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第196話:五丈原

蜀と魏による交渉が五丈原にて行なわれるが・・・。

夏侯淵と彼女の部下を返還する条件として魏軍は漢中からの撤退という交渉開始から一週間後、曹操の直筆による手紙が飴里により齎された。


交渉の結果、魏軍はこちらの要求を承諾。漢中から軍備を漢中より撤退させた。恐らくだが未だに間者は展開しているだろうが、多少の危険はこちらとしても妥協しなければならないし、気にし出したらキリがない。


漢中からの撤退を確認したから次はこちらの番だ。俺は愛紗と紫苑、桔梗、朱里、飴里の5人と劉天刃隊を引き連れて魏の領土である五丈原へと向かった。


そして捕虜返還の当日・・・。


「・・・やっぱり曹操自らが出向いて来たか・・・」


俺達と魏軍は崖に掛けられた橋を挟むように対峙している。向こう側には曹操の他に夏侯淵の姉である夏侯惇、徐晃、司馬懿など魏の重鎮達が勢揃いしている。

特に夏侯惇はかなり殺気立っている。妹が捕虜になっているとなったら当然だろうが・・・。


「はわわぁ・・・」

「朱里、無理はしなくていいから後ろに下がってる?」

「はわっ⁉だ・・・大丈夫でしゅ‼‼」


自分では大丈夫だと強がっているが、よくみると足下が震えていた。それを警戒しながらも軽く笑いながら飴里が歩み寄って来て朱里の頭を撫でてやる。


「ははは、大丈夫だよ朱里。怖くないからね」

「はわっ⁉怖くなんかないですよ〜⁉」

「ふふ・・・それよりもご主人様」

「準備は出来た?」

「はい。夏侯淵将軍の引き渡しはいつでも行なえますが・・・」

「しかしご主人様が自ら引き渡しに赴かなくても・・・私か紫苑にお任せ頂けないでしょうか?」

「それは駄目だよ愛紗。交渉の条件で互いの主自らが赴くことも条件に入ってるから、それを破れば桃香の名前に傷を付けることになる。それに・・・」


俺が指差すと反対側から曹操と徐晃が橋を渡り始めていた。


「向こうが赴くのに俺が行かない訳にはいかないさ」


それだけ言うと俺は夏侯淵達の監視役をしている兵士数名と俺の護衛役である飴里を引き連れて同じように橋を渡り始める。

そして互いが橋の中央に差し掛かった辺りで少し距離を置いて立ち止まる。


「・・・久しぶりね。北郷」

「あぁ、そっちも変わりはないようだね」

「さっそくだけど・・・秋蘭を引き渡しなさい」

「分かってる。だけどまずは黒騎兵から返還する。その後にそっちが漢中の譲渡書を渡してから彼女を解放する。そういう約束だ」


交渉内容を口にすると曹操は表情を変えないものの、苛立ちがこみ上げているのを感じた。

まずは彼女を落ち着かせることが先だろう。衛兵がそれぞれ黒騎兵の後ろに回り込み、縄を切断していった。解放された黒騎兵は少し急ぎながら曹操の下へと移動した。


「・・・これで信じてもらえたかな?」

「・・・・・・まぁいいわ。牙刀」

「御意」


部下達の解放を確認して少し苛立ちが無くなった曹操は徐晃に指示し、指示を受けた徐晃は懐から一枚の書状を取り出して俺に歩み寄った。


「北郷殿・・・こちらが漢中に関する全権の譲渡書になる。確認されよ」


受け取るとすぐに中身を確認する。確かに漢中の譲渡書だ。俺はそれをすぐに懐へとしまった。


「・・・確かに確認した」

「では・・・夏侯淵殿をこちらに引き渡されよ」

「分かってるよ・・・飴里」

「あぁ」


それだけ言うと飴里はすぐに夏侯淵の側に歩み寄り、両腕を縛っていた縄を切断。彼女は手首の調子を整えると飴里に付き添われながら曹操の下に歩き始める。


「華琳様・・・」

「秋蘭・・・無事でよかったわ」

「申し訳ありません・・・余計なご心配を掛けたばかりか、領土を失う失態を犯してしまい・・・」

「気にしないで・・・領土はまた取り戻せばそれでよい。だけど私の覇道を実現させるにはあなたが必要不可欠。それにあなたがいなければ私1人で春蘭を抑えなければならないわ・・・」

「華琳様・・・」


俺は曹操と夏侯淵のやりとりを見ていた。やはり彼女は曹操 孟徳だと実感させられた。彼女なりの天下統一を実現させる為の姿がここにあったのだ。


暫く干渉に慕っていた曹操はすぐに元の表情に戻して俺に話しかけて来た。


「聞いての通りよ北郷。暫くは漢中を貴方達に預ける。しかし覚えておきなさい。いずれ貴方達を降して漢中も蜀も我が手中に収めてみせる。その譲渡書は肌身離さず大切に持っていることね」

「悪いけどそうはさせないよ。俺達にとっても領土は大切だし、負けるつもりも毛頭ない」

「言ってくれるわね・・・しかし仁などて人を導けると思ってるのか?」

「・・・・・・」

「理を示し・・・力で律する。そうでなければ人は瞬く間に堕落し、国が滅ぶ。貴方達蜀がやろうとしていることはそういうことなのよ」

「・・・そうなのかもしれない」

「だったら「だけど・・・」・・・」

「だけど俺は人を信じたい・・・桃香・・・劉 玄徳と出会い、彼女の優しさと望む理想に触れた・・・そっちに信じる道があるように、俺達にも信じる道がある」


俺は自分の信念を曹操にぶつける。もし俺がこの世界に来て最初に出会っていたのが曹操なら俺は曹操に仕えていたかもしれない。

桃香や孫策、ライルさん、曹操の進む道の先はみんな繋がっている。


“この国を平和にしたい”


しかし曹操の道は俺達とは違う。俺達は“仁”、曹操は“覇”を唱え、互いがぶつかり合う。

それだけ言うと曹操は軽く笑いながらこちらに話しかける。


「まぁいいわ。だったらやってみることね」

「曹操・・・」

「だけど私は蜀という国は認めないわ。それは心しておくことね」

「だったら俺達は君に意地でも認めさせてみるよ」


それだけ口にすると俺は部下達と飴里を引き連れて朱里達の下に歩み始める。しかしその直後に何か嫌な予感がした。

軽く耳を澄ませ、何か感じ取ると俺は振り向きながら天を抜刀して振り下ろした。


『⁉』


全員が俺の行動に驚愕する。しかし俺は気にせず、天の鋒を曹操に向けた。


「・・・・・・何の真似だ?」

「な・・・」


曹操はまだ状況把握が出来ていないようだ。俺の足下には俺目掛けて放たれた一本の弓矢。そして飛来してきたのは曹操軍側。


「条件にあった筈だ。“この交渉だけは互いを傷付けず、伏兵を潜ませない”と・・・」

「北郷殿⁉これは我等では「黙れ‼‼」⁉」

「見損なったぜ曹操・・・確かにライルさんの一件で少なからずお前達に怒りを持った・・・だけどそれは一兵卒が勝手にしたことだと理解していた。お前がそんなことを指示する筈がない・・・俺もそう思っていた・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「だけどこれでハッキリしたぜ・・・やっぱりお前の覇道ってのは止めなきゃならない・・・」


それだけ言うと警戒しながら武器を構えている飴里や部下達を引き連れて朱里達の処に戻る。

愛紗達も先程の不意打ちには怒りを感じているようであり、愛紗は青龍偃月刀、紫苑は颶鵬、桔梗は豪天砲を構えて何時でも攻撃できる態勢にある。それに反応して魏軍の弓兵隊も弓を構えて射る態勢を整える。

一触即発の状態だ。だが俺は橋を渡るとみんなを制止し、口笛を吹いて駆け付けた飛燕に跨がり、愛紗達もそれぞれ馬に乗る。


「次に会う時は容赦しない・・・・・・よく覚えておけ‼‼」


大声で叫ぶと飛燕は駆け出す。愛紗達も俺の後に続いて馬を走らせる。


五丈原における交渉の本題そのものは成立したが、蜀と魏の対立はこれにより決定的となった。


魏による蜀と呉への暗殺未遂。この一件は各地で魏に対する不信感を抱かせる結果となった。だがこの時の俺には気付くことが出来ていなかった。



途轍もない計画が進められ、これが始まりに過ぎなかったということを・・・・・・。




建業の一画。最近になってから猫が寄ってこないことに悩んでいた明命にクラウドは一計を与えた。彼はその様子を伺う為に行動するが、そこで話が進む。


次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”

[猫騒動]


暗殺者と猫少女、互いの気持ちを打ち明ける。

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