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錬金術師カルミア・ル・フェの記録  作者: 観音崎 優
傲慢の章「紅き断罪の薔薇」
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第8話

 そう告げた後に、眉間にしわを寄せて何か妙案を思いついたのかニコリと微笑んで指を立ててはクルリと軽やかにクフェアの方向を向く。直感的に、彼女が何か面倒なことを言い出しそうだと予測をしてしまったクフェアは、先ほどまでのカルミアの眉間の皺が移ってしまったような表情をしている。


「最悪、私の名前とクフェアさんの名前があれば見学できますよ!」

「アンタ、数時間前に言ったこととさっそく矛盾してるぞ」


 結局のところは、有名であるか否かという結論にたどり着いてしまったのだろう。

 クフェアの指摘に対して、数回瞬きをしてからお茶目に舌を出して小さく笑っているカルミア。声色や雰囲気からしても、それらを本気で思っているわけではなくあくまでも冗談として言っただけなのだろう。彼女は口ではクフェアのことも言っているが、実際にはカルミアだけの名前でも十分にことが進めるほどに彼女の名前は有名だ。もし、看守たちが渋った場合はサリュストルからの正式な依頼で動いていることを話せる範囲で説明をして中に入れてもらおうと考えていた。使えるものは使ってこそだ。

 面倒ごとを極端に嫌っているカルミアであるが、その面倒ごとが必要なことであれば嫌な顔をすることなく淡々とこなしていく。

 勿論、それらが終わった後に心底嫌な表情をして悪態の一つや二つを言うことはセットとして付いてきてしまっている。


「ちなみにですが、マリア王妃はこのチェイルジュリに最初から居たのですか?」

「……一々俺に聞くな。流石の俺でも、エスピアの内情は知らねぇぞ。自国の内情ですらも、ままならねぇのに他国の内情などしるわけもねぇだろうが」

「では、それに関しては看守にお話を聞くとしましょうか。看守でも知らないとなれば、最終的にサリュストル先生に聞く必要がありますが……」

「監獄で暴動なんぞ起こしたら、そのまま幽閉されるオチだぞ」

「私に対して酷いと思いませんか、それは。それに、たとえ幽閉されることになったとしても私はこの監獄に居る者皆殺しにすることが可能ですし、それを行って脱獄するに決まっているじゃないですか。勿論、クフェアさんも救出してね」


 楽しそうに無抵抗な者たちをも皆殺しにする姿が安易に想像出来てしまったのか、クフェアは忌々しそうに表情を歪めて舌打ちをした。表面上は丁寧な物言いや、高圧的な物腰ではないために一見すると大人しく冷静で博識な錬金術師の女、というイメージを抱かれやすい彼女であるが、彼女はそれほどまでに出来た女ではないのだ。

 自身が気に入らないならば、邪魔をするものは無抵抗であろうが女子供であろうが殺してしまう。

 楽しそうに喉を鳴らして笑っては頬杖をついて、玉座で足を組んで力なきものが必死で逃げているさまを眺めて楽しむような。カルミア・ファレノプシスとはそのような女なのだ。


「ま、殺しはしないですよ。あちらから仕掛けてこなければ、の話ですけどね」

「……その時は、何が何でも止める。それが、護衛の務めだろう」

「ああ、よく言う話ですよね。主が間違いを犯したときに、止めて正しい道へと修正する。私の場合は、もう軌道修正が不可能なところまで来ているような気がするんですけどね。さて、そんな話をしているとやってきましたね」


 距離としても、そこまで遠くはない。勿論、近くもないのであるがふらりと歩いているとたどり着けるような距離でもあったのだろう。ゆっくりと、目の前にたたずんでいる元宮殿であり現在の監獄でもあるチェイルジュリを見上げる。

 建物としては、とても立派で四つの塔から出来上がっているのだろう。


「遠くから見ても、それなりに圧巻される造りだと思っていたが。目の前で見ると余計にだな」

「ええ。ここが、マリア王妃が居た監獄。……おや、ガイドを務めてくださるのですか? それはありがたい話ですねぇ」


 カルミアとクフェアが見上げるようにして、目の前の監獄を見て口を開いて言葉を紡ぎ出す。

 刹那、カルミアの目の前にやって来たのは綺麗な金色の瞳を持った青い毛並みの一羽の鳥。カルミアはにこり、と小さく微笑んで手を差し伸べる。警戒心もないのか、それともカルミアには従ったほうが身のためであると本能が告げたのかは不明だが小鳥は彼女の手の中でブルルと小さく震える。


「クフェアさん、彼女がガイドを務めてくださるようですよ」

「その鳥、メスなのか。というか、アンタ。動物と会話が出来るのか」

「上級レベルの魔術師や錬金術師にはよくある話ですよ。動物と会話をして、貴重な薬草をいただくこともありますからね。場所を教えてもらうことも勿論あります。なので、動物言語というものは魔術を扱うものにとっては必修のようなもの。私は面倒なので、基本的に動物言語はルゥに任せていますけど出来ないわけではないのですよ」


 小鳥は、可愛らしく控えめに「ぴぃ」と鳴いてはカルミアの頬に頭を擦り付ける。

 その些細な行動が気に入ったのか、彼女は満足そうに微笑んでは小鳥の頭を指の腹で優しく撫でる。カルミアは数回小鳥を撫でて満足したのか、そっと緩んでいた表情を引き締めてから元宮殿である監獄へ向かうために足を進めだす。

 扉の前に居た看守に声をかけて、話せる範囲で事情を説明する。


「私は、ムッシュ・ド・ピアシオンより直々に依頼を受けたカルミア・ファレノプシスと申します。カルミア・ル・フェの方が通りがいいかもしれませんね。現在、マリア王妃の呪いを解明するべくこの監獄の見学をしたいのですが、よろしいでしょうか」

「この監獄を、ですか。……しかし、正式なものがなければ中へ入れることはできません」

「正式なもの、ですか。……うぅん、依頼は正式なものであるのですが困りましたね。別に、全てを見せろと言っているわけではないのですよ。マリア王妃が投獄されていた独房を案内しろ、と言っているです。ね? 少しくらいは、良いでしょう?」

「……ァ」


 カルミアは目を少しも逸らすことはせずに、看守の瞳を意味ありげに見つめながら冷たい声色、そして不気味なほどに綺麗な笑顔で話す。クフェアは一歩下がったところで、観察するようにして監獄とカルミア、看守を見ている。彼らを視界に入れている理由は、決してカルミア自身に危険が及ばないかを心配しているからではない。

 心配していることは、彼女が相手に何か危害を加えることはしないか、ということただ一つである。この監獄で何か問題を起こせば、下手をするとそのまま監獄に入れられる可能性だって存在している。

 そして、投獄されることになればカルミアは宣言通りに皆殺しをして平然とした表情でクフェアを助けてこの監獄から出てくることだろう。手のかからない大人しい女と思っているものは、一番厄介で手のかかるものだったのが事実だ。


「ムッシュ・ド・ピアシオンから正式に受けている依頼であれば、マリア・アクストレウスの使っていた独房へ、案内します」

「はい、感謝します。さぁ、クフェアさん。行きましょうか」

「……ああ」

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