第126話:戦いの後
戦いの後、ある事がきっかけで珍事件が起こる。
交州での戦いで勝利を収めた俺たち孫策軍。局地的にはまだ一部において反乱軍が抵抗を続けるが、鎮圧は時間の問題になっていた。
反乱軍によって襲われていた集落には既に用意した支援物資を配布。
治療にも戦闘衛生兵部隊が中心となって治療に勤め、街の修復には工兵部隊が修復にあたる。次の統治者である俺達の印象をより良いものにする為の活動だ。
そして俺達は現在、交州本城に駐留している。理由としては・・・・・・。
「やっぱり勝った後に飲むお酒は最高ね‼」
「雪蓮、いくら無礼講だからと深酒は慎みなさい。仕事に支障が出るぞ」
「えぇ〜?いいじゃない♪今日位は大目に見てよね♪」
「はぁ〜・・・・・・姉様は相変わらずね」
「そうですね蓮華姉様」
「蓮華様、華蓮(かれん/孫翊の真名)。まだ飲まれますか?」
「はぅ〜。やっぱりライル様が用意したお酒は美味しいですねぇ〜」
「ふぅ・・・これで朱里達がいたら最高なんだがなぁ〜・・・」
「ひゃう⁉千里様・・・私の頭をなぜ撫でるのでしゅか⁉」
「美味い酒に料理、それに美しい舞姫。宴には相応しいものよ」
「ああ」
それぞれが料理や酒に舌鼓を打っていた。用意されたものはこの地方の料理もあるが、大半は俺達が用意したもの。
占領軍には変わりないから民に負担となりかねない纏め買いを極力避け、輸送部隊が揚州から送ってきた。
材料を用意したから、あとは交州正規軍の料理人達に調理してもらう。
「んく・・・んく・・・・・・ぷはぁ〜‼ねえ冥琳、そういえばライルは?」
「何か準備をすると言っていたぞ。余興でもしてくれるのだろう」
「ふぅ〜ん・・・・・・じゃあ楽しみにしてなきゃ♪「お呼びですか?」あっ・・・ライ・・・ル・・・・・・」
機会を伺っていたように姿を見せたが、雪蓮殿は俺が着ている服に言葉を失ったようだ。
それはそうだ。俺が着ている服装は黒羽二重、染め抜き五つ紋付きの長着と羽織に仙台平の袴をつけた服装が第一礼装と呼ばれる和服だ。
俺の姿を見た雪蓮殿は目を輝かせながら俺に話しかけてきた。
「すっごくカッコいい‼ねえ冥琳⁉」
「うむ・・・なんとも落ち着いた立ち振る舞いか・・・」
「ありがとうございます」
辺りを見渡すと蓮華殿達も俺の見たことも無い服装に釘付けとなっているようだ。数日前に真名を預かった華蓮殿も顔を赤くしながら俺を見ているが、なぜ赤くしているのかよく分からない。
「ら・・・・・・ライル・・・な・・・何かやってくれるのか?」
「あぁ、そうですよ。舞姫も舞い終わったことですので、早速やらせて頂きます」
そういうと俺は彼女達の前に移動。それと同時に俺と同じ和服を着たアレックスやレオン達が入って来て、40cm程の長さで7つの穴が設けられた能管を懐から取り出す。
その他にアレックスは三味線、レオンは小鼓という和楽器を手にして正座する。雪蓮殿達は何が始まるのか楽しみにしながら様子を伺う。
「では・・・この交州での戦の勝利を祝い、我等群狼隊による余興をお楽しみに下さい。今から行なわれるのはこの国より東へ海を渡った先にある倭の国の演奏になります。お楽しみ下さい」
そういうと俺は能管を構え、他の連中も構える。暫く構えると俺達は演奏を開始する。全員がその独特のリズムに心奪われるが、もちろんこれだけではない。
俺達が入って来た扉が開けられて、そこから入って来た人物に全員が言葉を失う。
「うわぁ〜・・・・・・」
「これは・・・」
「・・・・・・綺麗・・・」
「な・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「はぅ〜・・・・・・凄く美しい人ですぅ」
「いったいあれは誰だ?」
「はぅあ⁉」
「これはなんとも・・・・・・」
「・・・・・・」
現れたのは薄化粧を施し、長い黒髪を割れしのぶと呼ばれる舞妓の髪型。一月の季節花を表す正月の髪飾り、まるで天女を思わせる和服に羽衣を身に纏った本当に美しい舞姫。
見る者からすれば本当に天女が空を舞うようにも見える神秘的な舞いとそれを際立たせる和楽器による演奏。
雪蓮殿たちはもちろん、交州の文官や武官、更には舞姫達と演奏団も余りにも幻想的な光景に言葉を失っていた。
約5分程の演奏は佳境に入り、最後に舞姫が構えたと同時に演奏が終了となる。
彼女達が呆気に取られる中、俺達が一礼すると雪蓮殿が立ち上がって拍手。それに続いて冥琳殿や蓮華殿達も立ち上がって拍手を送る。
「雪蓮殿、お楽しみに頂けましたか?」
「ふぇ⁉・・・・・・え・・・えぇ・・・凄すぎて言葉が出なかったわ・・・」
「う・・・うむ・・・・・・いろんな演奏や舞いを見て来たが・・・今までで一番の美しさだった・・・」
「それはありがとうございます」
「あ・・・あの・・・・・・ライル様」
俺が雪蓮殿達と話していると華蓮殿が話しかけて来た。それも顔を少しだけ赤くしながらだ。
「あの・・・・・・先程の女の人はどなたでしょうか?」
「分かりました。でしたら紹介致します」
そういうと俺は手招きをしながら先程の舞姫を呼ぶ。
「先に言っておきますが、驚くこと間違いなしです」
『?』
「では舞姫様。雪蓮殿達に自己紹介を・・・・・・」
「・・・・・・南郷 武久です」
名前を口にした瞬間、一瞬だけだが時間が止まったような感覚に襲われる。しかし暫くしてからその名前を聞いて・・・・・・・・・。
『えぇえええええええええええ‼‼⁉⁇⁇』
一斉に物凄い驚愕な声を出す。
「ちょ⁉えっ⁉ほ・・・本当に武久⁉」
「な・・・・・・あ・・・あぁ・・・・・・よく見たら確かに武久だ・・・」
「な・・・・・・た・・・たたたた武久⁉」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぅあ⁉なんだか負けてしまいました⁉」
「・・・・・・武久様・・・」
「ひゃう⁉た・・・たけひしゃしゃま⁉」
「にわかに信じ難い・・・」
「がはっ⁉」
ほぼ全員が目を大きく見開き、言葉を所々で噛ませる。特に百合に関しては鼻血を出しながら気絶してしまった。
「これは俺の国の舞いで“歌舞伎”という名前です」
「歌舞伎・・・・・・」
「歌舞伎の中では俺みたいに男性が女性になりきって美しさを表現する女形というものがあります」
南郷が説明をするが、あまり耳に入っていないようだ。そして南郷が気になって華蓮殿の顔を覗き込むと、彼女は顔を真っ赤にしながら迫って来た。
「武久様ぁあ‼‼」
「なっ⁉」
「武久様すっごく可愛いです‼もう私釘付けです‼」
なんというか・・・完全に変なスイッチが入ったようだ。すると雪蓮殿が何かを閃いたようで、俺に視線を向けて来た。
「はっ⁉武久でここまで可愛いんだから・・・もしかしてライルも⁉」
雪蓮殿がそういうと全員が一斉に俺を見る。
「ラ〜イ〜ル♪ちょ〜っと向こうにお化粧しに行かない?」
「なっ⁉ちょ・・・し・・・雪蓮殿・・・・・・」
「あっ⁉私もお姉様と同じこと考えてました‼」
「さっすが華蓮‼じゃあ一緒に・・・・・・」
もはや二人は目が興奮状態になっている。俺は持ち前の勘で全速力でその場を逃げ出す。しかし後ろから・・・・・・。
「待ちなさ〜いライル‼大人しく女の子になりなさ〜い‼」
「待って下さ〜い‼ライル様ぁあ‼」
「冗談じゃないです⁉誰が女装などしますか‼⁉⁇」
後ろから追いかけてくる猛獣に食われまいと、俺は全速疾走で逃げ回る。
交州での戦いが終わった後に起こった珍戦の始まりだった・・・・・・・・・。
楽成城での戦いは新たな展開を見せていた。韓玄達が黄忠の娘を人質にして、戦いを強要していた。
内部に潜入しているポー達は救出の為に動き出す。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[マスター]
ポーの怒りが下郎に下る。