第192話:夏侯の名を持つ者達
夏侯覇と夏侯淵。2人の夏侯一族が刃を交える。
天蕩山からカズっち達と一緒に崖から滑り降りて秋蘭の軍勢に奇襲を仕掛けた俺達。その効果は絶大だった。
「北郷流二刀心眼術弐の太刀“皐月”‼」
「ぐはっ⁉」
「でりゃぁああ‼」
「ぎゃっ⁉」
俺とカズっちは馬から飛び降りて周りにいる敵を次々と倒していく。敵の主力はどうやら黒騎兵みたいだけど、流石に予測すらしていなかった急勾配の崖からの奇襲には対応が遅れたようだ。だから俺は遠慮なくこいつ等に仕掛けて回る。
「カズっち‼この調子ならいけるぜ‼」
「あぁ‼だけど油断は禁物だよ露蘭‼」
「解ってるさ‼なんせ相手は秋蘭だ‼こんな程度で退却するなんてありはしないからな‼」
劉備軍の中で華琳達のことを一番知ってるのは魏軍にいたことがある俺だけだ。だから従兄妹の秋蘭がどんな性格なのか理解してるつもりだ。
そんなことを考えていると俺はすぐに北欧天龍を構えて攻撃を防ぐ。そこに来たのは一本の弓矢。しかも寸分狂いなしの正確な一撃で、少しでも反応が遅れてたら間違い無く額に突き刺さってた一撃だ。
突き刺さってた弓矢を取り除いて俺は西欧海龍の鋒を弓矢が飛来した方角に向ける。
そこにいたのは俺が知ってる顔触れだった。
「あの瞬間で私の一撃を防ぐとは・・・・・・流石は兄者・と言った処か・・・」
「お久しぶりですな・・・夏侯覇殿」
「げっ⁉ま・・・参刃かよ⁉」
おいおいおい・・・マジかよ・・・。秋蘭の他にも参刃がいる。面識があるだけならまだ良いんだけど、苦手な相手なんだよな・・・参刃は・・・。
「あの天蕩山の絶壁をまさか下ってくるとは・・・流石に予測していなかったよ」
「へへっ‼当然だぜ‼なんせ俺達は最高の義兄弟なんだからさ‼」
「だが・・・そう簡単に定群山は渡せぬ・・・敵となったからには華琳様の為にも・・・」
そういうと秋蘭は餓狼爪を構える。
「貴様を討ち取らせて貰うぞ‼夏侯覇 仲権‼」
「あぁ‼掛かって来い秋蘭‼」
「露蘭‼夏侯淵は任せた‼」
「あいよ‼任せされて‼」
「“天の御遣い”と謳われる北郷殿と刃を交えられるとは武人として感無量‼この鄧 士載‼全力でお相手させて頂く‼」
「貴方が“魏武の猛虎”か⁉俺も全力でやらせてもらいます‼」
そういいながらカズっちは参刃と闘いを始めた。神龍双牙と破城旋棍が互いに火花を散らし合い、カズっちと参刃も互いの誇りを掛けて闘う。
対する俺達の闘いも秋蘭の先制で幕を開けた。
「我が一撃‼受けてみろ‼」
「解り易いぜ‼んなもんが当たるかよ‼」
秋蘭は得意の3本同時で弓矢を放つが、俺は全てを空中で叩き落とし、そのまま一気に距離を詰めるため懐に飛び込もうとする。
だがそれを簡単に許す秋蘭じゃなかった。
「おっと⁉」
「そう容易くこの夏侯 妙才に近付けると思わないほうがいいぞ‼」
「へん‼上等‼」
俺の動きを封じる為に足下に弓矢を射て、動きを止めた瞬間に本命を撃ち込んで来たけど、北欧天龍でそれを弾く。その隙に秋蘭は距離を離して攻撃を仕掛けてくるが、それを全部弾いてやった。
「うっは〜‼やっぱ秋蘭は強いわ‼中々近づけねぇ‼」
「当たり前だ。私は華琳様にお仕えする将だ。我が主、曹 孟徳に全てを捧げると誓ったのだ」
「全ては華琳・・・いや・・・“曹一族”の為にってやつか?」
「兄者・・・・・・今からでもまだ間に合う。華琳様には私からも頭を下げて悲願する。いい加減に帰って来てはくれぬか?」
「はっ?いきなり何を言い出すんだよ」
「兄者も気が付いている筈だ。劉備や北郷のような理想だけ翳すだけではこの国に大平は来ない」
「・・・隼照にも同じこと言われたぜ・・・」
「華琳様の覇道こそがこの国に大平を齎すと確信している・・・だから今からでも遅くはない・・・戻って来てはくれぬか?」
「・・・・・・・・・」
「遥の為にも・・・」
俺は遥の名前を聞いて言葉を控えた。だけど暫くしてから軽く口元を笑わす。
「ありがとな・・・秋蘭・・・だけどそれは無理な話だ」
「・・・・・・何故だ?」
「確かに理を示して華琳の力で律する覇道なら乱世は終わるかもしれない」
「だったら「けどな・・・」・・・」
「けどな・・・・・・力で抑え付けるってやり方・・・そんなのに民や家族に笑顔だなんて叶わない」
俺はそういいながら被ってた兜を脱ぎ、それを地面に落とした。
「俺は・・・カズっちや飴里・・・ライルの兄貴と会って・・・・・・霞・・・張遼と出会って・・・俺の過去を打ち明けても俺を家族として迎えいれてくれたみんなを守りたい・・・」
「・・・・・・・・・」
「だから・・・」
そういいながら西欧海龍を再び秋蘭に向ける。
「俺はもう過去には縛られねぇ‼カズっちやみんなの為に俺は・・・あんたに勝つ‼夏侯淵 妙才‼」
「兄者・・・・・・変わらないな・・・」
「あぁ‼」
「そうか・・・・・・ならばこの夏侯 妙才‼曹 孟徳の忠臣にして‼夏侯一族の誇りにも掛けて貴様を討ち取る‼夏侯覇 仲権‼」
今までに無かった闘気を発しながら、秋蘭はまるで雨のように弓矢を放って来た。対する俺も北欧天龍を地面に突き刺し、両手で西欧海龍を構えると全ての矢を叩き落とし、そのまま一気に秋蘭の懐に飛び込んだ。
「甘いぞ‼」
だがその程度で秋蘭は怯まなかった。俺が懐に飛び込むと左足で強力な回し蹴りを見舞って来た。
俺は素早く後ろに飛んで回避するけど、秋蘭は餓狼爪の姫反りと小反りで仕掛けて来た。
「ちぃ⁉」
秋蘭は奇襲の使い手でもあり、こいつの餓狼爪は特別製だ。姫反りと小反りには小刀が仕込まれており、不意に近付いて来た敵に対して確実な一撃を加える。
秋蘭は餓狼爪を薙刀みたいに扱い、俺を翻弄させる。だけど純粋な剣術なら俺に分がある。
いっちょ“あれ”を使って見るとすっか。
「悪いな秋蘭‼一気に決めさせてもらうぜ‼」
「やれるならやって見せろ‼」
「その言葉・・・忘れるなよな‼・・・はぁああああああ‼‼」
「くっ⁉な・・・なんだ・・・・・・氣が膨れ上がっている⁉」
俺は西欧海龍を背中で背負いような姿勢で構え、足幅を肩の位置にまで持ってくる。そこから右膝を曲げて左足を前に出す。
そして力を込めてそれを一気に振りかざした。
「必殺“爆雷猛龍斬”‼」
俺だけの必殺技“爆雷猛龍斬”。カズっちが素早さ、飴里が技で優れているに対して俺は力で2人に勝る。
ライルの兄貴がくれた西欧海龍は氣が流しやすく、同時にその氣を溜め込んで渾身の一撃を浴びせられる。その特性と2人の利点を組み合わせたのが爆雷猛龍斬ってわけだ。
「うぉらあああああ‼‼」
「ぐっ⁉・・・・・・かはっ⁉」
秋蘭は爆雷猛龍斬を餓狼爪で受け止めるが耐え切れず、その反動で城壁に身体を叩きつけた。手に持っていた餓狼爪は中央から完全に折れ、破片が辺りに散らばった。俺は構えを解き、ゆっくりと歩み寄ると西欧海龍の鋒を秋蘭の喉元に突き付けた。
「・・・・・・俺の勝ちだ」
「ぐっ・・・・・・侮っていたか・・・私は・・・」
「言っただろ?過去に囚われないって・・・」
「・・・・・・き・・・斬れ」
「悪いけど、そいつは断るぜ」
「な・・・情けを・・・・・・掛ける・・・のか?」
「俺の役目はお前を捕らえることなんでね♪だから・・・」
そういうと鋒を外す代わりに、秋蘭の腹に力を込めて拳を見舞った。
「がはっ⁉」
「・・・ちょっと眠ってもらうぜ・・・」
「ぐ・・・姉者・・・華琳・・・様・・・」
意識が薄れる中、秋蘭は春蘭と華琳の名前を口にして気を失った。それを確認した俺は西欧海龍を高く掲げた。
「敵将夏侯淵‼劉備軍武将夏侯覇が生け捕った‼」
俺の勝利宣言で仲間達は歓声を挙げ、カズっちと闘っている参刃もそれに振り向いた。
「なっ⁉夏侯淵将軍‼」
「おっと⁉ここから先には行かせません‼」
「くっ⁉・・・・・・撤退だ‼退け‼」
秋蘭が捕まったことを知った参刃は助け出そうとするがカズっち達に阻まれ、すぐにそれが不可能だと判断したようで部下に撤退命令を出して本陣から退却を始める。
1人の将に部下達を危険に晒せない。流石は生粋の軍人だぜ。
俺は捕らえた秋蘭を拘束し、暫くしてから制圧した定軍山の守備を固めるのだった・・・・・・・・・。
孫静を討ち取ったライル達。街を解放した孫策軍は悠々と建業に凱旋を果たす。鳴り響く楽器に勝利を祝う民の歓声。それ等を浴びながらウルフパックも前進する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[凱旋]
ライル達は勝利を噛みしめる。