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第195話:俺が父で彼女が母で

死神と鷹。互いに気持ちを通じ合う。

反乱鎮圧から暫くが経過した。式典も無事に成功に終わって、軍事的印象も経済的印象も右肩上がりだ。


今でも街に繰り出せば流石に引き上げた商人はいるにしても、未だに活気に満ち溢れている。俺も久々にライルから3日間の休暇を貰い、ジーンズに黒一色のランニングシャツ。首からドッグタグをぶら下げて休暇を満喫していた。だがここで問題が生じた。それは・・・・・・。


「えへへぇ〜〜〜♪ととさまぁ♪」

「だ・・・だから俺は君のお父さんじゃないってば・・・」


迷子と思われる小さな男の子にお父さんと間違えられているのだ。俺がいる場所は繁華街の一角で、辺りには露店が出回ってていてかなりの賑わいだ。


「ととさま〜♪だっこ〜♪」

「あぁ〜分かった分かった・・・ほら・・・」


そうせがまれて子供を肩に乗せてやる。当の本人は楽しそうに足を軽くバタつかせながらキャッキャと辺りを見渡していた。


「はぁ・・・弱った・・・こんな処を見られたら確実にからかわれるな・・・特に冥琳殿に見られでもしたら「私がどうしたというのだ?」うひゃっ⁉」


いきなり背後から話しかけられて、奇声を出しながら飛び上がってしまった。振り向くと

不敵な笑みを浮かべている冥琳殿だ。


「・・・え・・・えっと・・・・・・いつから?」

「その子がお前にしがみ付いてお前が困惑し始める辺りからだな」

「殆ど最初からじゃないですか⁉」

「しかし、お前も水臭いな。我等の間柄で隠し事など」

「いやいやいや⁉この子はどう考えても迷子ですよ⁉みれば分かるでしょ⁉」

「隠すな隠すな♪しかしお前はいつそんな可愛らしい子供を儲けたのだ?」

「だーかーらー⁉」


・・・冥琳殿・・・。あからさまに楽しんでるな・・・。


「はははっ。すまんな。お前が子供をあやす姿が妙に新鮮でな」

「全く・・・からかわないで下さい・・・こっちは大変なんです・・・わっ⁉こ・・・こらっ⁉暴れたら危ないだろ⁉」


冥琳殿のからかいがようやく終わると、待ってましたとばかりいいそうな勢いでご機嫌の子供がはしゃぎ出す。


「しかし手慣れたあやし方だな・・・やはりお前の子供ではないのか?」

「だから違いますって・・・・・・俺は5人兄妹の長男でしたから弟や妹の面倒を見てたってだけですよ」

「そうなのか?」

「そうなんですよ・・・・・・ん?」


少しだけ冥琳殿と話していると男の子は暴れるのを止めて冥琳殿の方をじっと見ていた。


「な・・・なんだ?」

「きっと冥琳殿がいいんですよ・・・って・・・そんなに乗り出しちゃ危ないって」

「こ・・・困ったな・・・・・・私はあまり子供には慣れていないのだが・・・」


そうは言いつつ冥琳殿は恐る恐る男の子の小さい手に自身の手を差し伸べる。彼女の手を掴んだ男の子はニパッと眩しい位に無垢な笑みを浮かべながら次の瞬間、とんでもない爆弾発言をした。


「かかさまぁ‼」

「えっ?」

「か・・・かかさま?」


そういいながら小さな手で冥琳殿の手をしっかり掴む。


「わ〜い‼かかさまー、かかさまぁ‼」

「こ・・・こらこら。私はお主のかかさまではないぞ」

「かかさま‼」

「いやいやいや・・・私は子供を産んだ経験はおろか、子作りの経験も無いのだからお主の母では・・・」

「ちょっ⁉あなたは真面目に何を言ってるの⁉」


恐らくは混乱しているのだろう。というか何時もはクールな彼女もこんな表情をするんだな〜、と少しだけ得した。背中を向けられて抱っこしてくれないので、男の子は段々と涙目になっていく。


「うぅ〜〜〜・・・・・・」

「お・・・おい?」

「うわぁあああああん‼⁉⁇かかしゃまぁ〜‼⁉⁇」

「なっ⁉」


泣き出してしまったよ・・・・・・。そんな状態に冥琳殿はアタフタして困っている。こんな彼女を見たのは初めてだな・・・。

何とか結論に達したようで、俺から男の子を受け取るとそのまま抱っこしてあげる。


「はぁ・・・・・・ほら。抱っこしてあげるから泣くのはやめなさい」

「・・・・・・・・・(ニカッ♪)」


・・・あっ・・・・・・可愛いな。


「はぁ・・・全く。それでこの子の母親は何処にいるのだ?」

「それが分かってたら苦労しませんよ。まあ・・・分かったことといえば、この子の父親と母親は俺達に似ているってこと位ですかね」

「しかし・・・この子は人見知りをせぬのだな。これでは簡単に攫われてしまいそうではないか」

「ふふっ・・・まるで本当の母親みたいですね?」

「なっ⁉・・・か・・・からかうな・・・」


何気にさっきの仕返しをする俺。というか顔を真っ赤に染めてそっぽ向いた彼女の表情はまた可愛らしく、思わずドキッとした。

今日は何かと彼女の普段は見れない表情をたくさん見れて役得状態だ。


だがちょっと待て・・・・・・よく考えたら冥琳殿が母親ってことは俺が父親ってことになり、今の光景はまさに親子。

そんなことを考えていると顔を真っ赤に染めてしまい、ひとまずはこの子の親を探し出す為に街を歩く。


幸いにも親はすぐに見つかった。その際になぜ俺達を親だと間違えたのかというのが、俺はシャツの色。冥琳殿は服のデザインが似ているという何とも単純な子供らしい間違え方だ。

俺と冥琳殿はその親子を見送ると城へと引き返していった。





そしてその日の夕方。俺はウォッカと自分で作った塩漬けニシンとブリヌィというロシアのクレープを皿に乗せて城壁で飲んでいた。だがいつものペースなら既にスタローヴァヤと呼ばれる食卓用ウォッカを3本は空けているのだが、今はボトルの半分も飲んでいない。理由としては・・・・・・。


「はぁ・・・」


先程から溜息を吐いてばかりでウォッカが全く進まないからだ。理由は昼間のことだ。


「はぁ・・・まさか・・・・・・彼女の存在がここまで大きくなってたとはな・・・」


今更ながら自覚する。彼女のことは前々から気になってはいたが、自分でもまさかこんなに気持ちが膨れ上がるとは思わなかった。

チビチビとウォッカを飲んでいると階段の方から誰かが歩いて来た。俺はグラスを置いて振り向いた。


「やはりここにいたか」


そこには先程まで考え事の根拠となっていた冥琳殿がいた。


「探したではないか・・・いつもなら中庭にいるというのに」

「今日はその・・・たまには城壁で飲むのもいいかと・・・思いまして・・・」

「話がある・・・となりいいか?」

「は・・・はい。どうぞ・・・」


そういいながら俺はすぐに隣を空けて、彼女はそこに腰掛ける。微風に靡かれた髪が俺の鼻をくすぶり、いい香りにドキッとしてしまったが平常心は保つ。


「私にも一杯もらえるか?」

「・・・珍しいですね。冥琳殿が自分から酒を飲まれるなんて・・・」

「私だって、たまには酒を飲みたい時だってあるさ」


そう言われながら俺はもう一つのショットグラスにスタローヴァヤを注いで彼女に渡す。

冥琳殿はそれを受け取ると一気に飲み干して、予想以上にキツかったのか軽く咳き込んだ。


「こほっ、こほ・・・相変わらず強い酒だ・・・」

「大丈夫ですか?・・・水どうぞ」

「こほ・・・すまないな」


俺から水を受け取ると再び一気に飲み干して落ち着かせる。


「それで・・・冥琳殿はなぜここに?」

「いや・・・なんだか今日はお前と一緒にいたくてな。そんな気分なのだよ」

「俺と・・・・・・ですか?」

「アレックス・・・・・・お前はこの国をどう思う?」

「この国・・・?」

「私は・・・自分が生まれ育ったこの国が好きだ。むろん民や暮らす街もだ」

「・・・・・・・・・」

「幼い頃から私は将来を期待されて、私の父や母も私に軍師として様々な兵法を教え、知恵を授けてくれた。ちょうどその頃だ・・・あの子に出会ったのは・・・」

「雪蓮殿・・・ですか?」

「そうだ・・・・・・私と雪蓮は瞬く間に意気投合し、血は繋がっていないが本当の姉妹のように“断禁の仲”と称され、私も雪蓮が望む国を目指したい。支えたいと心から願っている。その為には自分を律する構えだった」


俺は彼女の“だった”という言葉に引っかかる。彼女か孫呉を裏切るなどあり得ないことだが、やはり気になってしまった。


「私の・・・封じた“女”が毎晩疼いて止まらないのだ・・・」


そういいながら冥琳殿は俺の右頬を触ってこちらの顔を向けさせる。


「め・・・冥・・・琳殿・・・」

「んっ・・・・・・」


冥琳殿は顔を近付けてゆっくり目を閉じ、俺の唇と重ねた。暫く驚きを隠せなかったが俺はやがて同じように目を閉じて、彼女の後頭部に左手を回してより深くキスをする。


「ん・・・んんっ・・・」

「んんっ・・・ん・・・はぁ」


暫くのキスを終えて、俺達は互いを見つめ合う。

夕日に照らされた彼女の顔は美しく、言葉がそれ以外に出てこなかった。


「・・・冥琳殿・・・」

「冥琳でよい」

「冥琳・・・」

「アレックス・・・・・・私はお前を好いている」

「・・・・・・・・・」

「私の中でお前という存在が日を増す毎に強くなっている・・・お前が私の事をどう思っているかは分からない。だがせめて今だけは・・・・・・私だけの物になってくれないだろうか?」


彼女なりの告白は堅苦しいが、その分だけ想いというのが十分に込められている。それだけでも嬉し過ぎる。俺は彼女を優しく包み込み、そのまま寄せ付けた。


「ア・・・アレックス・・・・・・」

「・・・望みは“今だけ”なのかい?」

「えっ?」

「俺的には・・・今だけじゃなくて・・・・・・この先も一緒にってのは駄目かな?」

「アレックス・・・」

「冥琳・・・」


互いの気持ちを伝え合い、俺達は再び目を閉じて、互いの唇を重ねあった。その日の晩、俺達は何度も愛し合い、互いが離れないように抱き合った。


もう絶対に彼女を離したりはしない。たとえそれが運命に逆らった結果になろうとも、俺は絶対に彼女の側から離れたりはしない。


絶対に・・・・・・・・・。



夏侯淵が捕虜となってから約2週間後。交渉が行なわれる五丈原にて蜀と魏の代表者が対峙していた。

捕虜引き換えと領土明け渡し。ただそれだけの筈だったが・・・・・・。


次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”

[五丈原]

交渉の裏側では策略が動いていた。

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