第142話:ライオンと歌姫御一行
レオンに歌姫が現れる。
話は少し前に遡る。この俺・・・レオンに新しい知人が出来上がった時の話だ。
俺は前々から暇を見つけては“とある準備”に励んでいて、一週間前にそれが完成。軍人を本職としている俺が許可を取り次ぐのが大変だったが、建業の活性化に貢献するという条件で冥琳殿が容認してくれた。
俺は普段の軍服ではなく休暇用で個人的にジーンから取り寄せたジーンズにウェスタンブーツ、黒一色のノースリーブシャツとドッグタグという非常にラフな私服でリュックサックを背負いながら街中を移動していた。
「流石にまずいな・・・完全に遅刻だ」
今日の朝に忘れ物を思い出して一旦はヴェアウルフに戻っていたのだが向かう手段のPTボートが全て出払っていて、合計1時間の遅刻をしてしまった。
だがいまさら慌てても仕方が無いので、取り敢えずはゆっくり向かうことにした。
「ふぅ・・・しかし俺が言うのなんだが平和だな・・・・・・デカイ事件なんて滅多に起こらないし、これでチンピラがいなかったらどれだけ「ちょっと離しなさいよ⁉」・・・楽なことか・・・・・・はぁ」
・・・これで更に到着時間が遅れるな。俺は騒ぎが起きた場所へと急ぐ。少し先に向かうとやはりチンピラが少年少女の一団にちょっかいを出していた。
一団は小柄の男の子二人が前に出て少女3人を守ろうとしているが完全に舐められている感じであり、チンピラ連中は下品な笑いをしながら追い詰めていた。
「ひひひ・・・おい小僧。そこの嬢ちゃんを説得してくるよぅ。俺達はただ楽しく遊びたいだけなんだからさぁ」
「そうそう‼ただ“遊びたい”だけなんだからよ‼」
「うるさい‼お前達なんかに3人を渡したりなんかするか⁉」
「そうだ‼私達は守るって決めたんだから‼」
「張ちん・・・波ちん・・・」
「そうよ‼ちー達も誰があんた達なんか一緒にいたくないわよ‼」
恐らくは怖いのだろうが、それを押し殺して2人は少女を守る。なかなか見所がある少年だ。だがチンピラが何をしでかすか分からない。俺は人だかりを掻き分けて前に出る。
「おい早くしろ。警邏隊が来やがるぞ」
「へん‼狼だか犬だか知らねえがどうせ弱っちいに決まってんだろ⁉」
「違いねえ‼ぎゃはははは‼」
「さて・・・おいクソガキ共・・・さっさとその娘よこしやがれ・・・さもねえと「どうなるって言うんだ?」あぁあん?・・・なんだてめえ、俺様達に楯突くってんじゃ⁉」
短剣を取り出したチンピラの肩を数回叩き、振り向いたこいつの顔にストレートを見舞ってやり、そのまま積み上げられた木箱に吹っ飛ばした。
他の奴等は唖然とするが、すぐに表情を歪ませながら短剣を取り出して俺を睨みつける。
「なんだてめえ⁉」
「俺達にこんなことしやがってどうなるか分かってんのか⁉」
「それはこっちの台詞だ。建業で・・・しかも白昼堂々と誘拐しようとしやがって・・・・・・」
「あぁあん?・・・・・・ん?・・・お・・・おい・・・こいつまさか・・・」
「げっ⁉こ・・・こいつは・・・群狼隊の・・・・・・」
「江東の獅子⁉」
俺の顔を見て“江東の獅子”という異名を口にした。どうやらこいつ等は兵隊崩れか盗賊の類だろう。だったらここで逃がす訳にはいかない。
「お前達の罪状は3つ。どれも現行犯だ。治安維持法違反に傷害未遂罪、それに・・・・・・」
『そ・・・それに?』
「ただでさえ遅れている俺の時間を更に遅らせた罪だ‼‼」
『ひぃいいいいいい‼⁉⁇』
ここから先は言葉など不要だろう。近くの分署から警邏隊が駆け付けた頃にはチンピラ連中は叩きのめされ、6人は気絶させられて積み上げられていた。
俺は連中を本部に連行するように指示を下し、襲われていた一団に歩み寄っていた。
「大丈夫か?どこか怪我はないか?」
「は・・・はい。大丈夫です」
「あ・・・あの・・・・・・」
「何かな?」
「危ないところを助けてくれてありがとうございます」
「ま・・・まあ・・・・・・助けてくれたんだからちーも礼は言っておくわね・・・ありがとう」
「もぅ・・・ちーちゃんったら素直じゃないんだから♪」
「ちょっと天和姉さん‼」
「姉さん達、名前をまだ教えてないよ」
眼鏡を掛けた紫色の冷静な少女がじゃれあっている二人を軽く注意する。すると二人もようやく思い出して俺に話しかけて来た。
「私は天和だよ♪この二人のお姉さんなの♪」
「ちーは地和」
「・・・私は人和です。助けてくれてありがとうございます」
「僕は張 曼成です」
「私は波才といいます」
「天和ちゃんに地和ちゃん、人和ちゃん、張くんに波才くんだね。俺はライル将軍配下のレオン・キャメロン大尉だ。レオンって呼んでくれ」
俺は5人の名前を聞いてなんだか引っかかる。何処かで聞いたことがある名前だが、まあいいだろう。
「君達は呉の人間じゃないね。旅人か何かか?」
「はい。歌を生業としていろんな場所を回ってる旅芸人なんですよ」
「歌手か・・・・・・それでなんでこの建業に?」
「うん♪なんだか最近になってこの街に新しいお店が出来たっていうから来たんだよ♪」
「はい、だけど迷っていた時にさっきの奴等が・・・」
その言葉でようやく理解した。つまりは不運に巻き込まれたと言うことだった。
「災難だったな・・・それより新しい店ってもしかしたら“獅子白侍”っていう店か?」
「あっ・・・うん‼そうだよ♪」
「だったら丁度いい。俺もそこに向かうところだったんだ。よかったら案内するよ」
「本当⁉やったあ‼」
「助かりますレオンさん」
「ああ、こっちだよ」
そういいながら俺5人を連れて目的の店へと向かった。店は建業繁華街の奥にあり、全体的に店の色が白で塗装され、店の一部はカフェテラスみたいにしてある。
「ここがそうなの?」
「うわ〜♪なんだかお洒落だね♪」
「あの・・・レオンさんはなんでこの店に?」
「それは入ってのお楽しみだ。立ち話もなんだから中に入ろう」
そういうと俺は洋式の扉を開けるとそこは・・・。
『お帰りなさいませご主人様♪お嬢様♪』
・・・メイドカフェだった。いや、この世界なら侍女茶屋といったところだろう。俺は平然としているが後ろの5人は完全に唖然としていた。なかなか面白い光景だ。
「執事長遅いですよ⁉」
「すまない、ちょっとゴタゴタがあってな」
「し・・・執事長って?」
「あぁ、そういえばまだだったな。ここの支配人ってのは俺なんだ」
『えぇええええええ‼⁉⁇』
驚くのも無理はない。軍人である俺が副業でメイドカフェを運営しているのだ。俺が支配人をしている理由だが、街の活発化に貢献したかったからだが最初は中佐達も難色を示していたが、売上金の一部を孫呉軍と孤児院に回すことで経営許可を頂いたのだ。因みにこのカフェにはとあるもう一面がある。
「ははは・・・驚いてくれてなによりだ。さあ席に座って楽しんでくださいませご主人様、お嬢様」
俺はアクションをしながら5人を席へと案内してから奥にあるスタッフルームへと執事服に着替える為に入室していく。
その後に俺も業務をこなすが、天和達に指名されっ放しだったというのは言うまでもなく、メイド達に接客されて鼻の下を伸ばしてしまい、ヤキモチを焼いた天和と地和に抓られていた。そして約1時間後・・・。
「今日はごちそうさま♪レオン♪」
「ちぃの可愛さなら当然よね♪」
「ありがとうございました。ですが本当にタダでいいのですか?」
「いいっていいって。残ったお金は帰り道に使いなさい。また物騒な連中に会わないとも限らないからね」
「うん♪また会おうねレオン♪」
「ほら張に波才‼行くわよ‼」
「「は・・・はい・・・・・・」」
後方に視線を送ると土産をたくさん持たされた張くんと波才くんがいた。店を経営していて何だが自業自得だと思う。俺と人和は失笑しながら二人を見ていた。
「じゃあレオンさん、私達はこれで・・・」
「ああ、また遊びに来てくれよ」
それだけ伝えると彼女達は建業の城門へと足を運ばせる。俺も暫く見送り、姿が見えなくなると笑顔から“兵士の顔”へとすぐに変えて俺の背後に話しかける。
「ふぅ・・・・・・明命」
「ここに」
背後にはメイド服を着た明命がいた。これが俺の店の“もう一つの顔”だ。この店で働くメイドの一部は明命など隠密なのだ。
この店は他には無い運営をしているから、他国の軍勢が偵察に忍び込んできたら街の様子も必ず調べる。
そういった連中にとってこの店は調査の的だ。
だから冥琳殿の条件の一つで隠密を見つけ出す目的でメイドの中に明命達を紛れ混ませているのだ。
「でもレオン様、あの方達がなんで怪しいのでしょうか?」
「俺が着替えをしていて思い出したんだ。張 曼成に波才は確か旧黄巾軍の幹部だった奴だ」
「なるほど・・・・・・確か旧黄巾軍を纏めて配下に加えたのは・・・」
「曹操軍だけだ・・・」
「それでどうしましょうか?」
「恐らくは本当に休暇か何かだろうが、一応は監視を密かに付けてくれ」
「御意」
そう返事すると明命の気配が消えた。恐らくは監視に向かったのだろう。
彼女には言わなかったが、天和、地和、人和という名前・・・。確か黄巾党の首謀者である張角、張宝、張梁が自称していた天公将軍と地公将軍と人公将軍など共通点が多い。
冥琳殿が前に話していたが、三人は本陣で焼死したとされているが死体は見つかっていない。
その三人に付き従っている張 曼成と波才。可能性は限りなく黒に近いだろう。
だが後は明命の仕事だ。俺は溜息を吐きながら店へと戻っていった・・・・・・。
建業城内部にある厨房、ここに亞莎に美羽、シャオ、美花、百合が集まって調理をしていた。全てはライルにあるものを作る為にだが・・・。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[兄思いの妹たち]
厨房で妹たちの戦いが始まる。