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錬金術師カルミア・ル・フェの記録  作者: 観音崎 優
傲慢の章「紅き断罪の薔薇」
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第3話

 面倒な仕事は滅多に受けることをしないカルミアが、どのような意図をもってこの仕事を受けたのか。

 基本的には彼女の元へ仕事を持ってくるのは、カルミアとは旧知の中であり彼女が住んでいる地域一体を商売の経路にしている宝石商でありネフライト商会の代表であるアルメリア・ネフライトであることが多い。非常に現金な性格で、対価や報酬が絡むとどこまでも狡賢くがめつい性格をした男である。良い言い方をするならば、商売根性がたくましいということも出来るだろう。


「この植物を調べることも必要ですが、まずは。民衆がこぞって言っている王妃の呪いについても聞きたいところですね。王妃、と呼ばれる存在は多くいたことでしょうが……推測をするに、数十年前に起こったエスピア革命戦争に処刑された王妃、マリア・アクストレウスのことを指していると思っていますが」

「はい。人々は皆、処刑されたマリア王妃の呪いと言っています。そんなはずは、ないのですがね。今では、何処から尾ひれなどがくっついてはマリア王妃だけではなくルーチェ王の呪いや、王室の呪いとまで言われていますよ」


 そっと自身の腕をさすっては、何処か顔色を悪くしてしまっているサリュストル。カルミアは、「ふむ」と小さく声を出しては何かを考える素振りを見せている。今では、このエスピアは落ち着きを見せているが数十年前から始まった市民革命が数年前まで続いていた。その中で、反革命の中心人物として多くの王室関係者の者たちが広場に設置されている処刑台へと登っては首を落とされてきた。

 カルミアは、何処か呆れたような表情で何食わぬ顔でそこに鎮座しているギロチンを見る。

 彼女から見て、確かにギロチンを中心にしてあまりよくない魔力などが集まっている。しかし、それは当たり前なのだ。皆は王族の処刑道具と口に揃えて言っているが、何もあのギロチンで処刑されたのは王族だけではない。れっきとした罪人も、あのギロチンにより首を落とされている。


「おじい様である、シャルノ=アルク・サリュストルさんはお元気ですか?」

「……祖父は僕が十歳の時に亡くなりました。祖父は、とても熱心な死刑廃止論者でしたから。処刑人なのに、だなんて思っているのでしょう? 顔に出ていますよ、クフェア・クォーツ殿」

「名乗った覚えはないが」

「ああ、これは失礼しました。カルミア殿から事前に貴方も一緒に来ることを聞いていたので一方的に知っていたんです。最初は、ルゥ殿が来られる予定だったらしいのですが……今のエスピアの情勢をお伝えして半獣人は来ないほうが良いと伝えたんです」

「警戒は不要ですよ、クフェアさん。彼とは確かに初対面ですが、彼の祖父であるシャルノ=アルクさんは私の知り合いでもありましたので。革命時には、興味がなくて特にここには居ませんでしたが手紙である程度やり取りをしていたほどには仲が良かったかと」


 密かに警戒を続けていたクフェアに対して、警戒は不要であることを伝えては伸びをするカルミア。

 彼女は様々なところで、様々な立場の知り合いがいる場合が多い。カルミア自身、有名な錬金術であることも相まっているのだろう。その有名な、というのは残念なことにいい話ばかりでもないのが事実であるが彼女はそれを気にすることもしていない。

 本人はあまりその自覚もなければ興味もないので、自分の好きに生きているだけに過ぎないのだろう。


「でも、正直驚きました。祖父から聞いていた、カルミア殿のイメージが少しだけ違っていて……」

「んんッ。……あの頃はその、やんちゃが過ぎていましたので。根本的なところでは何一つとして変わっていない、とよく言われていますが表面的なものはとても改善していると自負しています。まぁ、確かに死刑廃止論者である彼と死刑は最早一つの娯楽であると考えている私でしたので、意見のぶつかり合いは日常でしたからね」


 眉を下げて、当時のことを思い出しながら話すカルミア。

 彼女はよくも悪くも気分屋であり、誰が見ても天才と言われるほどのものを持っている。天才が故に、気分屋でもあるのかもしれない。しかし、それは些細な事でしかないのだ。常に刺激を求めてしまいがちであるカルミアにとって、革命時に行われていた多くの死刑は最早娯楽のようなものだったのだろう。否、彼女だけではないのかもしれないが。

 彼女的には、自身に被害が被ることがなければどうでも良いという考え方が根本的なところに存在しているのだがそれをわざわざ告げる程彼女は空気を読めない人物でもなかった。故に、誰もかれも彼女の根本的な部分を知りながらもわざわざ指摘するということはなかったのだろう。

 目の前に居る、サリュストルの祖父であったシャルノ=アルク以外は。


「アンタ、分かっていたが中々に性格が悪いな」

「ひねくれものであるクフェアさんには言われたくない言葉ですけどね。私の性格については、置いておきましょう。……先ほどの話、聞こえていたんですが今でも死刑は続いているんですね。ま、そうそう簡単に廃止が出来るようなものでもないので仕方がないと言えばそれまでか」

「……でも、やはり祖父の言っていた通りの人物で安心しましたよ。では、屋敷まで案内しますね。僕たち、処刑人はこの首都ピアシオンに居ることを義務づけられているので少し歩いたところに屋敷があるんです」


 サリュストルは、ゆったりとした足取りで屋敷までカルミアとクフェアを案内する。

 クフェアは珍しく素直にサリュストルへ着いていくが、隣で歩いているカルミアは周囲を物珍しそうに見渡しながら目を輝かせている。その姿は、子供そのものだった。残念ながら、カルミアは少女の姿をしているが決して子供というわけではない。

 時折、言動が子供よりも子供じみた自己中心的なものがあるために多くの者は勘違いしがちなのだ。


「思ったんですが、あの広場。確かにかなりのまがまがしいものを感じましたが、王妃はあの広場で処刑されたのですか?」

「いえ。マリア王妃は、先ほどまでの見えていた広場の処刑場ではなく少し離れた場所にある広場で処刑されました。先ほどまで居た広場は、ヴローヴ広場。王妃が処刑されたのは、コルヴァ広場になります。それがどうかされましたか?」


 カルミアの質問の意図が上手く理解できなかったのか、サリュストルは不思議そうにしながらも彼女に質問を行う。彼の回答を聞いて、少し考える素振りをしてから自身の顎に手を添えながら何かを思ったのかニコリと人のよさそうな笑みを浮かべては首をを左右に振った。

 今回、彼女の元にやってきた依頼はサリュストルの言っている通りに呪いと呼ばれている一連の事件についての調査をしてほしいということ。カルミアは、錬金術師であるがそれと同時に魔術師でもある。故に、呪いと呼ばれているものがどれほどの力を持ち、どれほどの範囲で影響を及ぼすのかを理解している。だからこそ、今回の事件に関して呪いと言っている者たちの脳内がお花畑である、と小ばかにした物言いをしているのだ。

 本当に一連の事件が、王妃による呪いで魔術的関与があるながらもっと大規模なことになっているだろう。

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