第155話:覇王の落日
孫策から暗殺未遂を聞かされ、曹操は退却を命じる。
顔色を真っ青にして本陣に戻って来た曹操殿。我等は本陣にて出迎えたが何やら様子がおかしかった。
護衛役として同行していた曹仁殿から事情を聞き出せたが、その内容に私は驚きを隠せなかった。
我が軍の兵士が独断で孫策殿を暗殺しようとし、それを庇ったライル殿が代わりに毒矢を受けたという。
先程のアレックス殿による処刑にはそういう理由があったと理解したと同時に私は怒りを覚えた。曹操殿の戦を穢されただけではなくライル殿を殺そうとした。
本陣にて曹操殿は怒りと焦りを隠し切れず机を強く叩いた。
「どういうことだ⁉誰が孫策暗殺を命じたのだ⁉」
「わ・・・我等がそのような事、する筈がありません‼」
「では何故だ⁉何故ライルが毒を受ける⁉何故このような事が起こる⁉」
私も同じ心情だ。ライル殿とは正々堂々と一騎打ちを申し込み、あの男に勝つつもりであったのに、その機会を潰された。すると事実確認をしていた桂花と凛が慌てながら戻って来た。
「か・・・華琳様‼‼」
「事情が判明しました‼少し前に亡命してきた許貢の残党で形成された一団が孫策を暗殺しようとしたようです‼」
許貢の残党・・・・・・。確かに我等が徐州を制圧した少し後あたりに呉から主君の許貢を処刑され、我等に亡命してきた一団があった。
それなら辻褄があう。奴等は孫策殿への復讐の為に曹操殿の顔に泥を塗ったのだ。
事情を曹操殿は全身から凄まじい怒気を発しながら桂花達に命ずる。
「その者共の首を刎ねよ‼‼」
「えっ⁉」
「知勇の全てを掛けた英雄同士の戦いを下衆に穢された怒りが解らぬのか⁉」
それは私も同じです曹操殿。この戦、私は持てる全ての力を用いて挑むつもりであったのに、それを思念に囚われた愚者に潰された。
「その者共全ての首を刎ねよ‼‼」
「ぎ・・・御意‼」
「春蘭‼」
「は・・・はっ‼」
「呉に弔問の使者を出せ‼我等は一度退く‼」
「し・・・しかし華琳様⁉この状況で退却すれば尋常成らざる被害を受けることは必死‼‼」
夏侯惇殿と夏侯淵殿の言葉も一理ある。全てをぶつける覚悟で主力の大半を前衛に回しているのだ。
それに素早く反応したのが司馬懿殿だ。
「・・・曹操様、これは寧ろ好機なのではありませぬか?」
「・・・貴様は何が言いたい・・・司馬懿」
「あの男が倒れたことで呉の戦力は落ちております。今なら全軍を用いれば奴等を殲滅出来ま「ならば戦えと言うのか⁉」・・・」
戦略的に交戦を進言しようとした司馬懿殿の言葉を曹操殿が怒声で遮る。
「下衆に穢されたこの戦を続けて何の意味がある⁉どのような意味がある⁉」
「しかし・・・」
「最早この戦いに意味は無く、大義も無くなったのだ‼軍を退かなければ・・・私は・・・」
「駄目です‼敵軍突撃を開始しました‼」
凛からの報告で我等は本陣の天幕から出る。孫策軍の方角から聞こえる怒声に爆発音、更には空から聞こえる噂に聞いた空を舞うカラクリ。
それらに呼応するかの如く聞こえてくる我が軍の将兵の悲鳴と断末魔。曹操殿はそれを見て歯を食いしばっていた。
「くっ・・・なんだこれは・・・このような戦い・・・・・・誰が望んだと言うのだ・・・」
「華琳様‼本陣を後退させて下さい‼我等が殿を務めます‼」
「季衣、流流は華琳様の護衛を‼命に替えても御守り申し上げろ‼」
「「はい‼‼」」
「司馬懿殿、もはや奴等の攻勢を止めるのは不可能。あなたもお分かりの筈です」
「くっ・・・・・・やむを得んか・・・王異‼私兵部隊に退却命令を出せ‼可能な限り交戦せず退却しろとな‼」
「御意」
流石の司馬懿殿も退却しなければならないと理解し、副官である王異に伝令を向かわせた。
「追撃や無駄な戦いはするな‼穢されたこの戦い・・・・・・せめて・・・無事に収拾せよ‼」
『はっ‼』
「凪、我等も殿を務める‼曹操殿の退却の時間を稼ぐぞ‼」
「分かりました‼」
「参刃‼」
「分かっている‼其れがしも殿に向かおう‼」
私はこのような結末にした天を恨みたい。私は偃月刀を手にし、味方の退却の時間を稼ぐ為に殿へと向かった・・・・・・。
魏呉の戦いは壮絶だった。怒りに任せて魏軍の兵士を次々と殺していく呉の勢いは止まらない。全ての将は奮戦し、曹操の首を刎ねる為に猛追する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[呉軍の逆襲]
死兵と化した呉軍が狂狼となる。