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錬金術師カルミア・ル・フェの記録  作者: 観音崎 優
傲慢の章「紅き断罪の薔薇」
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第7話

「考えられることは、ある。だが、……俺も実際にそれを知っているわけじゃないから空想の御伽噺と言われたら終わりだ。それでも構わないか」

「ええ、構いません」

「……空想の御伽噺。その存在があるのかは不明とされているが、あるものを使えばどのような魔力でも汚染することを可能にさせる。七つの罪の欠片、というもんがあれば少量の濁った魔力を吸収しても、清らかな魔力を吸ったとしても大量の汚染された魔力を放出することが出来る。だが、この七つの罪の欠片は本当に存在しているのか……?」


 彼の口から出てきたのは、七つの罪の欠片というもの。

 カルミアは、その言葉を聞いてニンマリと口角を上げて笑い誰が見てもわかるほどに上機嫌へと変わる。そして彼女は、そっと杖を持ってはまるで御伽噺に出てくる善良な魔法使いのように杖の振るってはクルリとダンスをするように一回転して楽しそうにしている。それらを数回行って満足したのか、ゆっくりとした足並みでクフェアに近付いてきては内緒話をするように口元に指を添えて話し出す。


「ええ、存在しておりますとも。クフェアさんはずっと疑問に思っていたことでしょう。何故私が、いくら旧友の頼みと言えどもこのような調査に乗り出したのか。……答えは簡単です。今回の件には、かの有名な七つの罪の欠片が関与していると踏んでいるからです。時代によって、それらは姿を変えていますので一概に言えませんが。私が知っているのは文字通り石の姿をしていました。今の時代もそうなのかは、わかりません」


 先ほどまでの上機嫌は何処へやら。

 肩を落としては露骨にしょんぼり、とする彼女の大げさな表情の変わりように普段であれば呆れることをしていたかもしれないクフェアだったが今回ばかりは呆れることはなく真面目な表情をしながら話を聞いている。


「これらを使えば、一つあるだけで国全ての魔力を補うことが出来る程の魔力量を誇っているんですけどね」

「だが、その魔力は汚染されておりそのまま使用することはできない、か。……まさか、あの御伽噺である魔術道具が実際に存在しているとはわな。まだ、賢者の石の方が現実味がある」

「そうですね。……ちなみに、定かではありませんが。噂では、それらを浄化してしまうと本来の力を使うことが出来なくなり魔力放出も出来なくなるらしいです。過去には、この七つの罪の欠片を使いこなす人物が七人いたらしいんですけど皆さんもう死んでいますし」


 七つの罪の欠片。

 それは、遥か昔に存在していたとされている七人の偉大なる魔術師が犯した罪を閉じ込めた器となり得る存在。今では、それを知る者は少なく存在さえも伝説とされており魔術を扱うものからしてみれば「御伽噺」で終わらせられる笑い話の一つになっている。実際に、古代語で書かれている本に時折出てくることもあるがそれでもその存在は疑問視されている。

 何のためにあるのか、またその用途も不明とされている。だが、噂程度であってもそれらの器は的確に使用することができない場合は込められたすべての魔力が暴走し全てを汚染しつくということは伝えられている。だが、あくまでも噂程度。実際に、その器を見たものは現代には存在していない。故に、御伽噺なのだ。

 それを何故、カルミアが詳しく知っているのか。それは彼女が、それに一度でも接触したことがあるからに過ぎない。


「ですが、何の器がここにあるのかまではなんとも。コイツを分析すれば、多少なりともわかるものがあるかもしれませんね」

「始まりは、七人の魔術師の罪を込めた器、だったか。七つの罪。傲慢、色欲、悪食、嫉妬、強欲、怠惰、憤怒だったか」

「はい。ちなみに、クフェアさんはどの器がこの国にあると思いますか? 私的には傲慢か強欲かなって思っています。ああ、言っておきますが処刑をしていた処刑人が原因であるとは思っていません。なにせ、あの他人にも自分にも厳しい彼が当時の処刑人だったんですから」

「俺は、そのシャルノ=アルク・サリュストルを知らねぇから何も言えないが。人間ってのは、いつでも正しくいることは不可能だ。ずっと純粋を保つことも同じだ。そいつに間違いがあったのか、濁っていたのかは知らねぇしどうでも良い」


 パシパシ、と瞬きをして少しだけ驚いた素振りを見せるカルミア。

 まさかクフェアがそのようなことを言うとは思ってもいなかったのだろう。その言葉に対して、少しだけ目を伏せては数秒思い耽る。彼の言うことも一理ある。何も知っているからと言えども、断言することはできない。カルミアにわかるのは、せいぜい真偽程度。もっと言ってしまえばその人が嘘をついているかがわかる程度なのだ。その嘘が、たとえ誰かを守るためのものだったとしてもカルミアには等しく「偽り」でしかない。

 彼の言葉を考えると、どうしてもとある人物が脳裏に過ってしまう。


「そうですね。……絶対に間違えない人はいません。それは、人間でも獣人でも、妖精でも同じことでしょう。ですがね、クフェアさん。彼は、敬愛していたルーチェ王を処刑しました。王であろうが、皇帝であろうが。死刑宣告をされて、断頭台へ送られたものを彼は誰であろうが処しました。死刑執行人というものは、正義の番人であり。同時に死神でもあるんです」


 じぃと断頭台を見つめるカルミアの瞳には確かに憂いが存在していた。

 誰であろうが、それが仕事であるかぎり真面目な彼は処し続けた。それはどれほど自身をすり減らす行為だったのだろうか。根本的なところでは何も変わっていない今でも、カルミアは当時と同じく何も感情的に思うことはないのだろう。だが、理性的にそれがどれほど辛く大変なことであるのかは今は理解が出来る。


 ――彼はとても、真面目な人でしたからね。


 何を思っても考えても、所詮は数年前の過去でしかない。過去は彼女の力を持ってしてでも変えることはできない。否、時を操ることは出来ても過去を変えることはご法度だ。未来を変えたい場合は、それは今を変えることでしか実現させることはできない。


「もう、良いのか」

「充分です。……後は、きっとこの広場。この国の意思が私にヒントをくれるでしょう。では、次は……時間もまだ十分にありますし、チェイルジュリにでも見に行きますか。今でも監獄としての機能はあるらしいですが、見学できるんですかね」

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