第134話:強い意志
一刀と張仁。二人の英雄が剣を交える。
「はぁああああ‼‼」
「でりゃああ‼‼」
成都城の正門前にて行なわれている俺と張仁さんによる一騎打ちは激しさを増していた。俺の神龍双牙を立て続けで薙ぎ払うように攻撃すると双鈎の月牙で防がれ、反対に張仁さんは双鈎の柄頭にて振り上げで攻撃を仕掛ける。
「まだまだぁ‼‼」
「甘いぞ‼」
張仁さんが回転しながら柄頭で刺突を仕掛けて、俺がそれを回避すると立て続けに振り上げ。それをすぐに受け止めて弾き返して、同じように回転しながら斬りかかる。
すると張仁さんはすぐに後方へ飛び上がり、俺も距離を置いて神龍双牙を構え直す。
「ふん・・・・・・噂に聞いた通り見事な武だ」
「あなたこそ・・・流石は巴蜀の宿将・・・世界が広いことを実感します」
「嬉しいことを言ってくれるな・・・」
「どういたしまして・・・」
俺達は互いに相手の出かたを伺いながら気迫をぶつけ合う。そしてこの人の実力は間違いなく高く、恐らくは恋や愛紗達の上を行く。
ライルさんでもどうなるか分からないだろう。
しかし状況的には俺が不利の状況だ。何しろ彼が持つ双鈎は多種多様な攻撃パターンを有する武器。
状況に合わせて攻撃パターンを変えられる武器に巴蜀きっての武人。この二つが組み合わさるとここまで脅威になるとは・・・。
「ふふ・・・どうかしたかな?」
「いえ・・・・・・はっきり言うとここまで強いとは・・・思いませんでしたよ」
「それは私も同じことよ・・・恐らくそなたは私が育てあげたヒヨッコ共より強く・・・尚且つ今まで出会った武人達の中で一番であろうな・・・・・・しかし・・・」
「だが・・・」
「「俺(私が)勝つ‼‼」」
向こうの武が柔軟なら俺はそれを上回る圧倒的な剛を持って戦うだけだ。素早く神龍双牙を薙刀にして張仁さんに襲いかかる。
振り下ろしから回転しながらのなぎ払い、その直後に刺突。張仁さんは全てを回避するとすかさず反撃。
今度は連続の斬撃、しかもただ無闇に斬りかかるのではなく、肘打ちや回し蹴りも入った素早い攻撃だ。
距離を再び稼ぐ為に回転して斬撃をお見舞いするとすかさず回し蹴りを食らわせる。
流石に予想していなかったようで双鈎を重ねて受け止め、後ろに弾き飛ばされる。
それを見逃さず一気に距離を詰めて神龍双牙を再び二つに分けて素早く振り上げと振り下ろし、なぎ払い、刺突を組み合わせた斬撃を見舞う。
だがそこは歴戦の猛者だ。
そんな不利の体制にも関わらずそれらを全て双鈎で受け止め、攻撃から防御。防御から攻撃という目にも止まらぬ早さで互いを攻撃する。
そして俺が神龍双牙で斬りかかるとそれを重ねた双鈎で受け止め、暫くの力比べに発展する。
「ぐぅ・・・ふぅうううう‼‼」
「ふぅうううう・・・・・・ふん‼」
力比べから張仁さんは隙を突いて俺の腹部に蹴りを見舞う。その力強い蹴りで俺は後方に飛ばされてしまう。
「がはっ⁉」
身体を城壁に叩きつけられ、一瞬だが呼吸が遮られる。たがそれは張仁さんからすればまたとない好機だった。
「これで終わりだ‼御遣い‼」
張仁さんは飛び上がり、双鈎の鋒を向けながら俺を突き刺そうとする。
“ここまでか・・・”
心の中で諦め掛けたその時・・・。
『ご主人様‼⁉⁇』
桃香達の声が聞こえ、更にここにはいないみんなの顔が浮かび上がってきた。すると俺はすぐに前に転がる。
「なにっ⁉」
そのまま降ってきた張仁さんは地面に双鈎が突き刺さり、俺はすぐそばに落ちていた天をすぐに掴み、振り向きながら俺は・・・・・・。
「くっ⁉」
「ふん‼」
薙ぎ払いながら俺は張仁さんの背後に回る。そして暫くの沈黙の後で・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・見事・・・だ・・・」
張仁さんは双鈎を地面に落とし、そのまま片膝を地面に突き、背中から倒れる。
俺はもう片方の空を拾い上げ、神龍双牙を納刀するとすぐに張仁さんの下へ歩み寄る。
「張仁さん・・・」
「ふふふ・・・見事だ・・・・・・」
俺は倒れながらも俺の勝利を讃える張仁さんを見下ろす。すると人混みから桃香と紫苑、桔梗、焔耶の4人が駆け寄ってきた。
「張仁さん‼」
「烈光(れっこう/張仁の真名)様・・・」
「烈光・・・」
「お爺様‼」
「よう・・・・・・・・・久しいな・・・娘達・・・」
「烈光・・・すまぬ・・・・・・お主は最後まであの小僧に忠義を誓っておったのに・・・儂らは・・・」
桔梗は張仁さんの手を取りながら、寝返ってしまったことを詫びる。しかし張仁さんは微笑みながらその手を重ねる。
「何を謝る・・・・・・い・・・いつも言っておいたで・・・あろう・・・“自らの考えに従うのは恥じることではない”・・・と・・・・・・」
「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・どうして・・・・・・」
沈黙の中、桃香が張仁さんに話しかける。その瞳には涙を浮かべながらだ。
「どうしてあなたは・・・そこまでやる必要があったのですか?」
「ふふ・・・ わ・・・・・・私は・・・ち・・・忠義に・・・生きることしか・・・知らぬ・・・そ・・・・・・それに・・・わ・・・私は後悔などしておらぬ・・・最後・・・最後まで・・・・・・お・・・己の信義を・・・貫け・・・・・・たのだから・・・ごほっ⁉」
「烈光⁉」
「だ・・・だから・・・・・・そんな悲しい・・・顔は・・・し・しないでくだされ・・・」
張仁さんは流れる桃香の涙を拭うと、紫苑達に振り向く。
「紫苑・・・」
「はい・・・」
「璃々を・・・しっかりと・・・育ててやれ・・・あの子は・・・私にとっても・・・・・・孫のような・・・・・・子だからな・・・」
「はい・・・」
「焔耶・・・」
「お爺様⁉」
「お・・・お前は・・・・・・今までで・・・最高の・・・弟子だ・・・・鍛錬を・・・・・・怠るなよ・・・」
「は・・・はい‼・・・ひく・・・わ・・・分かりました‼」
「き・・・桔梗・・・」
「・・・なんじゃ?」
「さ・・・先に逝って・・・・・・待って・・・おるぞ・・・・・・ま・また・・・共にさ・酒を交わそうぞ・・・」
「・・・・・・あぁ。あの世で待っておれ。美味い酒を用意しておらなかったら承知せぬぞ」
「ふ・・・ふふ・・・・・・言いよる・・・・ぐ・・・ごほっ⁉ごほっ⁉」
「烈光様⁉」
「お爺様⁉」
「烈光⁉」
張仁さんは咳込みながら血を吐き、だがそれでも最後の力を振り絞って俺と桃香を見る。
「ほ・・・北郷・・・殿・・・劉備様・・・」
「・・・・・・」
「私の・・・・・・真名は烈光・・・・・・この真名を・・・ふ・・・二人に・」
「・・・はい・・・・・・確かに預かりました」
「私も・・・私も確かに預かりました‼」
「すまぬ・・・・・・・・・しかし・・・我が・人生・・・最後まで・・・・・・す・ばらしき・・・もので・・・・・・あった・・・」
烈光さんの力が抜けて行くのを感じ取る。
「この国を・・・・・・任せ・・・ました・・・・・・ぞ・・・・・・・・・」
その言葉を最後に烈光さんの瞼がゆっくりと閉じ、俺の手を掴んでいた右手は力が完全に抜けて、地面に小さく音を立てながら落ちた。
「烈光‼⁉⁇」
「烈光様⁉」
「お爺様・・・・・・お爺様‼⁉」
桔梗と紫苑は目を伏せ、焔耶の瞳からは涙が溢れている。俺は地面に落ちた手を掴み直し、力強く握りしめた。
「・・・烈光さん・・・・・・俺は・・・あなたのような素晴らしい方に出会えたことを・・・一生忘れません。だから・・・俺たちの道を・・・見守って下さい・・・」
俺は涙を堪えながら、烈光さんに感謝の意を口にする。烈光さんが戦死したことで劉璋軍はもはや軍の統制も取れずに降伏。
すぐに成都城へと突入して劉璋を討ち取り、俺達は益州を手に入れられた。
それから数日後の雒城郊外にある見渡しがよい丘の上、ここに一つの墓標が立てられた。
この益州を守り続け、最後は華々しく俺達に益州を託して散って行った英雄・・・・・・張仁は魂になりながらも、彼が愛した益州を見守っていた・・・・・・。
遂に成都を陥落させ、益州を制した劉備軍。疲弊していた民の心を癒しながら戦後処理にあたる。
クラウドとポーも影ながら手伝い、そして彼等が帰還する時が迫る。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[戦いの後]
国を得た仁徳王と御遣いが二人の狼を見送る。