第18話:小覇王との出会い
膠着状態に陥った泗水関の夜空に2人の英雄が対峙する。
劉備義勇軍による第1次泗水関攻撃が失敗した。俺達の電撃的な作戦行動で嵐を救出することができ、更にはジーンが話していた迷い込んだ人間である“天の御遣い”こと北郷 一刀とも接触できた。
ジーンに報告すると引き続き調査を続行するように指示される。
報告を済ませると息抜き目的で泗水関の外に出るべく、俺はサプレッサーとEO Tech551、M300 LEDフラッシュライトを取り付けたMP7A1を手にするとスリングを肩にかけて城門へと歩き出す。
「ライル将軍、どちらへ?」
「息抜きだ。少し外の空気を吸ってくる」
「分かりました・・・・・・門を少し開けろ」
「応」
城門守備の指揮官が指示すると他の兵士が城門を人1人通れるだけ開ける。確認したらそこから外に出る。
そこから暫く歩いて劉備義勇軍との戦闘があった場所に到着する。
死体はこの時代だとそのまま放置されるのかと思ったが、実際はしっかりと回収されている。
まあ、戦ったのがあの劉備軍だからだろう。もしこれが袁紹軍なら死体は確実に放置さるただろう。
「はぁ・・・流石に冷えるな・・・」
冷たい風に思わず身震いする。季節は真冬で今は止んでいるが地面には雪が積もっている。冬用迷彩服などをいずれは用意する必要があるとくだらないことを考えていると、連合軍の陣地がある方角から何かが聞こえて来た。馬が駆ける際の音だ。数から判断して単騎掛け。
俺はMP7A1に初弾を装填して振り向くとやはり1人だった。それも女性だ。
「あら、先客がいたの?」
かなり大胆なデザインをしたチャイナ服に桃色のロングヘアをした女性。外見的特徴から、孫策軍大将の“江東の小覇王”こと孫策 伯符と思われる。
しかし確信は持てていないので警戒を解かずに尋ねて見る。
「・・・袁術軍客将、孫策軍大将の孫策 伯符殿とお見受けする」
「何処かで会ったことが?」
「直接はありません。聞かされていた外見的特徴と一致していましたから、もしやと・・・・・・」
「そうよね、だってあなたみたいないい男、会ったことがあったら絶対に忘れないもの♪」
笑みを見せながらからかっているのか本心なのか分からないことをいう孫策。どうもこの手の人物は考えが読めないから苦手だ。
何しろ軍事作戦とは相手の動きを予測して実行するものだが、相手の考えが読めないということは危険極まりない。
「それで・・・素敵なあなたの名前は?」
「・・・答える必要が?」
「ブーブー、いいじゃない。教えてくれたって・・・・・・じゃあ当ててあげましょうか?」
そういうと子供みたいに人差し指を指して俺を示して来た。
「あなた・・・・・・ライルでしょ?董卓軍に雇われてる傭兵部隊の隊長をしてる」
「・・・・・・ご名答です」
「やった♪やっぱり私の勘は当たるわね♪」
勘って・・・・・・・・・。仮にも一指導者が勘に頼るか普通・・・・・・。
「それにしてもあなた達って強くて厄介ね、たった100人足らずの兵力で御遣い君を追い返しちゃうんだから♪」
「はあ・・・・・・私からすればあなた達も充分に厄介ですよ」
「分かるの?」
「ええ。我等が厄介としている勢力は3つ。自らを“覇王”と称し、文武両道で時には自らも最前戦に切り込むこともある曹操 孟徳率いる曹操軍。
数こそは少ないものの、優れた武将と軍師を多数保有し、一般兵も高い団結力で結ばれ、天の御遣いという北郷 一刀の加護を受けた劉備 玄徳率いる劉備義勇軍。
そして“江東の小覇王”という異名で知られ、民や兵士達を自分の家族のように慕い、家族にあだなす敵に無慈悲の攻撃を与えるあなた、孫策 伯符率いる孫策軍の3つ。それに比べても他勢力は有象無象。特に袁紹の軍勢は数以外は全く脅威にならない雑兵の集まりでしかない」
「嬉しいこといってくれるわね♪」
「そりゃどうも」
彼女が微笑むと俺も軽く笑みをを浮かべる。俺が孫策にいったことはこれまで入手した情報に基づいた結論だ。しかし言わなかったが俺自身が最も厄介と判断しているのは孫策そのものだ。情報しかないが彼女の実力は連合の中でも最強とされる。
「まあ、俺はこれで失礼させてもらいますよ」
「あら、このまま帰すと思う?」
そういうと孫策は身につけている剣の柄に手を掛ける。それと同時に彼女の雰囲気が変わった。先程までの彼女は子供みたいに無邪気さが見えたが、柄を手にした瞬間に彼女から凄まじく強烈な闘気と覇気、殺気が溢れ出す。その姿はまさに“小覇王”と呼ぶに相応しいですものだ。
俺はMP7A1を構えるが、暫く睨み合っていると彼女から先程の雰囲気が四散した。
「や〜めた♪」
「?」
「だって勝てる気がしないんだもん♪」
彼女が片目を瞑って舌をだして答える。不覚にも可愛いと思ってしまい、少し赤くした顔を反らす。
「行っていいわ。だって私もここに来たのって夜風に当たりたかっただけだから」
「そうですか、それでは戻らせて頂きます。ああ、それと・・・・・・・・・」
「なに?」
「泗水関の戦いは3日後に終わるかも知れませんよ。劉備義勇軍と共に一番乗り出来たらいいですね?」
意味あり気に言い放つ俺に彼女も意図を理解したのか、先程の笑みを浮かべて来る。
「そうね、確かに一番乗り出来たら気持ちいいもんね♪」
「それでは・・・」
「ええ、次は戦場じゃない場所で会いたいわね♪」
そういうと俺達は互いの陣営に戻って行く。それから3日後、当初の予定通り俺達は泗水関を放棄して虎牢関に撤退。無人となった泗水関を劉備義勇軍と同行を申し出た孫策軍により無血開城される。
なお、俺がなぜ孫策に独り言みたいな情報提供をしたのかその時は分からなかった。しかしそれは後々になって分かることになる。
徹底的に時間を稼ぐライル達。完全に甘く見ている袁紹軍が4度目の進軍で信じられないことをやらかしてしまう。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[戦士に対する愚弄]
難攻不落の虎牢関に狼の怒声が鳴り響く。
*前話の予告通り、一刀の武器を記載します。
心龍双牙
北郷流二刀心眼術の使い手である一刀が使用する特殊な日本刀。
刀身120cmで柄が赤色の“天”と柄が青色の“地”の2本で一本という刀で、柄頭に接続部が設けられて、組み合わせることで双刀の薙刀としても使用できる。切れ味は巨大な岩をも破片を出さずに文字通り一刀両断に出来る。