第186話:陸の王者
陸の王者、エイブラムスが駆け巡る。
茶子山方面。ここには反乱軍の大規模な訓練施設や兵器・武器保管施設、更には魚油の保管場所が集結しているらしく、反乱軍の生命線ともいえる場所だ。
中佐率いるハルバート隊が長沙本城に奇襲を仕掛けている間に少佐の指揮下で俺達ウォーランス隊も敵中に飛び込んでいた。
「ガナー‼10時方向‼敵の弓兵隊を狙え‼」
「見つけた‼撃ちます‼」
「次弾装填‼引き続きHEAT‼」
「HEAT装填よし‼」
「ドライバー‼速度そのまま‼味方を撥ねるなよ‼」
「了解‼敵なら踏み潰してやります‼」
俺達ウォーランス1クルーが搭乗するM1A2エイブラムスの007号車、愛称“ヴィットマン”は見える敵に対してM830 HEAT-MP-Tを撃ち込んだり、距離が近い敵に対しては同軸機関銃のM240や砲身基部に搭載しているM2重機関銃で確実に仕留める。
この2年間で俺達のM1A2もかなり改良がされている。
まずは対戦車能力を必要最小限にまで抑え、そこに対人対策としてTUSK(Tank Urban Survival Kit)を採用。戦車長用にPROTECTOR CROWSと呼ばれるRWS(Remote Weapon System)を採用。M2重機関銃と組み合わせて搭乗員の危険性を軽減させている。
他にも装填手周囲と機関銃に盾を追加、装填手用機関銃に暗視照準機を追加。
対人用火力と安全性の向上に成功しており、人海戦術が基本であるこの時代に適したものとなっている。
因みにPROTECTOR CROWSはハンヴィーやパラディンなどの車両にも搭載されており、全体的な攻撃力向上にも貢献している。
それと余談ではあるが、全ての車両には愛称があり、それぞれ好きな番号を描かれている。
<ウォーランス2から1‼敵増援を確認‼>
<3から報告‼敵の投石機を撃破‼任務を続行します‼>
<こちらウォーランス4‼残弾残り僅か‼いちど後退します‼>
<ウォーランス5から大尉‼4の護衛に回ります‼>
<ウォーランス6から4‼穴は埋めてやる‼>
他の車両もそれぞれ戦果を挙げているようであり、敵増援に対しても迅速に反応している。俺も近くに接近していた敵兵にPROTECTOR CROWSを使って仕留める。
「くそっ⁉流石に抵抗が激しい‼」
「奴等にとってここは生命線ですからね⁉必死なんでしょ⁉」
「全くだ‼人の迷惑も考えやがれってんだ‼・・・正面に敵兵‼」
「大尉‼M830A1残り10‼とM1028が8発‼」
「機銃を使え‼」
ただこちらも立て続けに砲撃していたので残弾数が少なく、心持たない状態だが後退は出来ない。仕方無く節約で機銃中心にして敵を薙ぎ払う。
<アイアンマンからウォーランス1‼こちらはそちらから2時方向に展開しているが弓兵と大型連弩の抵抗が激しく身動きが取れない‼そこから片付けてくれ‼>
RWSを使って少佐がいる方角を確認する。すると700mほど離れた場所に少佐達を確認した。そして撃ち下ろす形で丘の頂上には物陰に隠れながら少佐を攻撃している敵弓兵と連弩が少佐達を攻撃していた。
「こちらウォーランス4‼確認しました‼」
<頼んだ‼こちらは負傷者4名‼素早く片付けてくれ‼>
「了解‼・・・・・・ガナー‼目標2時‼距離700‼丘の上の敵部隊‼」
「目標捕捉‼」
「HEAT装填‼」
「撃て‼」
目標を指示して装填手が素早くM830A1を装填。砲手のジェイク軍曹もすぐに照準を合わせてトリガーを引いた。
撃ち出されたHEAT-MP-Tはしっかりと敵弓兵部隊へと向かっていき、着弾すると木っ端微塵に吹き飛ばした。
「目標に命中‼」
「次弾装填‼目標連弩‼」
「装填よし‼」
「照準よし‼」
「撃て‼」
次の目標である大型連弩に照準を合わせて発砲。こちらも直撃して木っ端微塵に破壊し、周辺に破片を撒き散らして二次被害を齎した。
連続で次の連弩も破壊して、少佐達を攻撃していた脅威を排除した。
<こちらアイアンマン‼目標の排除を確認‼いい腕だ‼これより施設に接近する‼>
「了解です少佐‼こちらは別ルートで引き続き残敵の掃討に回ります‼ウォーランス1 out‼」
少佐達の前進を確認し、俺達は別ルートから前進を再開。敵のルートを遮断して脱出を阻止することがウォーランス隊の任務だ。
敵陣地に続く道を進み、補給に戻っていたウォーランス4と5も合流して小隊縦隊隊形にて前進をしていた。
「ウォーランス1から各車へ。周辺の警戒を厳にし、敵との突発的攻撃に備えよ」
<2了解>
<3了解>
<4了解>
<5了解>
<6了解>
小隊縦隊隊形を取りつつ各車は担当されている方角を警戒する。この場合だったら先頭の俺達が前方で2が右前、3が左前で4が右後ろ。5が左後ろを警戒して6が後方となる。
こうすれば待ち構えている敵に対しても素早く発見させられ、尚且つ先手を打てる。
「大尉、11次方向の丘に人影を確認。恐らく民兵です」
「武装しているのか?」
「いえ、こちらを見ているだけです」
<絶対に俺達を見張ってますよ大尉>
「それだけじゃ撃てないな・・・」
ひとまずはRWSを向けながら前進していく。するとさっきの民兵がなにやら片手を挙げていた。
「さっきの奴・・・なにをしてるんだ?」
「分かりませんね・・・」
「警戒は続ける<大尉‼10時方向から攻撃‼>なっ⁉」
こちらから10時方向を見ると複数の岩がこちらに飛来してきていた。
「くそっ⁉全車避けろ‼」
<散開しろ‼殺られるぞ‼>
降り注ぐ投石攻撃に俺達はすぐに散開。時にはRWSを使って岩を破壊していく。照準を合わせようにも敵は稜線を盾にしていてこちらからでは狙えない。
「くそっ⁉撃ち落としてもキリがないぞ‼」
「大尉‼このままじゃまずいです‼」
「分かってる‼ウォーランス1からウォーランス隊各員‼これより敵陣に対して突撃を敢行する‼ラインフォーメーションを組んで一気に突っ込むぞ‼」
<ウォーランス2了解‼>
<突撃上等‼奴等をビビらせてやります‼>
「スモーク散布‼」
無線でスモーク散布を指示すると全車から砲塔左右に取り付けられている8連装スモークディスチャージャーよりスモークが散布された。
このスモークは肉眼像だけでなく熱線映像も遮り、今は不要になっているが煙幕弾の代わりにチャフを発射することも出来る代物だ。
「スモーク展開確認‼行けます‼」
「こちらレオン大尉だ‼全車突撃‼前へ‼」
≪了解‼≫
無線で突撃開始を指示し、俺達を先頭に他のエイブラムスも後に続いて敵陣に突撃が始まる。スモークの中を突き進み、その間にも投石攻撃は続いているが命中する筈もなく、やがては攻撃が止んできた。
そしてスモークを突き抜けて丘を駆け上り、頂上に到着するとその先には敵の投石機陣地が見える。周辺には投石機用の岩が側に積み上げられ、いきなりの出現に敵は動揺していた。
「各車へ‼自由射撃だ‼すべて破壊しろ‼」
ここから先は言葉が無用だ。
自由射撃で全てのエイブラムスからほぼ一斉にHEAT-MP-Tが投石機に撃ち込まれ、周辺に瓦礫や放たれる直前の岩が周辺にいた敵兵に降り注がれる。
生き残って敗走していく敵兵には機銃掃射で始末していき、数分後には投石機陣地を制圧した。
「敵の殲滅を確認‼被害状況を報告・・・・・・必要ないか・・・」
敵の殲滅を確認したら俺は車外に身を乗り出して辺りを見渡す。他のエイブラムスに目立った損害は見当たらず、俺のエイブラムスにも小さな擦り傷を除いて損害は見当たらない。
「ウォーランス1からHQ」
<ウォーランス1、どうぞ>
「報告する。敵の投石機陣地による待ち伏せを受けたが、こちらの反撃で陣地は壊滅排除した」
<了解です大尉>
「それとこちらに補給部隊を要請。砲弾がほぼ空だ」
<確認しました。補給部隊を手配します。現在地にて待機して下さい>
「頼む」
HQにいるイリーナに報告と補給申請すると、その直後に茶子山から激しい爆音。それに少し驚いて振り向くと爆炎に黒煙。それが悠々と天高く舞い上がっていた。
「少佐達の方は成功したようだな・・・・・・」
<派手な花火ですね>
<全くだ。ざまあみやがれ>
「各車へ。敵の施設は破壊されたようだ。俺達は補給が完了次第すぐに本隊と合流。残敵の掃討に向かうぞ。了解か?」
≪了解≫
「それまで少し休んでおけ。パニッシャー out」
無線で今後の行動を指示すると俺はCVCヘルメットと掛けていたサングラスを外し、黒煙が立ち上る茶子山を眺めるのであった・・・。
一触即発の定軍山。蜀軍と魏軍が睨み合い、やがてそれは切って落とされる。
蜀軍による先制攻撃。その先鋒の翠に因縁の王異が対峙する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[馬超と王異]
錦と謳われた翠に妖華が立ち塞がる。