第118話:牙刀と凪
牙刀の決意を少女が聞く。
長坂橋で劉備軍を取り逃がす。我等の主目的は成し遂げられなかったが、劉琮率いる荊州軍が我が軍に降伏。荊州の北部と中部を支配下に置くこては出来た。
そして我が軍は長坂橋から引き返し、軍備を整えると新野に駐留。当面はこの地域の治安維持活動に力を注ぎ、確固たる基盤を設けることになった。
私も警邏隊隊長として、街の警邏にあたっていた。
「隊長・・・いつもながらすみません・・・」
「全く・・・あの2人には悩まされる」
私は現在、繁華街を凪と共に警邏を行なっている。ただ、少し呆れながらだだが・・・。その理由は単純明快で真桜と沙和がいないのだ。普通なら風邪や他の業務で来れなくなったと思うが、あの2人の場合はそんなことではない。
大方・・・。
「やったなの‼阿蘇阿蘇の最新号が買えたなの‼」
「うっひぇ〜‼製造停止になってもうた等身大からくり春蘭様や‼」
・・・などと仕事をサボっている姿が容易に想像出来る。だが2人を探すのに仕事を割く訳にはいかないので、仕方なく私と凪の2人で見回りをすることにした。民の様子は活気に満ち溢れており、今は行方をくらましている劉琦が統治していただけに治安状況は良い。
我等の統治に初めこそは戸惑いがあったが、曹操殿が圧政を敷かないと分かって普段通りの生活を送る民の姿。
私はそれを見ながら歩いて行く。
「しかし・・・なかなか活気に満ち溢れていい街だな」
「そうですね。民の笑顔や笑い声が溢れていて素晴らしい眺めです」
「うむ・・・・・・皆が曹操殿のお考えを理解すれば、この国は必ず・・・・・・」
私はそこで言葉を止めた。あの時・・・長坂橋でのライル殿が曹操殿に言った言葉を思い出したのだ。
“確かに力による天下統一は“一時的”な平穏を生みます。だがそれは押さえつけられた平穏です。たとえ自身が民の為にだと思っていても、民からすれば理解される筈が無い”
確かに一部の人間から見れば曹操殿の目指す覇道は独裁の道。全ての人間が同じ考えを持つことなどは不可能な話だ。
「・・・隊長?」
「・・・あぁ・・・何でもない」
「何処か具合でも・・・」
「いや・・・・・・ライル殿のことを考えていてな・・・」
「ライル殿・・・・・・ですか?」
「うむ・・・歩きながらでも話そう・・・丁度いい機会だ」
そういいながら私と凪は並びながら歩いて行き、小休止も兼ねて少し先にある広場で腰を降ろす。
「凪、なぜ私が敵であるライル殿に真名を預けたのか分かるか?」
「・・・・・・いえ・・・」
「そうか・・・実は私にもはっきりとは分からんのだ」
「隊長?」
「あの時・・・あの男が言った言葉に感服したのは確かだ。主である孫策に対する絶対的な忠誠心に呉への愛国心・・・更に仲間や民を想う心に戦う者としての覚悟・・・どれをとっても敵ながら素晴らしいものだ」
「・・・・・・それは私も感じました・・・・・・私自身もあの方には敬意を持てます」
「うむ・・・あの男が支える呉という国・・・孫家の理想・・・・・・それもまた・・・一つの平和なのだろう・・・だが」
「?」
私は立ち上がり、腰掛けていた木にもたれ掛かる。
「真に平和を望むのなら・・・なぜ我等の陣営に来なかったのかが分からん・・・劉備や孫策のようなやり方では・・・・・・いずれはまた第二の十常侍や宦官が現れる。“血筋があるから他の者より優れている”・・・“守るものだから従え”という権化がまた現れる」
「・・・・・・・・・・・・」
「血筋や家系に囚われることなく、皆が生きる為に努力する乱世の先・・・一人一人が力を尽くす世を作る・・・・・・」
「隊長・・・・・・」
「・・・だからこそ・・・私は誓った。私を迎え入れて頂いた曹操殿や・・・・・・今は亡き曹嵩様が望まれた世を実現すると・・・あの男に私の真名を預けたのは、その意思表示なのかもしれぬな」
「・・・・・・・・・そうかも知れませんね」
「・・・凪・・・・・・これからも共に曹操殿を支えていくぞ」
そういいながら私は凪に振り返り、右手を差し伸べる。
「私や夏侯惇殿、夏侯淵殿達と共に曹操殿を支え、必ずや我等の理想を成し遂げて見せる。だから・・・・・・共に戦ってゆくぞ」
「・・・・・・・・・はい‼」
凪は私の手を取り、引いて立ち上がらせる。凪は私に取って副官でもあり、仲間であり、戦友だ。彼女達となら必ずや・・・・・・曹操殿の理想を実現するだろう。必ず・・・・・・・・・・・・。
ところ変わって、繁華街の一角にある店では・・・。
「やっぱりここのお店のお茶は最高なの♪」
「せやなぁ♪おまけにうちが欲しかったからくりの道具も見つかりよったし、今日はついとるで♪」
「あっ♪沙和が行きたかったお店の新作が載ってるの♪」
沙和と真桜が茶を飲みながら仕事をサボっていた。沙和は阿蘇阿蘇の新刊を読みながら茶を飲み、真桜はからくりを作る際の工具を眺めていた。
これが休日だったら何の問題は無いが、この日でこの時間帯は執務の真っ最中だ。
「ねえ真桜ちゃん♪これから新作の服を買いに行かないなの?」
「服かぁ・・・・・・ウチはあんま興味は無いんやけど・・・・・・たまにはええな♪」
「じゃあ早速行くなの「何処に行く気だ?」もっちろん新しい服を買いに・・・・・・あれ?」
「なんや沙和、どないかしよったん「それは私も聞かせて貰いたいものだな」・・・・・・・・・」
2人はからくりの音の如く、店の前に目線を配る。そこには・・・・・・。
「「なあ・・・・・・真桜・・・沙和」」
「「た・・・・・・隊長・・・凪」」
阿修羅の如く、負の気配を出す私と凪の姿があった。
2人は顔が真っ青になり、冷や汗が吹き出していた。
「二人とも・・・・・・お前達はなぜこのような場所で茶を啜っているのか説明はあるか?」
「あと、その書物と工具についてもそれは素晴らしき理由があるのか、聞かせて頂こうか?」
「い・・・いやぁ〜・・・・・・ち・・・ちょっと休憩なの⁉」
「せ・・・せやせや⁉ちょ〜っと休憩してから警邏に戻るつもりやったんやで⁉」
「ほぅ・・・・・・ならば亭主の目撃証言の三刻以上もいるのはどういうことか?」
「「ぎくっ⁉」」
2人は夢中になり過ぎて時間の経過を忘れていたようだ。そのお陰で私と凪が2人の分の仕事をする羽目になったのだ。
「・・・・・・2人共、今月の給金三割減」
「「えぇええええええ‼⁉⁇」」
「それと仕置き付きだ・・・凪」
「さてと・・・・・・覚悟はいいな、2人共?」
「は・・・あははははぁ・・・な・・・・・・凪ちゃん・・・何だか怖いの・・・」
「ちょ・・・な・・・・・・凪?」
「猛虎蹴撃‼‼」
「「いぃいいいいいやぁああああああああ‼⁉⁇」」
因果応報・・・・・・もしかしたらこの2人の為にあるのかもしれぬな。
このお仕置きの後、私は自腹で店の修理代を出したのは言うまでもない・・・・・・・・・。
劉備軍撤退支援から帰還したライル率いるハンターキラーも交州に到着した。そこでライルに旧袁術軍親衛隊が出迎える。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[義妹の願い]
心優しい少女、ライルに祈願する。