱い思いを秘めた正真正銘の‘‘英雄”じゃ」
「・・・私は英雄ではありませぬぞ。どこにでもいる老兵です」
「それは民や歴史が決めるものよぅ。じゃがお主にもライルや策殿達と同じように英雄としての素質を備えておる」
そういいながら祭殿は空いたカップを手にして、そこにブランデーを注いで私に突き出してきた。
「・・・少なくとも儂はそう思うぞ・・・」
私は無言のままブランデーを受け取り、それを一気に流し込む。英雄という言葉を考えながら一気に飲んだ。
久々に飲んだ母国の味は大変まろやかで飲みやすかった・・・・・・。
二度も卑劣な手段を使ったことにされてしまった曹操。各地で徐々に人心は離れていき、豪族も動き出す。
己の覇道を見つめ直す曹操に牙刀は‘‘ある物”を託す。
次回‘‘真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
‘‘滅”
火を失いかける覇王に再び焔が宿る。




