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第100話番外編:孫呉のクリスマス

記念すべき第100話。ハロウィンに続いてクリスマスをお届け。

12月25日。この日は孫呉に雪が降り注いでいた。建業は一面雪景色に変貌して、子供達は雪合戦で遊んだり、大人達は雪かきで精を出していた。そして建業城でも・・・・・・。


『メリークリスマス‼‼』


玉座の間ではクリスマスパーティーが開かれていた。


中央に置かれたクリスマスツリーを囲む様に机にはドライフルーツが入ったバウンドケーキのシュトレン。


フランクフルター・ヴュルストヒェン、ボックヴルスト、ミュンヒナー・ヴァイスヴルスト、ビーアヴルストの5種類を盛り付けたヘルマンソーセージ。


フライドチキン、ドイツ風スティファド、フィンケンヴェルダーショレ、ザワークラフト等、数多くのドイツ料理が皿に盛り付けられている。


もちろん酒類もある。ケルシュやヴァイツェンビア、ピルスナー、グリューワイン、キルシェヴァッサーの5種類を用意した。


去年にもクリスマスパーティは行なったが、今回は思考を変えて俺の祖父の国であるドイツ風。


理由としては単純だ。去年と同じで雪蓮殿達が飽きないようにという配慮だ。

そしてその雪蓮殿達はというと・・・。


「プハァ〜♪やっぱり美味しいわねこの“びーる”って♪」

「この羅馬の葡萄酒も落ち着いた味でいい。私好みだ」

「肉料理も酒の当によく合うわぃ。これじゃったら幾らでも酒が進む」

「蓮華様、まだ飲まれますか?」

「ええ、ありがとう思春」

「はぁあああ〜♪雪を見ながらお酒を飲むなんて素敵です〜♪」

「美味しいです‼こんな料理初めて食べました‼」

「み・・・明命。もう少し落ち着いて食べないと喉に詰まらせてしまいます」

「シャオはこの“けーき”が好きぃ‼」

「にょほほ〜♪楽しいのじゃ♪のぅ七乃、魯粛♪」

「はい、お嬢様♪」

「美羽様、口元が汚れておりますよ」


酒や料理を口にしながら楽しんでいた。しかも雪蓮殿はどういう訳かミニスカサンタガールの衣装を着ている。まあ、似合っているから問題はないが・・・。

そしてこちらでも・・・。


「しゅりぃいいいい‼こ〜んなところにいたんだぁあ〜♪お兄ちゃん寂しかったよぅ‼」

「あぅあああ〜⁉しぇ・・・千里しゃまぁ⁉私は美花でしゅ⁉朱里ちゃんじゃありましぇん⁉」

「はははっ♪相変わらず千里殿は酒癖が悪いな」

「うむ、しかし私達も気にせず楽しむとしよう丁奉」


酒癖が悪い千里が酔っ払って美花を朱里と間違えて頬ズリしている様子を、雪蓮殿以上の酒豪である優龍と百合はピッチャーで注がれたヴァイツェンビアを飲んでいた。


「楽しんでくれているようだな?」

「ああ、ジーンに無理を頼んだ甲斐があったもんだな」

「しかし・・・千里の奴、酔うと小さい女の子が朱里に見えるだなんて、どんな酔い方だよ」


泣き上戸や笑い上戸なら聞いたことはあるが、妹上戸というのは流石に無い。というか美花が災難だな。


「ラ〜イ〜ル〜♪」

「雪蓮殿?」

「そんな場所にいないでこっちに来て楽しみましょ♪」

「これは失礼、今行きます」


ヴァイツェンビアを片手に雪蓮殿が俺の腕を掴み、みんなの所へ連れて行く。どうも彼女も酔っ払っているようだ。まあ確かに見る限りでは確実に10杯は飲んでいるから当然だろう。


「おうライル。ようやく来よったか、まあ飲め」

「・・・祭殿・・・・・・俺が酒を飲めないのは知っているでしょ?」

「応っ‼じゃがお主が酔い潰れるのを見たいのじゃ。なあ、策殿?」

「うん♪」

「させますか⁉」


というか・・・ほんとうに勘弁願いたい。俺が酒を飲むとすぐに酔い潰れてしまう上に、翌日から数日間は酷い二日酔いに襲われて寝込んでしまう。


しかも飲んだ直後から目を覚ますまでの記憶が全く無いのだ。これでは何をされてしまっているのか把握のしようがない。

2人が俺に飲ませようとしている差中、美羽が俺に抱きついて来た。


「兄様ぁ〜♪妾、贈り物が欲しいのじゃ♪」

「み・・・美羽⁉」

『⁉』


助け舟とはまさにこのことだ。美羽がプレゼントを強請ってくれたおかげで2人の勢いが削がれた。


「あぁああ〜‼シャオも欲しい‼」

「わ・・・私は・・・・・・別に・・・」

「ふむ・・・先年の品も中々のものだった。今年も期待してよいな?」

「・・・・・・・・・」

「ライル様‼私にどうかお猫様と仲良くなれる品を‼」

「あぅあ・・・・・・」

「ライルさぁあ〜ん♪穏にも新しい本をくださ〜いぃ♪」

「わぁ⁉わ・・・・・・分かってますよ⁉ちゃんと用意していますから⁉」


何とか彼女達を抑え込んで、アレックスに視線を送るとすぐにプレゼントを持って来た。すぐに全員に行き渡り、それぞれが中身を確認する。


「わぁ〜い‼天の国のお酒だ‼」


雪蓮殿にはフランス西部のコニャック地方の名産であるブランデー。それも最高級品である銘酒のリシャール ヘネシーだ。


「うむ、流石はライルだ。私達を喜ばす考えを持っているな」


冥琳殿には銀色で編み込みのようなベルトをした腕時計。電池が無くなってもそのままアクセサリーとして身に付けることが出来る。


「儂には策殿とは別の酒か・・・後で飲むとしようかのぅ」


祭殿にも酒だが、こちらは日本酒。新潟県で酒造されて淡麗辛口でキレのある後口に特徴がある名酒“八海山”だ。


「あ・・・・・・ありがとう・・・ライル、アレックス」


大の虎好きである蓮華殿には可愛らしい虎の赤ちゃんのぬいぐるみだ。


「わぁ‼シャオもこれでまた可愛くなっちゃう♪」


シャオには花の彫刻が掘られた髪飾りだ。色合いも全体的に白色なのでよく似合うと思う。


「はぅあ♪こ・・・これは私が欲しかった天の水軍の戦術指南書・・・あぁあああ〜。手にしただけでぇえ〜〜身体か火照ってきちゃいますぅ」


穏にはアメリカ海軍の戦術書。彼女に本を渡すのは多少危険であるが、それでも喜んでくれるのならよしとしよう。


「ほぅ・・・・・・前に南郷が話していた天の国の得物か・・・確かにいい感触だな」


思春には忍刀だ。隠密の役割もある彼女にとって機動力と携帯性に優れているのでかなり活躍しそうだ。


「にゃああああ‼お猫様変身道具です‼ありがとうございます‼」


明命には猫耳に猫尻尾、猫手、猫足、猫ヒゲというグッズ一式だ。はっきり言うと彼女のプレゼントが一番簡単だった。早速身につけて猫になりきっている。

その姿は予想以上に可愛らしい。最近仲がいいクラウドが見たら絶対に連れて帰るだろう。


「はぅあ‼わ・・・私なんかにこんな素晴らしいものなんて・・・あ・・・・・・ありがとうございます‼」


亞莎には新しい片眼鏡だ。少し前に亞莎が合わなくなっていると話していたのを聞き、視力検査と称して彼女に合う眼鏡のデータを揃えて用意させたのだ。


「にょほほぉ‼蜂蜜なのじゃ♪」

「私にはお嬢様とお揃いの首飾りですか♪」

「これは・・・天の国の筆記用具・・・・・・なんと素晴らしいものか・・・」


美羽には一番喜んでくれるように最高級品の蜂蜜。七乃には美羽がいつも身に付けているネックレスと同じもの。

外交官である魯蕭には万年筆やインク、ルーズリーフをワンセットにした筆記用具一式だ。


「こ・・・これは⁉朱里の絵⁉」

「あぅ・・・・・・く・・・クマのぬいぐるみでしゅ⁉」

「某にも用意して頂き、ありがとうございます。ライル将軍」

「あ・・・ありがとうございます・・・・・・兄上」


千里には以前に徐州に訪問した際に撮った朱里の写真にCG加工で千里も加えた写真10枚で美花にはサンタの服装を着せたテディベア。

優龍には子供達と一緒に楽しめる遊び方を記した本と菓子作りの調理本。

そして意外に可愛い物好きである百合には子犬の置物。なお、彼女は少し前から俺のことを兄上と呼ぶようになっている。


「全員に行き渡ったようですね?」

「ありがとうね‼ライル‼」


全員が喜んでくれているようであり、用意した甲斐があった。すると雪蓮殿が俺の腕を掴んで部屋の外に歩き出す。


「ねえライル、実はね。私からもあなたに贈り物があるの♪」

「私に・・・ですか?」

「そっ♪だから一緒に付いて来て♪」


そういいながら雪蓮殿は俺を引っ張りながら玉座の間を後にして廊下を歩いて行く。

少しして辿り着いたのは中庭。広々とした中庭にも雪が積もり、城の趣きも加わってかなり幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「ここよ♪」

「雪蓮殿・・・ここで何を?」

「ねえライル、あなたの故郷でこんな言い伝えがあるのよね?」

「言い伝え?」

「そっ♪・・・とある場所に立った男女の2人は・・・」


そういいながら雪蓮殿は俺に抱きつき、両腕を俺の首に回す。いきなりだったので混沌としてしまう。


「し・・・・・・雪蓮・・・殿・・・」

「・・・結ばれるっていう言い伝え♪」


その瞬間に俺は考えられなくなってしまった。雪蓮殿は俺の顔を近づけながら目を瞑り、唇を俺の唇に重ねて来た。


「んっ・・・・・・んん・・・」

「んっ・・・ちゅっ・・・・・・はぁ・・・」


暫く続いた彼女とのキス。俺達は互いの顔を少し離して互いの顔を見る。

背後の柱にはヤドリギが貼り付けられて、雪という幻想的な風景に照らされ、瑠璃色の吸い込まれそうな瞳、そしてなによりも見ているだけで自然とこちらも笑顔になる優しさに満ち溢れた幼さが残る顔立ち。

今の彼女は孫呉の王としてではなく、1人の美女としての雪蓮殿だ。


「これが・・・私からのプレゼントよ♪」

「・・・・・・・・・・・・雪蓮」

「えっ・・・きゃっ」


俺は嬉しくなり、彼女の顔を寄せてキスをする。いきなりのキスに雪蓮殿も最初は驚いていたが、少ししてから目を閉じて深くキスを通して気持ちを俺に伝える。


「はぁ・・・ライルって口づけが上手いわね♪」

「・・・・・・」

「もぅ・・・・・・そこで黙り込まないでよ・・・・・・・・・流石に恥ずかしいわ」

「雪蓮・・・・・・ずっと前から言いたかったことがある」

「ライル・・・?」

「俺は・・・泗水関で会った時から俺は・・・・・・君が・・・・・・」


そういいながら再び目を瞑り、やがて唇を再度重ねた。そして・・・・・・・・・。









‘ピピピピピピピピピピピピ‼‼’


不意に鳴り響く電子音。重い瞼を開けると、そこは俺の部屋の天井。窓の外からは鳥の鳴き声が聞こえる。朝の5時きっかりにセットした目覚ましを止めて寝台から起き上がると状況を理解した。


「・・・また・・・・・・あの夢か・・・」


そう・・・・・・さっきまでの至福の時は夢。シチュエーションは違うが同じような状況の夢だ。

最後には雪蓮殿と2人きりになり、キスを交わす。普通の夢なら目を覚ますと同時に忘れているが、この夢だけははっきりと覚えている。

しかも一度や二度ではない。孫呉に忠誠を誓ってから時々見るようになり、最近になってから回数が増えている。


俺は寝台から出て眠気を取り、着替える。身だしなみを整えるので鏡で照らしながら顔を触る。


「・・・・・・雪蓮・・・・・・・・・はぁ・・・どうしたっていうんだ・・・俺は・・・・・・」


考えていても仕方がない。俺はブラックベレー帽を被ると朝食を摂る為に食堂へと向かった。

これは、俺が交州へと向かう数日前の話である・・・・・・・・・。

次回から本編に復帰します。

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