第107話:昇り竜
趙雲こと星。城壁にて・・・。
私達が徐州から脱出して3日が経った。曹操が治める予州を突破して何とか荊州に入ることが出来たが、その間にも損害が出た。
幸いにも敵には名高い武将や軍師は出払っていたようで返り討ちにすることは出来た。
だが危険を承知で共について来た兵が死んでいくという悲しい現実にも出くわしてしまった。
しかし主と桃香様、そして我等の理想を実現する為にも前に進まなければならない。
我等を出迎えてくれた桃香様の血縁者でもある劉琦殿の計らいで我等は新野城にて束の間の休息を取っていた。
「ふぅ・・・・・・」
私も新野城の城壁で杯とメンマを口にしながら城下町を見下ろす。
この国の中央に位置するだけのことはあって人の行き来が盛んで、街全体が活気に満ち溢れている。更に劉琦殿の人望溢れる政策で民に笑いも見れる。
とても劉琮のような輩と水面下で争っているとは思えない。しかし病弱である劉琦殿はあまり長くなさそうだ。私がそんな考え事をしていると見慣れた人影を目撃する。
「星」
「おや?主ではありませぬか。このような場所でいかがなされましたかな?」
「いや・・・仕事も一通り終わったところだから息抜きをしに来たんだよ。星は相変わらずメンマかい?」
「相変わらずとは失敬な・・・主もご存知まであろう?メンマは私にとって友・・・否、もはや私と一心同体ですぞ」
「はははは・・・・・・」
そう笑いながら主は私の隣に座って同じくメンマを口にする。
「どうかなされましたか?」
「うん、ちょっとね・・・」
主はそういいながら差し出したメンマを口にして、徐州があった方角を見る。
「主は・・・迷われてるのですかな?」
「迷っていない・・・っていえば嘘になるな。俺は桃香達と出会って、“天の御使い”としてみんなと行動して、桃香との間に刀瑠を儲けた・・・・・・だけど・・・」
「だけど?」
「だけど・・・・・・その裏側では俺達の為に散って逝った人達が数え切れないほどいる・・・」
「・・・・・・・・・」
「時々思うんだ・・・・・・もしこのまま理想が実現できなかったら・・・もし戦が無くならなかったら・・・もし・・・・・・俺が・・・元の世界に戻ってしまったら・・・「主」せ・・・星?」
私は主の不安そうな顔を見て何故か私も辛くなり、主の頭に手を回すとそのまま私の胸元に顔を引き寄せる。
「主・・・・・・主は考え過ぎなのです」
「星・・・・・・」
「確かに私達は幾多もの犠牲の上に立っています。それ故に実現出来なかったらその者達に申し訳が立ちませぬ」
「・・・・・・・・・」
「主も仰ったではありませぬか。“立ち止まるな。信じて前を見て歩く”と・・・・・・」
主は私の胸に埋れながら黙り込んでしまう。
「私は・・・主のそういう処に惚れ込んだのですよ・・・・・・だから・・・」
「・・・・・・・・・」
「だから・・・また不安になられましたら、私の胸をお貸し致しますよ」
ようやく主の頭を離して私とすぐ前にやる。今の主の表情は赤く染めており、少ししてから私が好きな主の笑顔になる。
「・・・フゥ・・・やっぱり星には敵わないな」
「おや?私の胸だけでは満足されませぬか?でしたら今宵、隅から隅まで思う存分・・・」
「はははは・・・またすぐに調子に乗って・・・・・・だけど・・・ありがとう」
「礼は・・・・・・言葉だけですかな?」
私はそう言うと目を閉じて顔を少しだけ前に出す。
「やれやれ・・・・・・」
主もそういうと恐らくだが目を瞑って、私の唇に口付けを交わす。少しだけ時間が経過して自然と互いの唇が離れた。私は殿方にこのような感情を抱いたことはこれまで無かった。
主が初めてなのだ。愛紗あたりが羨ましがるであろうが、今は私が主を独り占めさせてもらうとしよう。
再び口付けを交わそうとした直後、城の外から奇妙な音が聞こえて来た。
「主・・・」
「ああ、聞こえてるよ。だけど敵じゃ無いみたいだね」
「そうなのですかな?」
「うん。こんな音を出して向かって来られるのはあの人達しかいないから」
「それにしても、なぜこのような場所に・・・・・・」
「分からないけど、それは直接聞いた方がよさそうだね。城門で出迎えて来るよ。星はどうする?」
「私は桃香様達に心強い客人が来たと伝えに参りましょう」
「分かったよ」
それだけを言うと主は客人を出迎える為に城門へと向かう。私も酒とメンマを手に取ると桃香様達の処へと向かうのであった・・・・・・・・・。
劉備軍に心強い援軍がやって来た。新野の地にてライルと打ち合わせを進める中、追撃を再開させた曹操軍が荊州へと侵攻を開始する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[嵐の前の静けさ]
曹操軍の手が忍び寄る。