第170話:ゴッドヴェイドー
ライルが倒れたあの日の話が語られる。
面会を全て終えた俺の自室。今はここに久々の客人が見えていた。
「毒気は殆ど抜けたようだな。これなら数日で復帰出来るだろう」
「そうか・・・すまないな神医」
「いや、お前達とは親友だからな。当然のことをしただけだし、俺は医者だ。患者がいるんだったらそれを助け出すのが俺の使命だ」
「私も頑張りましたよ」
「華蓮もだ。治療に励んでくれて助かったよ」
「えへへ〜♪」
「あんらぁ〜♪私達だってライルちゃんの為に頑張ったんだからねん♪」
「うむ‼神医殿の大事な友なら我等の友でもあるからな‼」
部屋の中にいたのは俺が毒矢を受けたと聞いて駆け付けた神医に華蓮。更には入城する際に一悶着を起こしたと思う貂蟬と卑弥呼。
相変わらず貂蟬は身体をくねらせ、卑弥呼は肉体を見せつけるかの如く胸を張る。
頼むからやめてくれ・・・・・・病状が悪化しそうだ。
何故この3人がいるかというと、俺が毒矢で気を失っていたあの時まで遡る・・・・・・・・・。
「ライル様‼‼ライル様‼‼」
ライル様が魏による刺客の毒矢で倒れた。雪蓮姉様を守る為に庇ったと聞いている。
今はこの城には雪蓮姉様達はいない。曹操軍を撃滅する為に軍を率いて合肥へと出陣しているからだ。
時折ではあるけれど合肥から轟音が聞こえてきている。多分はアレックス様達が魏軍に大打撃を与えていると思うけれど、今の私の役目は城に残り、ライル様の治療をすることである。
私はゴッドベイドーの医者でもあるから任されたが、一向にライル様の容体が戻らない。それどころか僅かずつだけれども氣の流れが弱くなっている。
「ライル様‼お願いです‼まだ向こうに逝かないで‼呉には彼方の力が必要なんですよ⁉雪蓮姉様を置いて逝くんですか⁉」
私はライル様に話しかけながら氣を送り続ける。しかしこのままでは私の氣がいずれかは底を尽きてしまい、そうなったらライル様は死んでしまう。
「くっ⁉私じゃ・・・私じゃまだ・・・・・・駄目なの・・・?」
私はゴッドベイドーを身に付けたいというのには理由があった。きっかけは父様が病死されたこと。
その時に何も出来なかった私は父様みたいな人を1人でも無くしたい一心で漢中へ単身で渡り、そこで張魯先生の教えを請い、ゴッドベイドーを学んだ。
だけどこのままではライル様が死んでしまうだけではなく、張魯先生にも申し訳が立たない。私は歯を食いしばりながら必死に氣を送り続ける。
「お願い・・・・・・神様・・・私に・・・私に・・・・・・・・・ライル様を助け出す力を下さい・・・お願いです・・・」
必死で心の中で祈ると、不意に扉が開かれた。そこには・・・。
「患者はどこだ⁉」
「か・・・神医様⁉」
そこにいたのは張魯先生の下で修行していた頃の兄弟子で、私の本当のお兄さんみたいな人でもある華佗様だった。
「華蓮‼待たせたな‼」
「私もいるわよん華蓮ちゃ〜ん♪」
「華蓮よ‼我等も力を貸すぞ‼」
背後からは貂蟬様と卑弥呼様も来てくれた。これなら何とかなるかも知れません・・・・・・やって見せます‼。
「ほぅ〜ら♪忘れ物を届けに来たわよん♪」
「我等が道を切り開く‼お主は病魔とやらを叩きのめせ‼」
「お二人とも・・・それは⁉」
「必要なものなのでしょ?さ、使ってん」
そういいながら貂蟬様はいつも履いている桃色の一張羅から赤色の針を取り出す。これは私が張魯先生から貰ったものであり、無くすといけなかったから一先ず張魯先生の処に預かって貰っていたものである。
「はい‼ありがとうございます‼」
「卑弥呼‼貂蟬‼2人はライルに氣を流し続けてくれ‼俺と華蓮がその間に病魔を滅する‼」
「分かったわん♪・・・・・・ぶるぅらぁあああああああああ‼‼‼」
「ぬあぁあああああああああああああ‼‼‼」
卑弥呼様と貂蟬様は膨大なまでの氣を全身から引き出し、それをライル様へと注入していく。その間に私達は病魔の元凶を探し出す。
「これか・・・違うな・・・ここでもない・・・」
「何処なの?・・・どこに・・・・・・」
「こいつか・・・・・・見つけた‼」
病魔の元凶を神医様が見つけた。場所は心臓の少しだけ右上辺りを示していた。
「これは・・・かなり手強い病魔だが・・・我が親友を死なせはしない‼」
「病魔なんかにライル様を渡しはしません‼」
「華蓮‼」
「はい‼」
互いにそう言い合うと私は紅針。神医様は金針を手にしてそれぞれ氣を流し込み、やがては針が輝き出す。
「うぉおおおおおお‼我が金針‼」
「はぁああああああ‼我が紅針‼」
「我が友を蝕む悪き病魔を駆逐する‼」
「我が英雄を救う力を持って病魔を打ち払う‼」
「我が身‼」
「我が鍼と一つなり‼」
「一鍼同体‼」
「全力全快‼」
「必察必治癒‼」
「病魔覆滅‼」
「「もっと輝け‼‼賦相成・五斗米道オォォォォォッ‼」」
ゴッドヴェイドーの最終奥義である賦相成・五斗米道。膨大なまでの氣を使う見返りにどんな強力な病魔をも撃滅させることが出来る究極奥義をライル様に使うことにした。
「「げ・ん・き・に・・・なぁああれええええええっ‼‼」」
一気に私達はライル様を蝕む病魔の場所に突き刺し、収縮させた氣を一気に解放させた。そして全ての氣を流し込み、刺した針をライル様から離した。
「「貴様の野望‼もはやこれまで‼病魔退散‼‼」」
その後はライル様を安静にさせて、私達は容体を確認しながら隣の部屋で待機していたがその後が大変だった。
何しろ心から心配していた雪蓮姉様はつきっきりで介護したいと言い、最終的にはこちらが折れざる得なかった。
しかし父様と母様が亡くなった時には涙一つ流さなかった雪蓮姉様が無事だと聞いて号泣していた。
それほどまでに雪蓮姉様はライル様を愛していると感じた。なんだか嫉妬しそうでしたがそれ以上に嬉しかったです・・・・・・。
「しかし本当に2人には感謝している。もちろん貂蟬や卑弥呼にもだ」
「うふふっ♪お礼だなんて水臭いわねんねん♪」
「がっはっはっはっ‼素晴らしき漢乙をむざむざ死なすことなど我輩にはあり得んからな!」
一応は卑弥呼と貂蟬にも礼をいうが、何だか気持ち悪くなってきた。
「それより神医様、これからどうなさいますか?」
「あぁ、一先ずはまた旅に出るつもりだ。まだこの国にはくるしむ人々が助かるのを待っているからな」
「だったら旅費は大丈夫なのか?」
「少しだけ心許ないな・・・卑弥呼」
「うむ、そろそろ何処かで資金を調達する必要があるぞ」
「うふふっ♪だったら私の踊りで稼いで「言っておくが無断でそんなことをしたら厳罰ものだぞ」あんらぁあ〜、残念だわん」
頼むから街中でそんな怖いことをしないでくれ。下手をすれば商人が逃げてしまう。すると何かを思いついた華蓮が手を軽く叩いて前に出てくる。
「じゃあ神医様‼暫くの間だけ建業に留まりませんか?」
「ここにか?」
「はい♪」
そういうと神医は耳を傾ける。そういえば確かに今の時期で神医にピッタリの仕事があったのを思い出す。
「そうだったな華蓮。実は数日後に海兵隊の健康診断があってな。各地から医者を掻き集めているんだが数が足りないんだ」
「だから神医様にも手伝って欲しいんです」
「どうだ神医?その際の居住場所と食事、給金も多めに支給する」
「そういうことだったら断る理由はないな。だったら暫くの間はお前達の陣営に世話になるか」
「感謝する。華蓮、後で冥琳殿に報告書を提出してくれ。兵站科にも報告書してくれよな?」
「御意」
そういうと華蓮は神医達を案内する為に部屋を退出する。当面の間は寝床に倒れている形だが、一先ずは傷の完治に全力を注ぐとしよう。
俺は本棚から小説を取り出して、寝転がりながらページを開くのであった・・・・・・。
ライルが無事だったと聞いて喜ぶ一刀。時間を持て余している一刀は何と無く中庭に来たが、先にそこには雪蓮がいた。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[一刀と雪蓮]
天の御遣い、英雄と言葉を交わす。




