第154話:あさきゆめみし
憎き曹操を前に雪蓮殿の怒りを込めた檄が飛ぶ。
宣戦布告も無しに呉へと侵略しただけではなく、呉の英雄でもあるライルを傷付けた曹操軍を迎え撃つ為に出撃した俺達。
俺達がいる場所は合肥。雪蓮殿の判断で奴等を皆殺しにする箇所に定めたが、本当に奴等との会敵場所になるとは思わなかった。
だが、今はそんなことどうだっていい。俺はライルを傷付けた奴等には死よりも恐ろしい地獄を見せてやる。
俺は騎乗する雪蓮殿と共に愛馬のイクシオンという黒馬に乗り、互いに対峙している丁度中間位置へと向かっていた。
「・・・・・・・・・アレックス」
「・・・なんでしょう?」
「すぐに突っ込みたい気持ちは分かるわ。私も同じ気持ちだけど、少しだけ抑えて」
「・・・・・・・・・」
「兵を鼓舞し、怒り全てを曹操にぶつけて奴等を皆殺しにする・・・・・・その後はあなたの好きに戦いなさい。だからそれまでは我慢しなさい。いいわね?」
「・・・・・・御意」
雪蓮殿のいう通り、やるなら全員で奴らを皆殺しにしてやりたい。魏に対する攻撃だけではなく、僅かでも生き残った奴等に恐怖を抱かせる。
“呉の大地と英雄に手を掛ける者は血に飢えた狂狼の餌食になる”という恐怖を奴等に植え付ける。
俺達が馬を止めると曹操軍から三人の人影が馬に乗って近づいて来ていた。忘れる筈がない。
かつて袁紹を始末する為に共闘し、だが今はライルを傷付けた仇敵・・・・・・。
「曹操・・・・・・」
俺は殺したい気持ちを必死に抑えながら睨みつける。
対して奴は何も知らないような涼しい顔をしながら従姉妹の曹仁と曹洪を連れて俺達のすぐ前に馬を止める。
「あら、遅かったじゃない孫策」
まるで挑発するかの如く毒舌を始める曹操。俺だけでは無く雪蓮殿からも凄まじ過ぎる怒りが抑えられているのを感じる。
「これ以上英雄同士の戦いにあまり無粋なものは必要ないわね」
何が英雄か・・・・・・暗殺という卑劣で姑息な手段を用いた貴様にそんな言葉を口にする資格などない。
「誇り高く、堂々と戦いましょう・・・英雄孫策‼そして我が覇道の礎となりなさい‼」
誇り高く・・・堂々だと?・・・・・・それに礎?・・・・・・ならば、俺達はその捨て石を無残に砕いてやる。
「・・・・・・・・・やる・・・」
「?何ですって?」
怒りを抑えることが出来なくなった雪蓮殿は南海覇王を抜刀し、鋒を曹操達に向ける。その光景に曹仁と曹洪もそれぞれ大剣とナイフを抜こうとしたが、俺達の怒気を前に躊躇したようだ。
「曹操‼貴様が私の暗殺を企んだのか‼貴様ほどの人物がこのような卑劣な策を講じるとはな‼」
「⁉・・・何を言いたいのだ孫策?」
「知らないとは言わさんぞ‼貴様が放った刺客のせいで・・・私を庇った我らの愛する・・・私が愛するライルが倒れたのだ‼」
「なっ⁉・・・どういうことだそれは⁉」
「問答無用だ曹操‼貴様ら魏などミナゴロシニシテヤル‼」
怒りをもはや隠そうとせず、雪蓮殿はそのまま振り返り、鋒を天高く掲げると待機している孫策軍全将兵に檄を飛ばす。その姿はまさに英雄だ。
“呉の将兵よ‼我が朋友たちよ‼
我らは父祖の代より受け継いできたこの土地を、袁家の手より取り戻した‼
だが‼
今、愚かにもこの地を欲し、無法にも大軍をもって押し寄せてきた敵がいる‼
敵は卑劣にも、我が身を消し去らんと刺客を放ち、この身を毒に侵そうとしたのだ‼
しかし我が愛する者が我が身を庇い代わりにその身に毒を受けたのだ‼
卑劣な毒によって、今も苦しんでいる‼
この孫 伯符、そのようなことをされ黙っているような人物ではない‼
我が身、鬼神となりてこの戦場を駆け巡らん‼
我が気迫は盾となりて皆を守ろう‼
我が闘志は矛となり、呉を犯す全ての敵を討ちこらそう‼
勇敢なる呉の将兵よ‼その猛き心を‼その誇り高き振る舞いを‼その勇敢なる姿を我に示せ‼
その勇敢なる姿を、我が母文台と父雷藩も見ておられる‼
呉の将兵よ‼我が友よ‼
愛すべき仲間よ‼愛しき民よ‼
孫伯符、怒りの炎を燃やし、ここに曹魏打倒の大号令を発す‼
天に向かって叫べ‼心の奥底より叫べ‼己の誇りを胸に叫べ‼
その雄叫びと共に怨敵、曹魏を討ち滅ぼせえぇぇぇ‼‼‼”
天に掲げられた鋒が再び曹操に向けられ・・・・・・。
“おぉおおおおおおおお‼‼‼‼”
怒りを込めた鬨が前衛から響き、それが中衛、さらにそれが後衛へと伝わっていき、やがては大地が軽く揺れる程の膨大な質量へと変わる。
「アレックス将軍‼‼」
鋒を下ろす雪蓮殿の指示を受け、俺はイクシオンに積まれた荷物を担ぎ、それを乱暴に地面に落とすと一気に布の一部を剥ぎ取った。
「なっ⁉・・・わ・・・我が軍の兵士・・・」
荷物とはライルを傷付けた刺客の生き残り。あれから拷問として両腕を引き千切り、身体の至る処を殴りまくって、このクソ野郎の顔は腫れ上がって歯は全て折れている。
俺は雪蓮殿を軽く見て、彼女が頷いたのを確認すると髑髏を左肩に担ぎながら、刺客の背後に立つと・・・・・・。
「・・・・・・ふんっ‼‼」
そのまま垂直に髑髏を振り下ろす。一寸の狂いも無しに文字通り一刀両断された刺客の死体はおびただしい血を地面に流しながら二つに別れる。
その壮絶な光景に曹操達は顔を青く染めていた。しかし俺は一切気にせず雪蓮殿と同じように鋒を曹操に向ける。
「・・・・・・・・・次に会う時は・・・貴様等も同じやり方で殺してやる・・・」
それだけ伝えると俺はイクシオンに跨り、雪蓮殿も馬に乗ると陣地へと引き返していく。曹操もしばらく呆然としていたが、徐々に意識を戻していき、真実を確かめる為に自軍の本陣へと引き返していった。
間も無くで魏呉の因縁の戦・・・・・・“合肥の戦い”が始まる・・・・・・・・・。
本陣に戻った曹操は直ぐに事実を確かめる為に確認をする。しかしそれも手遅れ。怒り狂う孫呉の死兵を前に聖戦を下衆により穢された曹操は全軍退却を指示するが・・・・・・。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[覇王の落日]
覇王の名に消えない汚点が残される。




