第120話:形見
狼の暗殺者。義の刃と語らう。
劉備軍が益州に入って暫くが経過した。北郷君と劉備ちゃんが率いる軍勢は順調に成都に向けて進軍する。しかし、劉漳軍も黙ってはいない。
進路上には支城が20以上もあり、劉漳を見限って無血開城する支城もあれば頑なに抵抗する支城などと様々だ。
4つ目の支城であるこの城を陥落させ、降伏した兵を併合した劉備軍はその日の進軍を停止。オブザーバーとして同行している俺、クラウド・レインディー二等軍曹は城壁に腰掛けながら武器の手入れをしていた。
「ふぅ・・・こんなもんだな。次だ」
研石を行ない、椿油を塗って手入れを終えた状態のグルカナイフを鞘に納めると、もう一本のグルカナイフに取り掛かる。
グルカナイフは日本の鉈と同じで、定期的に椿油を塗って、棒砥石を使って研がなければならない。
これを編み出したグルカ人に敬意を払う為に定期的に手入れを念入りに行なっている。
そして2本目のグルカナイフの手入れを終えて出来を確認する最中、後方から気配がしたのでグルカナイフを鞘に納めるとUSP,45を構えて飛び上がる。
「ク・・・クラウド殿⁉」
「関羽か・・・脅かさないでくれ」
いたのは俺の反応に驚く関羽だ。手には彼女の得物である青龍偃月刀。
よく考えれば確か彼女が隊長を務める一刀君の親衛隊“龍刃隊”が周辺にいた残党を駆逐していた。恐らくはその帰りで俺を見かけたのだろう。
USP,45をレッグホルスターに戻しながら彼女を伺う。
「いま帰りかい?」
「ああ、辺りにいた敵はあらかた片付けた。ひとまずはご主人様や姉上に報告するところだったが、クラウド殿を見つけて・・・」
「そうか・・・」
「それでクラウド殿は何をしていたのだ?」
「天気がいいし、やることが無かったからな。武器の手入れだよ」
尋ねながら関羽は偃月刀を立て掛けて俺の隣に腰掛ける。しかし見れば見る程に綺麗な黒髪にしっとりとした美しい肌だ。
中佐が美髪嬢と呼んでいたが頷ける程の美少女だ。俺はそれに見惚れていると、関羽が話しかけて来た。
「クラウド殿、如何されたか?」
「いや・・・・・・可愛いなぁっと思ってね」
「なっ⁉か・・・・・・可愛いなどと⁉ば・・・バカにしないで下さい‼」
「いや・・・バカにはしてないんだが・・・・・・」
「全く・・・・・・ご主人様と同じことを仰るなんて・・・私は武人なのですから可愛いなどというのは不要です」
「そうか?俺達がいた国じゃ、関羽位の年の女の子はお洒落や恋愛に夢中なんだがな」
「はぁ・・・・・・しかしクラウド殿やライルがいた世界はやはり平和なのか?」
「まあな・・・一応は平和は保っている場所もあれば半世紀以上も続いてる紛争や内戦もあるな」
「・・・・・・天の国も完全に平和なのではないのだな」
「そうだな・・・」
「クラウド殿はなぜ軍に入ったのだ?」
関羽から軍に入った理由を聞かれ、俺はすぐに彼女に振り返る。
「・・・言わなきゃダメか?」
「いや・・・別にただ私が気になっただけだ。無理に話してくれる必要はない」
「別に大丈夫だよ・・・いいよ。話してあける」
そういうと俺はレッグホルスターの他に腰の辺りに取り付けているヒップホルスターから一つの拳銃を取り出す。
ウルフパックでは採用されていない俺自身の私物でもあり、俺が大事にしている宝だ。
外見はM45A1と似ている箇所があるがスライドストップやサムセーフティ、ハンマーの形状が違う。更に木製グリップは保ってはいるが傷だらけで、全体的にも細かい傷やすり減っている箇所が幾つかある。
俺が大事にしている9mm口径のM1934 FN ブローニングハイパワーだ。
「それは?」
「これは俺の国・・・・・・俺の親父の故郷の軍で使われていた拳銃でな」
「クラウド殿はライルと同じ国同士ではないのか?」
「生まれた国は同じだけど親父は移民なんだよ。オーストラリアっていうこの国から遥か南に進んで、海を超えた先にある島国の生まれだ」
「大海を渡った⁉」
「俺達の世界じゃよくある光景だからな。別に珍しいことじゃないよ」
まあ・・・海を渡るにはまだまだ年代が必要だがな。
「俺の家は昔から男は軍歴を持つっていう伝統があってな。親父の代まではオーストラリア軍で軍歴を重ねて行ったんだ。もちろん祖父もな」
「祖父?」
「俺が最も尊敬してる軍人だよ。かつて世界を巻き込んだデカイ戦争があってな。うちの祖父はたった1人で敵の侵攻を食い止めたり、捕虜を敵陣から奪い取ったり、敵の拠点を破壊したりと大暴れしたんだ」
関羽の表情は半信半疑のようだ、まあ、分からなくはない。これはレインディー一族では伝説になっている程であり、尊敬はしているがどこまでが事実で何処からが偽りなのか、調べる術はなかった。
「その戦争が終わってからも各地で発生した様々な戦争に参加して、英雄と称されたが・・・・・・」
「が・・・どうしたのだ?」
「ベトナム・・・・・・この国の交州に当たる地帯で15年も続いた戦争で・・・・・・任務中に行方不明になったんだ」
正直に言えば少し辛い話だ。生まれる前に祖父は行方不明になって、親父もその時はまだ子供。顔を写真ではみたことはあるが、その写真もいまやヴェアウルフの兵舎に数枚ある程度になってしまっている。
「この武器は・・・・・・親父から受け継いだ祖父の・・・たった一つの形見なんだ」
そういいながら俺はスライド右側に目線を送る。そこには荒削りではあるが、あからさまな手彫りの文字がある。書かれている文字は・・・。
“For the grandchild born some day”
“いつか生まれてくる孫の為に”だ。
関羽は俺の話に耳を傾けながら少し悲痛そうな顔をする。
「俺が軍人になったのは、祖父みたいに立派な軍人になることと・・・足取りが少しでも分かるかと思ったからだ」
軍人になった理由をいいながら俺はM1934をヒップホルスターに納め、グルカナイフを身に付けると工具一式を纏めて脇に抱える。
「さあ、みんなの所に行こう。俺も用事があったのを思い出した」
「あっ・・・・・・ああ・・・そうだな」
そういうと俺達は一刀君達の所へと足を運ぶ。
しかし本当に劉備軍はいい人達ばかりだ。俺の祖父の話にまるで自分の事のように哀しくなってくれるのだから。中佐が目をかけるのも頷ける。
当面は彼等と共に戦うとしよう・・・・・・・・・。
新兵鍛錬の後、牙刀は何時ものように自らの鍛錬に励んでいた。
そこに西涼攻略から帰還した司馬懿と彼の配下達が不穏な笑みを浮かべながら歩み寄って来る。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[龍心]
魏武の龍。武人としての志を見せる。