第136話:雪蓮パニック
今回から暫くは拠点ストーリー。始めは雪蓮。
交州を平定した後、俺たちは多忙を極めていた。反乱によって発生していた難民の炊き出しや治療、復興、交州常駐部隊の編成に治安維持部隊の創設。更に同時に隣国となったチャンパ王国との自由貿易条約の締結。
平定してから一月が経過してようやく落ち着きを見せ始め、俺も建業に戻ってクラウドとポーからの報告書に目を通していた。
「ふぅ・・・・・・今日の分はこれで最後だな・・・・・・流石に疲れた」
俺の執務室兼自室には寝台を除いてかなりの数の報告書が所狭しとあった。孫呉海兵隊の損害報告書や戦死報告書、ウルフパックで使われた弾薬の消費報告書。治安維持部隊からの警備報告書、訓練部隊の進捗報告書や戦果報告書と多種多様の報告書。
これを1人で裁断したのだから我ながら恐れいる。疲れた目をマッサージしながら俺は寝間着に着替えて寝台に潜り込む。
「明日はようやく休み・・・だから・・・・・・お香の・・・調達に・・・・・・行かないとな・・・・・・」
明日の予定を考えていた途中で睡魔が襲って来て、俺は逆らうことなく眠りについた。眠りについて暫くして扉が開けられて誰かが入ってきたことに気が付かず・・・・・・。
朝日が顔を出した次の日。俺としては珍しく朝寝坊をした。だがそれでも7時には目を覚ましてはいる。
「うっ・・・う〜ん・・・・・・よく寝た・・・・・・?」
俺は身体を起こしつつ、寝ぼけ眼で隣を見る。そこには小さく盛り上がり、小さく寝息を立てながら誰かが眠っていた。しかし桃色の髪をしているから誰かは分かる。
「やれやれ・・・・・・また潜り込んで来たのかシャ・・・オ・・・・・・」
シャオと思って掛け布団を捲った瞬間に俺は言葉を発せなくなった。
なにしろ確かに桃色の髪ではあるが髪型が違う上に身長がシャオよりも小さい全く見覚えのない少女が指を咥えながら、気持ち良さそうに眠っていたからだ。
幻かと思い、一度掛け布団を元に戻して再び捲るがやはり少女がいた。それを何度か繰り返してみるも結果は同じ。
(ちょっと待て・・・・・・この子は誰だ⁉雪蓮殿の妹⁉隠し子⁉それとも迷子か⁉)
頭を抱えながら必死に状況を整理しようとするが頭がこんがらがるばかりだ。だが今はとにかくこの子をどうにかしたほうがいい。なにしろこんな処を華蓮辺りにでも見られたら・・・。
「ライルさまぁ〜♪朝ですよ〜♪」
「ち・・・ちょっと待て⁉」
・・・何というタイミングだ。扉を開ける華蓮を制止させる間もなく、状況を見た華蓮殿と見られたら俺は沈黙してしまう。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
暫くの沈黙の後、ドアノブに手を掛けていた華蓮は部屋に入ることなく扉をゆっくりと閉め、暫くの間を置きながら・・・。
「ライル様に隠し子がぁあああああああああ‼⁉⁇」
城全体にも聞こえそうな叫び声で逃げていった。
「お・・・・・・おい華蓮まて⁉話を・・・ぐはっ⁉」
俺は慌てて寝台から飛び出て追跡しようとするが床に放置したままの書類に足を取られてその場で転んでしまう。その騒動を聞き付けて蓮華殿達が駆けつけたというのは言うまでもなかった。
それから暫く経過して、俺は蓮華殿や冥琳殿達に包囲されながら正座をさせられていた。
「それで・・・お前はいつ子供を作ったのだ?」
「ぶぅ〜‼シャオがいるのに浮気なんて‼」
「ふぅ、しかし私達に隠し事など水臭いな」
「はっはっはっ‼ライルも中々隅に置けんな‼」
「貴様という奴は・・・・・・」
「あ・・・・・・あぁあああああの⁉ら・・・ライル様⁉」
「はぅあぁああ・・・ですがお相手は誰なんですかライル様‼」
「だけどこの子・・・何処かで見たことがありますね〜」
「・・・・・・しかし本当にいつの間に・・・」
「あぅあぅ・・・ら・・・ライルしゃまの馬鹿」
「子育てに関しましては其れがしにお任せ下さい」
「兄上が・・・兄上がぁ・・・・・・」
「にょほほ♪兄様の子供なら妾の妹なのじゃ♪のぅ七乃?八枝?九惹?」
「そうですね♪」
「ライルはんったら・・・若さに任せてもろたんどすか?」
「しかしライル・・・俺は別に私用に口出す気はないが・・・俺達に隠し事は確かに水臭いぞ」
俺を囲んでいる蓮華殿達は完全に今も寝台でグッスリ寝ている見知らない女の子を俺の隠し子と誤解しているが、はっきり言って逃げ出したい。
というか本当に身に覚えがない。
「あ・・・あの皆さん・・・・・・だからさっきから言っているでしょう?俺に心当たりは無いし、第一子作りだなんて向こうの世界・・・・・・天の国で亡くなった妻としか経験がないです」
「じゃあ今も寝ているその子は誰の子だ⁉」
「蓮華様、大声を出すとライルの子供が起きます「う〜ん・・・」・・・起きたようです」
全員が目を擦りながら寝ぼけている女の子に視線を集中させる。すると女の子は俺を見つけると笑顔になって飛びついてきた。
「ライルだぁ‼おはよ〜‼」
「うわっ⁉」
「ほぅ・・・その懐き様からやはりお前の子供であろ?」
「だから俺の子供では無いですって祭殿・・・それで・・・・・・お嬢ちゃんは何処から来たんだ?お父さんとお母さんは?」
「ぶぅ〜‼ライルったらひっど〜い‼雪蓮はお嬢ちゃんじゃないもん‼」
『・・・・・・・・・・・・え?』
全員が同時に口を開く。いまこの子は確かに自分の名前を雪蓮といった。
「ねえライル、紅蓮母様と勇蓮父様は?」
恐らくは孫堅 文台とその夫だと思う。しかし前に確か二人の真名を知っているのは今や雪蓮殿の他に蓮華殿、華蓮、シャオ、冥琳殿、祭殿しか知らないらしいし、全員が滅多な事では口にしない筈だ。
加えてこの場に雪蓮殿がいない上に自身を雪蓮と名乗る女の子。つまり結論は一つしかない。
『えぇええええええええええ‼‼⁉⁇⁇』
「?」
「ちょ⁉ほ・・・本当に姉様⁉」
「あ・・・あぁ・・・・・・よく見たら確かに子供の頃の雪蓮だ・・・」
「な・・・なんと面妖な・・・」
幼馴染と妹、それに姉みたいな存在である祭殿がいうのなら間違い無いだろう。しかしなぜ雪蓮殿が子供になったのかが問題だ。原因を考えていると気配を消して部屋から退出しようとする華蓮を見掛けた。
俺はすぐに扉に回り込んで開けられた扉をすぐに閉めた。
「ひぃ⁉」
「華蓮・・・君なにか知ってるな?」
「は・・・はははは・・・・・・なに言ってるんですかライルさまぁ〜・・・・・・私なにも作ってませんよ?」
「作ってません?」
「・・・はっ⁉」
・・・自ら綺麗に墓穴を掘ってくれた。これで分かった。どう考えても彼女が何か知っている。それを察した彼女達も腕を組みながら華蓮への包囲網を作って、俺も指を鳴らしながら彼女をビビらせる。
「さぁ華蓮・・・話してくれるな?」
「は・・・・・・はい・・・」
観念した彼女は全てを話した。雪蓮殿に頼まれて小さくなって俺の秘密を探る為の薬を作り、どうやら小さくなる薬ではなく少女になる薬が出来上がってしまったということだ。
というか小さくなる薬って・・・・・・何かのファンタジー小説じゃないんだからそんな薬を作るな。
「それで・・・・・・雪蓮殿は元に戻るのか?」
「は・・・はい・・・・・・薬の効果は明日の朝になれば切れます・・・」
「全く・・・すまなかったライル。姉様と妹が迷惑を掛けた上に疑って・・・」
「さ・・・流石に今回のは度肝抜きましたが・・・」
「ねぇねぇライル‼雪蓮と遊ぼ‼」
「ちょ⁉雪蓮殿⁉」
「遊ぼうよ〜‼あ〜そ〜ぼ〜よ〜‼」
「だ・・・だから少し待ちなさいって⁉」
「グズッ・・・ライルは・・・雪蓮と遊ぶの・・・イヤ?」
「うっ⁉」
「ライルは・・・雪蓮のこと・・・・・・嫌い?」
中々遊んでくれない俺に雪蓮殿は若干の涙目をしながら俺を見上げてくる。はっきり言って破壊力が強力すぎる・・・下手をすれば恋よりも破壊力があるだろう。俺はため息を吐きながら頭を撫でる。
「・・・・・・分かりましたよ・・・でしたら今日一日遊びましょうか・・・」
「やったぁ〜♪きょうのライルは雪蓮のもの〜♪」
そう歌いながら雪蓮殿は本当に嬉しそうに俺を引っ張ってそのまま街へと駆り出されてしまった。
因みに騒ぎの張本人である華蓮はこの後しっかりと蓮華殿と冥琳殿のお叱りを受けて、お仕置きとして一週間の彼女専用研究室へ出入り禁止となった。
けっきょく俺は雪蓮殿が疲れるまで遊び相手をさせられてしまい、心身共々に疲れた。そして雪蓮殿はと言うと・・・。
「すぅ〜・・・すぅ〜・・・」
「はぁ・・・疲れた・・・・・・下手な戦場よりも疲れるな」
可愛らしい寝息を吐きながらぐっすりと眠っていた。元の性格が天真爛漫かつ無邪気だから、それが子供に戻ってしまうと倍増してしまっているのだから溜まったものではない。
加えて街では俺と雪蓮殿との間に出来た子供という噂まで流れてしまい、行く先行く先で恥ずかしい思いをした。
そのご本人は笑顔を振るいまくって人気者になっていたが・・・・・・。
「しかし・・・俺と雪蓮殿の子供か・・・・・・」
そう言いながら子供雪蓮殿の頭を優しく撫でてあげる。実を言えば悪い気はしなかった。雪蓮殿と結ばれて子供が出来たら恐らくこんな日常が待っているだろう。
「ふぁ〜・・・・・・流石に眠いな・・・・・・・・・お休み・・・雪蓮」
そういいながら額にキスを落とし、俺は自室へと戻った。
なお、朝を迎えるとまた雪蓮殿が潜り込んでいて、俺の寝台に潜り込んで暫くしてから薬の効果が切れたようであり、服を着ていない全裸だったので俺は再び誤解を受ける羽目になったというのは別の話・・・
建業城内部にある中庭。ここで久々に蓮華と戦闘衛生兵である華蓮が仕合をしていた。実戦経験で蓮華が有利かと思われたが・・・。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[姉妹]
武門孫呉の姉妹が相入れる。