第122話:袁術の三又槍
少女の猛将。狼に襲い掛かる。
戦局は俺達に傾いていた。孫策軍と孫呉海兵隊による北部戦線と交州正規軍の南部戦線は確実に反乱軍を討伐していき、交州の都である河内を奪還。
開戦から二ヶ月で南北の戦線が合流を果たした。これにより反乱軍は分断され、実質の主力軍であった山越は壊滅。反乱軍も次々と降伏または殲滅され、鎮圧は時間の問題だった。
俺達ウルフパックは雪蓮殿と冥琳殿の指示を受けてから旧袁術軍部隊の武装解除を行なうべく、ディエンビエンフーへと急行。
現地に到着すると敵は俺達が来るのを待ち構えていたようであり、有利な籠城をせずに野戦を行おうとしていたのだ。
これが普通の賊連中だったら遠慮なく一網打尽にするところだが、敵は旧袁術軍の中でも精強な紀霊率いる本隊だ。戦力に加える必要がある上に美羽との約束もある。
ひとまずは降伏勧告を行なったが敵の返答は・・・。
“くたばれ”
・・・まるでバルジの戦いで有名な第101空挺師団長代理マコーリフ准将だな・・・・・・・。
仕方が無いので俺達は一度だけ敵と交戦して、敵前衛を排除したら再び降伏勧告を行なうことにした。
そして俺もハルバート隊を率いて敵の中央に突撃を敢行していく。
「連携を取りながら戦え‼油断すると殺られるぞ‼」
『了解‼』
「11時方向に敵弓兵‼撃ち込め‼」
「吹っ飛べ‼」
分隊のHK416+M320A1を装備した部下に敵の排除を命じ、すぐにM441が撃ち込まれる。
敵は俺達を目撃したことでただ只管に仕掛けてくるが、勢いが凄まじい。事実を知らない奴等から見れば俺達は確かに仇だから当然だろう。
だが殺られる訳にはいかないので、俺もM27 IARを構え、AN/PVQ-31B ACOGを覗き込んで照準を合わせて発泡する。
「くそ⁉なんて奴等だ‼」
「こいつら化け物か⁉どんだけ撃ち込んでも向かって来やがる‼」
「そりゃそうだ‼こいつ等は美羽ちゃんが生きてるなんて知らないんだ‼」
「出来るなら殺したくは無いが仕方が無い‼・・・・・・左翼から敵騎兵‼」
本当にキリが無い。加えて地の利に関しては俺達よりも向こうが上だ。火力ではこちらが圧倒的に上であっても相手は死に物狂いで俺達を皆殺しにしようとしている。
その執念は鬼気迫る。向かってくる敵兵を倒しながら俺はインカムに左手を伸ばす。
「ウルヴァリンからストーム‼タンゴリーダーの場所を確認出来るか⁉」
<こちらストーム。レイヴンで周囲を観測中ですが、数が多すぎるので特定不能です>
<3-3からウルヴァリン‼中央からそちらに単騎で急速接近中の敵を確認‼まもなくでそちらに着きます‼>
通信にあった方角を見ると確かにこちらへ単騎で向かってくる敵がいたが、その男が醸し出す気迫に俺は驚かされた。しかしすぐに現実に戻り、敵の攻撃を横に転がりながら回避する。
回転しながらM27 IARの照準を騎乗してきた敵に合わせるが、その姿に息を飲んだ。
身に付けている鎧は古代ローマで装着されたロリカ・セグメンタタと呼ばれる細長く切られた鉄製の板金を重ねて構成されている鎧に、その下に見えるのはロリカ・ハマタと呼ばれるチェーンメイル。
兜からはみ出た長いくせ毛が混じった黒髪に加えて歴戦の猛者でしか持つことが許されない“眼”と手に持たれた三又槍。
七乃や八枝、美羽から聞かされている全ての特徴に一致している。
この男こそが・・・。
「俺は袁術軍武将の紀霊だ‼貴様が銀狼だな⁉」
この男こそが、美羽が父と呼んでいる猛将紀霊。
「・・・・・・あぁ。そうだ」
「貴様と裏切り者の孫策が殺した袁術様の仇が‼ここを貴様等の墓場にしてくれる‼」
そう叫びながら紀霊は素早く馬から飛び上がり、俺に三又槍で仕掛けてくる。
紀霊が持つ三又槍には刃全てに返しがあり、一度でも突き刺さったら肉を持っていかれるだろう。
目にも止まらない素早い刺突を俺はM27を背中に預けて、仮の装備として身に付けていた呉鈎二型を抜刀して受け流す。
「うらぁああああああ‼‼」
「くっ⁉なんて馬鹿力だ⁉」
奴の身体付きからして力はかなり強いと予測はしていたが、受け止める度にくる振動はかなり来る。こんな攻撃を一々受け止めていたら骨を持っていかれそうな位に強力だ。
「どうした⁉その程度の力しか持たぬクセに我が主を手に掛けたのか⁉」
「紀霊‼」
「貴様がその名を呼ぶなぁあ‼」
防戦一方になり、奴は更に攻撃を強める。だがこのままでは本当に殺られかねない。俺も反撃を開始して呉鈎二型を振るう。
いきなりの反撃で紀霊は刺突をやめて後方に飛び上がる。だがすぐに俺も距離を詰めて薙ぎ払う。
「やるではないか‼殺し甲斐があるぞ‼」
「ちぃ‼戦闘狂が‼」
本当にアキレウスもしくはグラディエーターを彷彿とさせる男だ。
俺が仕掛けると三又槍で防いで反撃。長さを突いて体術を行なうも柄の長さを活かされて塞がれ、反撃で蹴りが来る。
七乃からの話によればこいつは強さを求めてシルクロードを渡り、古代ローマで義勇兵として実戦を潜り抜けて帰国。
その全ての技が古代ローマで鍛えられた確かな物。俺が戦ってきた中でも実力はかなり上に食い込んでくるだろう。
有利と思えば逆に不利になったり、不利から逆転して有利になったりと一進一退の激しい攻防戦が繰り広げられる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
斬り合いは既に60合くらい続き、俺と紀霊は息を上げているが、それでも切っ先を向けたままに保つ。
「はぁ・・・はぁ・・・く・・・・・・負けてたまるか・・・み・・・美羽様を殺した奴に・・・」
「はぁ・・・何故だ・・・」
「?」
「何故そこまで・・・・・・あの子に忠義を尽くす・・・お前ほどなら何処にも迎えいれ「知った風な口を聞くな‼‼」・・・」
俺が口にしようとしたら、いきなり紀霊が怒声を発しながら仕掛けて来た。素早く反応して攻撃を受け止め、力くらべに発展する。
「貴様に何が分かる‼俺を救ってくれたお方を殺した貴様に‼」
「くっ⁉・・・何の話だ⁉」
「力を求め国を出て、帰国した俺を煙たがる連中のせいで俺は居場所を無くした‼」
感情が極限にまで高まったのか、猛攻を仕掛けながらも叫び出す紀霊。
「官軍は俺を気違いと見下し、同調した民は俺を化け物扱い‼力を誰からも認められず、飢え死にし掛けた処を助けて下さったのが美羽様だ‼」
「・・・・・・・・・」
「あの子は見ず知らずの俺を迎え入れてくれた‼あの子は俺に居場所をくれた‼あの子は俺を父と慕ってくれた‼」
少しだけ隙が出来て、槍を突き出した瞬間に俺は身を屈めて奴を蹴り飛ばす。奴は地面を数回ほど転がりながらも、やがて腹を押さえながら立ち上がる。
“どうしたのじゃ?お腹空いたのなら妾の処に来るのじゃ♪”
(美羽様・・・)
“にょほほ♪紀霊は面白いのじゃ♪妾の処にいて欲しいのじゃ♪”
(美羽様・・・)
“むにゃむにゃ・・・・・・九惹父様ぁ・・・大好きなのじゃ・・・”
「美羽様・・・・・・うぉおおおおおお‼‼‼」
今までにない気迫を吐き出しながら奴は三又槍を構えて突っ込んできたが、怒りのあまり防御が疎かになっている。
すまない・・・美羽・・・約束を守れない兄貴を許して欲しい。
これ以上の戦闘を回避する為、俺は呉鈎二型を構え直し、奴が槍を突き出した瞬間に喉を斬ろうとした瞬間・・・・・・。
「やめるのじぁ‼‼」
「「‼⁉⁇」」
切っ先が奴の喉を貫通しようとした瞬間に、戦場には不釣り合いである子供の叫び声が鳴り響き、俺と紀霊は発信源へと視線を送る。そこにいたのは、七乃と八枝の2人に連れられて駆け寄って来る美羽の姿。
その突然の状況に俺は驚かされるが、それ以上に驚かされたのは紀霊だ。
「み・・・・・・美羽・・・様・・・?」
「もうやめるのじゃ九惹‼」
「そんな・・・・・・だって・・・美羽様は殺されたと・・・」
「九惹さん・・・それは偽りの情報なんです」
「七乃・・・八枝・・・」
「孫策はんとライルはんは美羽様を古狸から救ってくれはって、わて等を守る為に表向きで“死んだ”としてくれたんどすゎ」
「美羽様を・・・・・・救った・・・?」
「・・・・・・そうだ。俺達は美羽を袁家の人間ということを利用して私服を肥やしている奴等を討伐して救い出し、美羽を表向きで死んだことにし、孫策軍に保護させた」
危険は感じられないと判断した俺は呉鈎二型を納め、少しだけ距離を置きながら成り行きを話し始める。
すると美羽が紀霊の下に歩み寄り、紀霊もそれを混乱しながら姿を見る。
「じゃからもういいのじゃ・・・・・・元の妾の大好きな優しい九惹に戻って欲しいのじゃあ・・・」
「美羽様・・・・・・」
生きていたこと、そして美羽の顔を見て紀霊は三又槍を落とし、美羽を強く抱き締めた。
それも歓喜の涙を流しながらだ。
「よかったぁ・・・・・・ほんとによかったぁ・・・美羽様ぁ・・・美羽様ぁ」
美羽が生きていたと涙を流しながら喜び、周りにいた旧袁術軍兵士も武器を手放して涙を流していた。一人の少女によって戦いが終わった瞬間だった。
その後、周囲に展開していた敵は美羽が生きていたことを知ると武器を捨てて潔く降伏していき、紀霊も俺達に降伏。ディエンビエンフーでの戦いは鎮圧され、反乱軍本隊も同時刻くらいに壊滅。
交州における戦闘は孫策・交州正規軍連合の勝利で終わり、俺達も降伏した敵兵を連れて孫策軍本隊へと合流する為にディエンビエンフーを後にした・・・・・・。
交州における戦いが終息した頃、益州で行動する劉備軍も戦を繰り広げていた。次なる相手は黄忠。
しかし黄忠軍内部に不穏な動きを察知したクラウドとポーと一刀は楽成城へと潜入する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[スニーキングミッション]
3人による潜入が開始される。