第189話:天蕩山からの奇襲
一刀と露蘭。2人の白が奇襲を仕掛ける。
何とか飴里の方は間に合ったようだ。ここから翠が討ち取られそうになった時にはいても立ってもいられない衝動に駆られたが、間に合って安堵の表情を浮かべる。
南蛮から戻って来た俺達南蛮平定軍はすぐに兵を纏めて俺と露蘭率いる分遣隊は直ぐに定軍山へと急行し、紫苑と桔梗、焔耶は別働隊として長安から向かって来る輜重隊へゲリラ攻撃を仕掛ける為、それぞれ向かった。
だけど流石は飴里だ。俺が前にさりげなく話した戦術の利点と地形を瞬時に照らし合わせて今回の策を思いついたのだ。
俺は愛馬の飛燕に跨りながらライルさんが前にくれた双眼鏡を覗いて様子を伺っていた。
「よかった・・・翠は無事みたいだ」
「本当か⁉」
「あぁ・・・飴里が間に合って間一髪の処で攻撃を受けずにすんだみたいだ」
「よ・・・よかったぜ〜・・・」
隣にいた露蘭も胸を下ろして安堵する。向こうでは睨み合いを続けている飴里と王異と思わしき女性。星と徐晃が一騎打ちを繰り広げている状態だ。鄧艾と楽進達がいないのが気になるけど、あの周辺にいるというのは間違いない。
俺は双眼鏡をしまうと神龍双牙を抜刀し、目の前を改めて確認する。
「よし、次は俺達が飴里に応える番だ。気合を入れていくよ」
「な・・・なあ・・・・・・カズっち」
「なに?」
「いや・・・飴里から聞かされてはいたけど・・・・・・本当にここからいくのか?」
そういうと露蘭は同じ方角を指差す。そこに広がるのは急勾配となっている崖。殆ど隣の定軍山目掛けて一直線になるように向かっており、所々に岩や木々が点在している崖だ。
だけど俺は表情を変えることなく魏軍の本陣を見下ろしていた。
「当たり前さ。何しろ正面は完全に固められてるし、別の道も今頃はがっちり防御されてる筈。魏軍の不意を完全に突くんだったらこの手段しかないよ」
「いやいやいやいや・・・・・・だからってこんな崖から奇襲するなんて聞いたことがないぜ」
「ふふっ・・・・・・まあそうだろうね。俺だって何も知らずにやらされそうになったら足が竦むよ。だけど・・・」
「だけど?」
「俺達なら出来る。一緒に誓いを建てた義兄弟なんだからさ」
俺がそういうと露蘭は少し照れ臭そうにしながらも、しばらくして北欧天龍から西欧海龍を抜刀し、右手で構える。
「まっ・・・そりゃそうだな・・・・・・俺達なら出来る‼出来るったら出来るってな‼」
「あぁ‼その通り‼」
俺達はそれぞれ神龍双牙と西欧海龍の鋒を天高く掲げ、キンッという音をたてる。
俺達が気合を入れあっていると部下の一人が戟を手に歩み寄って来た。
「北郷様、部隊の出陣準備が整いました」
「ありがとう。士気の方は?」
「はっ。劉天刃の騎兵隊は士気が最高潮を迎え、出陣を心待ちにしています」
報告を受けて俺は後ろに振り返る。そこには馬に跨り、刀や槍、戟、弓を片手に待機している騎兵隊が凛々しい表情で待ち焦がれていた。それに軽く笑いながら俺は再び神龍双牙を高く掲げた。
“よし‼準備は整った‼この漢中を制すれば益州の守りはより強固となり、みんなの大事な家族が安全となる‼
俺達の家族の為‼仲間の為‼大事な人の為‼それぞれ皆は心に秘めている想いは様々だ‼
だが‼
その想い一つ一つがここにいる全員に力を与え、皆を守る支えとなる‼皆のその力を一つに纏め、家族達が笑える世界を‼”
『応っ‼劉備様と北郷様の“仁の世”の為に‼』
俺が軽く鬨を揚げると全員がそれぞれの武器を高く掲げ、同じように鬨を揚げる。これでさらに士気は高まっただろう。俺は神龍双牙を繋げて薙刀にすると手綱をしっかりと掴んだ。
「劉天刃隊‼‼俺達に続けぇええ‼‼」
『うぉおおおおおおおお‼‼‼』
そう叫ぶと飛燕は一気に飛び上がり、崖を一気に下っていく。露蘭を始め、部下達も俺に続いて同じように崖を降る。
平安時代の末期の寿永3年2月7日に摂津国福原および須磨で行われた源軍と平軍により繰り広げられた戦いである一ノ谷の戦いにおいて、源 義経がやったとされる“逆落とし”である。
今回の地形が一ノ谷とよく似ている。切り立った崖の先には魏軍の本陣。加えて魏軍はここに背を向けているような状態で構えている。流石に奇襲を得意とする夏侯淵もこれは思いにもよらないだろう。
ただ欠点があるとすれば俺達は奇襲部隊ということもあって数はかなり少ないし、夏侯淵は曹操の股肱。間違いなく援軍を送ってくる筈だ。
だから敵の防備が手薄な内に定軍山を陥落させる今しか好機がない。手間取っているとやがてはこちらは退却するしかなくなる。
だから今回は迅速かつ確実に定軍山を奪取しなければならない。俺は手綱を操りながら露蘭に話しかける。
「露蘭‼大丈夫かい⁉」
「全然平気さ‼むしろ迫力があって楽しいぜ‼」
「悪いけど一番乗りは俺だよ‼」
「あっ⁉だったら勝負だぜカズっち‼いぃいやっほぅうううう‼‼」
露蘭は愛馬“雷電”を更に速く走らせ、俺も負けずに飛燕の速度を更に速めた。そして敵の本陣のすぐ手前で同時に二頭が飛び、ほぼ同時に近くにいた敵兵を踏み潰しながら着地した。
「敵陣に到着だ‼一気に陥落させるぞ‼」
「よっしゃ‼やってやるぜ‼」
動揺している魏軍に斬りかかる俺達。ここまで来たら引き返すことは叶わない。神龍双牙を構えながら飛燕から飛び降りた俺は一気に敵集団に斬りかかる・・・・・・・・・。
追い詰められたライルの下に駆け付けた雪蓮。最後の抵抗で刃向かう孫静の手駒を蹴散らしながら孫静に近づく。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[ファイアストーム 後編]
オペレーション“ファイアストーム”は終息へと向かう。