魔獣の始まり
この物語はサスペンスです。
(警官)「8時46分、少年を逮捕しました!」
10月9日の朝、17歳の1人の青年が警察に逮捕された。
青年の名は黒山一樹。地元の高校に通うごく普通の高校生だった。容疑は窃盗罪である。
そして一樹は警察署に連行される………
(警官)「すぐに取り調べを行う。少しの間ここで待っていろ。」
警官は一樹を警察署内の留置所にぶち込んで鍵をかけた。だがこの時一樹はほくそ笑んでいた………
数時間後、一樹がいる留置所に警官と刑事が現れた。
(刑事)「これから取り調べだ。出ろ。」
そして一樹は手錠をかけられたまま警官と刑事に連れられて取調室に向かった。
(刑事)「ったく、こんな小さなヤマに時間使わせるんじゃねぇよ。」
(一樹)「………」
一樹は連行されながらも下を向き、またほくそ笑む。この笑みに警官と刑事は気付いていない。
そして3人は取調室に到着し、中に入った。
(刑事)「座れ。」
刑事の指示で一樹は取調室の椅子に座り、刑事も一樹と対面するように座った。警官は取調室の扉を閉めてその前に立った。
(刑事)「黒山一樹17歳、容疑は窃盗、盗んだものは百貨店の品物1品………率直に聞く。なんでこんなことをしたんだ?コンビニの万引きとなんら変わらんことして。」
(一樹)「………」
一樹は黙ったまま何も語ろうとしない。
(刑事)「なんでこんなことをしたんだ!こっちはこんなことに時間をかけてらんねぇんだよ!さっさと喋れ!」
黙る一樹に激怒する刑事。すると一樹はゆっくりと口を開いた。
(一樹)「フフッ………ハハハハハ………」
一樹はほくそ笑むのをやめ、声に出して不敵な笑みを浮かべだした。
(刑事)「何がおかしい!?」
(一樹)「刑事さん、この世にはなんでルールが存在するんだろうね。」
(刑事)「あぁ!?何の話だ!?」
(一樹)「ルールはなんで存在するのかって話だよ。」
(刑事)「話を逸らすんじゃねぇ!早く事件のことについて話せ!」
一樹は刑事の指示に耳を傾けることなく自分の話を進めていく………
(一樹)「ルールがあれば世界を平和にすることができるよね。でもそのルールがあるからこそ苦しむ人もいるんだよ?そういう人の存在は知ってるかい?」
(刑事)「何のつもりだ!今は取り調べ中だぞ!」
(一樹)「他人が決めたルールに従うということは他人に搾取され続けることと同義だと思うんだ。僕はもうそんな生き方はできない。僕はルールなど必要ないと考える。」
刑事は我慢が限界に達し、机に手を叩きつけて立ち上がった!
(刑事)「哲学者にでもなったつもりか!?お前は今取り調べを受けているんだ!場所を弁えろ!」
それでも一樹は怯むことなく話し続ける。
(一樹)「だから、僕はルールに従うことなく生きていこうと思うんだ………」
(刑事)「なにぃ?」
すると突然一樹は椅子ごと取調室の床に倒れこんだ!
(刑事)「何してんだ!」
刑事は倒れた一樹に駆け寄る!すると!
(刑事&警官)「!」
刑事と警官は一樹の手に手榴弾が握られてることに気付いた!
(一樹)「僕は本当の自由を手に入れるのさ………」
一樹は手錠をかけられた状態で手榴弾のピンを抜き室内で放り投げた!そして………
この様子を取調室内のカメラを通して警備室で見ていた警部は即座に他の警官に指示を出す!
(警部)「取調室で爆発が起きた!今すぐ取調室に向かって刑事たちを保護しろ!」
(警官)「はっ!」
警官たちは急いで取調室に向かう!
(警部)「カメラも壊れたみたいだし、一体何があったんだ………」
そして警官たちが取調室に着くと扉が爆風で吹き飛ばされていた。そして中を見ると………
(警官)「うっ………」
取調室は半壊状態になっていて扉の前に立っていた警官は既に死亡しており、取り調べを行っていた刑事は瀕死の重体を負っていた。そして容疑者である黒山一樹は取調室から忽然と姿を消してしまっていた………
その後刑事は救急病院に搬送され、意識不明により緊急手術を行われた。そして残された警部は取調室のカメラの映像を何度も見返していた。
(警部)「………黒山一樹が倒れてからは机で死角に入ってしまっているな。これも黒山一樹の計算ずくか………にしてもなぜ、どうやってこんなことを………たかが品物1品盗んだだけで………」
すると警備室に警官が入ってきた。
(警官)「失礼します。」
(警部)「容体はどうだった?」
(警官)「はい、未だ意識不明ではありますが命に別状はないとのことです。」
(警部)「そうか。そりゃよかった………」
(警官)「警部は何かわかったことはありますか?」
警部は暗い表情のままこういった。
(警部)「………何もわからない。ただ、話を聞いていると黒山一樹は『ルールに従って生きるつもりはない』と言いたげなセリフが多いな。」
(警官)「どういうことでしょうか…………」
(警部)「奴は人としてではなく獣として生きるということか………とりあえずあの状況でも奴は生きて取調室から逃げ出しているのだろう。」
(警官)「あの状況でですか!?」
(警部)「現に奴の遺体は見つかっていないしあの場所からあの2人以外の血液も検出されなかったんだろ?ならもうあの爆発から無傷で脱出したと考えるしかない。」
(警官)「確かにそうですが………」
すると警部はさらに暗い顔をして警官に近づく。
(警部)「我々はとんでもない獣を野に放ってしまったのかもしれない。それもただの獣じゃない、恐ろしい魔獣を………」
(警官)「警部………」
(警部)「とにかく取調室を手榴弾で爆発させた黒山一樹を指名手配だ。奴は必ず捕まえる!」
(警官)「はっ!」
そして黒山一樹は『魔獣』という二つ名を付けられ全国指名手配犯となり、日本中で指名手配の報道が流された………