第194話:忠臣
定軍山での戦いに勝利し、夏侯淵を捕虜にした一刀達。夏侯淵の身柄を利用する為に一計を練る。
俺達が定軍山を陥落させてから数日が経過した。あれから魏軍は定軍山から撤退し、北西部にある武都に引き揚げた。
周辺には撤退が間に合わなかった魏軍の残存戦力が転々としており、それ等の討伐や捕縛を中心に動いているのが俺達の現状だ。
先の戦いで魏軍の夏侯淵を捕虜にした露蘭に陽動を見事に成功させた翠と星。更に後方撹乱を実施した紫苑、桔梗、焔耶。
陽動部隊を回収した飴里など、4重に張り巡らした策で、これで魏軍は迂闊にこちらに侵攻できない筈だ。
だけど俺達には別の意味で大変な仕事が残っていた。
「・・・・・・・・・」
「はぁ・・・いつ迄そうやってるつもりなんだ?」
「・・・・・・・・・」
捕虜にした夏侯淵はひとまず定軍山の砦にある牢屋に監禁しており、投獄したその日から正座を崩さないで目を瞑った状態だ。
捕虜だから牢屋に入れるのは仕方が無いが、彼女は食事をいっさい食べず、水も一滴すら飲まないのだ。
「このままじゃ飢え死にするだけなんだから、せめて少しは食べたらどうだ?」
「・・・・・・知らん」
「はぁ・・・露蘭から聞かされてたけど・・・・・・本当に忠臣だね。君は・・・」
「この身も心も全て我が曹 孟徳に捧げたのだ。貴様等蜀になど降るつもりなど毛頭ない」
夏侯淵は左目を小さく開くとそう口にしながら再び閉じる。
「だけどこっちに降るにしろ、魏に帰るにしろ、死んだら元も子もないんだ。そんなことをしたって無駄死にするだけなんだ。だからちょっとでも食べたら?」
「・・・たとえ私が朽ち果てようと、私の魂は我が姉・・・夏侯 元譲が意思を引き継いでくれる。必ずや貴様等を打ち倒し、曹 孟徳の天下を切り拓く」
俺は暫く彼女を伺うが、彼女は今の姿勢を崩さない。そんな状況に溜息を深く吐くと牢屋を後にする。
外には紫苑と桔梗、更には菫という蜀の3大じ・・・・・・・・・もとい、3大お姉さんが待ってくれていた。
「どうでしたか?」
「はぁ・・・やっぱり駄目みたいだ。夏侯淵はこっちに降る気は全く無いみたいだ」
「それは困りましたな・・・あやつの弓の腕前は儂や紫苑と同等と言うのにな」
「かといって処断などすれば魏が黙ってはないでしょう」
「なぁに‼あたいが魏の連中なんざ軽く追い払ってやるさね‼」
「い・・・いや・・・・・・菫・・・今の俺達で真っ向からぶつかったらまず勝ち目はないんだけど・・・」
「大丈夫さね‼あたいは強い‼そんで魏も尻尾巻いて逃げ出すさ‼」
菫は豊満な胸元を叩くように豪語する。
「しかしご主人様。彼女の処遇をすぐにでも検討して頂かないと・・・・・・」
「それは分かってるよ紫苑。だけど夏侯淵は露蘭の従兄妹だし、万が一にでも彼女が死んだりしたら露蘭も堪えると思うんだ」
「御館様、今は戦乱の真っ只中です。他者の気持ちを汲み取るというのは大事でしょうが、それに拘り過ぎますと足下を掬われますぞ」
「それも分かってるさ」
知っていたことだけど捕虜というのは本当に苦労する。
特に夏侯淵のような魏の一角を担う重要人物なら尚更その苦労が倍増する。
このままでは彼女は絶対にこちらに付いてくれそうにないし、かといって下手に処断なんかしたら魏の凄まじい怒りを買って大攻勢のキッカケを与えかねない。
「とにかく、魏が何か動きを見せる前にこちらから先手を打ちたい。定軍山の治安安定にも進めなきゃならないし、この漢中から魏を一掃する意味合いでもね」
「と・・・具体的にはどうなさるのですかな?」
「まずは魏に使者を送る。捕虜解放を条件に漢中からの撤退を交渉してみたい」
「たった1人の将に漢中から撤退ですか・・・・・・いくらあの人が曹操軍の忠臣だとしても、あまりにも条件が不釣合いなのでは?」
「こちら側が捕らえた捕虜全員も引き渡す。向こう側にとっても黒騎兵は貴重な戦力だからね」
「じゃが魏の連中は前に孫策を暗殺しようとした・・・果たしてあやつ等がこちらの誘いに乗るかどうか・・・」
「はっきり言って曹操が素直に要求を呑むかどうかなんて分からない。だけど試す価値はあると思うんだ」
「へぇ〜。旦那には確証があるってんかいな?」
「まず夏侯淵が曹操の忠実な家臣であること。魏内部でかなり重要な地位にいること。この二つが一度に失うと頭脳を傷つけるようなものだからね。まぁ・・・これは賭けのような策だけど・・・・・・」
確かにこの案件は賭けの要素が強すぎる。何しろ曹操がこの提案に乗る保証なんて何処にも無い。
「だけど、この交渉はどっちに転んでも保険は効くから」
「なんだい旦那?その保険ってのは?」
「なるほど・・・・・・魏がこちらの要求を飲めば漢中は手に入る」
「逆に拒めばあの小娘の身柄は放棄。自由に出来るということですな?」
「そういうこと。紫苑、すぐに雛里達に書状を用意させて」
「分かりました」
「桔梗は護衛隊の編成。菫はその護衛隊の指揮を執って」
「御意」
「あいよ。なんだったら褒美は前払いでな♪」
「・・・え?」
「あら♪でしたら私も一緒で構いませんか?」
「えっ⁉ちょ⁉」
「ほう・・・紫苑と菫が望むのであれば・・・儂も頂くとしますかのぅ♪」
「ちょ⁉紫苑⁉桔梗⁉菫⁉どこに⁉」
「「「もちろん閨(ですわ♪)(ですぞ♪)(だよ♪)」」」
「えっ⁉ちょっ⁉まっ・・・・・・・・・」
ご褒美の先払いとして俺は次の日の朝まで付き合わされて、三人は肌がツヤツヤになって、俺には松葉杖を突きながら軍議に参加。
俺の策で交渉が行なわれることとなり、交渉役として飴里、護衛役として菫の部隊が向かうこととなり、その日の昼頃に魏軍駐屯地へと向かった・・・・・・・・・。
無事に戦勝式典を終了させ、久々の休暇を過ごすアレックス。まだ賑わいが収まらない中、アレックスにとって嬉しい出来事が起こる。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[俺が父で彼女が母で]
死神と鷹。距離が一気に縮まる。