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短い短いラブストーリー~幼馴染みが恋人になる時~

作者: 来留美

 幼馴染みの男女にとって一番難しいもの。

 それは恋愛。

 お互いを知り尽くしているからこそ、恋愛に発展しない。


 いいえ、俺は恋愛に発展した。

 俺だけは恋愛に発展してしまったのだ。

 これが俺の一番難しい挑戦だった。


「ほらっ、忘れ物」

「私、また忘れたの?」


 俺は学校に着いて彼女を見つけてから、彼女の母親に頼まれたお弁当を渡す。

 彼女は自分に怒っているようで、プンプンしながら受け取った。


「私、あなたがいなきゃダメだよ」

「弁当くらい忘れてもなんともないだろう?」

「なんともあるわよ。お弁当は大事なんだからね」

「まぁ、俺は大事だけどさ」



「ほらっ、大事でしょう? だからあなたがいなきゃダメなのよ」


 彼女は頷きながら言った。


「俺は君の作る弁当がなかったら、学校なんて来てないからね」

「そんなに私のお弁当って美味しいの?」

「うん。俺の好物ばかり入っているからね」


 彼女は毎日、俺と自分の分の弁当を作る。

 その作った弁当を毎日のように忘れる。

 それを俺が彼女に持って行くのが日課だ。


「それは、幼馴染みだからだよ。あなたのことは何でも知ってるんだもん」


 彼女は嬉しそうに言う。

 でも、何でも知っているわけがない。


 この今の会話を楽しんでいる俺の気持ちも、弁当を毎日味わいながら食べているのも、彼女の行動の一つ一つを可愛いと思いながら見ていることも、彼女は知らない。



 今日もまた彼女の母親から弁当を預かる。

 しかし、今日は一つしかない。

 彼女は体調を崩して寝ているようだ。


 俺は彼女の部屋へ向かった。

 彼女の部屋のドアをノックすると、彼女が弱々しい声で返事をした。


「大丈夫なのか?」


 俺は彼女の部屋へ入り、ベッドに横になっている彼女を見る。

 熱のせいで頬は赤い。


「大丈夫だよ。 お弁当は持ったでしょう?」

「うん。でも、今日はお弁当はいらないよ」

「どうして?」


 彼女は悲しそうな表情になる。


「君が食べなよ。君の弁当は元気が出るからさ」

「ううん。お腹空かないと思うから、あなたが食べて。あなたのために作ったのよ?」

「でも、体調が悪いのに作らなくても良かったのに」

「あなたのために作ったの」


 彼女は俺のためだと何度も言う。

 自分を犠牲にしてまでも弁当を作る必要はあるのかな?


「俺は、君が無理をしているなら作らなくてもいいと思うよ」

「無理なんてしてないもん」

「でも、体調が悪い時に作らなくてもいいよ」

「毎日いらないの? お弁当が迷惑だったの?」

「違うよ。そういう意味じゃないんだよ」

「分からない。近くにいるのに、近くじゃない。言ってくれなきゃ分かんない」


 彼女は俺に背を向けてしまった。

 このままではいけない。

 彼女が勘違いしてしまう。


「俺は、君が大切で、何よりも大事で、体調が悪いのに、無理をして弁当を作っていると思うと苦しくて、知らなかった自分が情けなくて」

「大切、大事じゃ分かんない」


 熱のせいなのか、彼女は我が儘な子どものようだ。


「好きだよ。俺は君が大好きだよ」

「本当?」


 彼女はまだ俺に背を向けたまま訊いてくる。

 彼女はどんな顔をしているのか、嫌な顔をしているのかもしれない。


 それでも俺は真実を伝える。


「俺は君が大好きだよ。大切で大事で君のお弁当をこれから先もずっと食べたいし、君の笑顔をこれから先もずっと見ていたいんだ」

「私もだよ。私のお弁当の意味に気付いてくれたの?」

「えっ、弁当?」

「うん、そうだよ」


 彼女はやっと俺の方を見てきた。


「お弁当には、あなたの好きな物しか入っていなかったでしょう?」

「うん。そうだね」

「あなたが大好きだって、伝えてたのに気付いてなかったの?」

「それは、言ってくれないと分からないよ。俺は好物を入れてくれているとしか思わなかったよ」

「幼馴染みだからって何でも知ってるわけじゃないのね」


 彼女は照れて笑った。


「学校遅刻しちゃうよ?」

「今日は休むよ。君の看病だからさ」

「ただのズル休みでしょう?」

「違うよ。君と一緒にいたいんだよ」

「今日のあなたは正直だね?」

「言わなきゃ分からないだろう? 小さな頃からずっと一緒にいるのにさ」

「本当だね。幼馴染みだからってその関係に甘えちゃダメだよね」


 彼女はクスクスと笑った。


「ほらっ、少し寝なよ」


 俺はそう言って彼女のおでこに自分のおでこを当てた。

 彼女は目を見開いた後、またクスクスと笑った。


「そこは照れるところだよね?」

「ううん。私は安心するの。夢じゃないよね?」


 彼女はそう言って目を閉じた。



 彼女の言葉は俺にとって嬉しい言葉だった。

 照れられるのも嬉しかったけれど、安心すると言われたのは俺を信じているからだと分かるから。


 彼女が起きたら何て言おう。


「おはよう。大切で大事で大好きだよ」


 夢じゃないよと伝えたい。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

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― 新着の感想 ―
いやもう最高の関係じゃないですか。 私の場合は幼馴染とそういう関係性になれなかった(いやなろうと思えなかったの方が正しいか)からすべては理解できていないかもしれませんが、それでもヒーローの方の純愛やヒ…
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