3話
次の日、通学路を歩いていると公園に座り込んでいる男の子を見付けた。かなりの防寒対策をしている子で、頭には白色のロシア帽らしき物を被ってる。
「あの、、、どうしましたか?」
恐る恐る背後から声をかけると、その子はゆっくりとこちらを振り返った。
薄いベージュ色の髪と同じ色の目。外国の人かな?今は六月だとはいえ、夏の暑さが近付いてくる時期だ。
「リスに餌をあげてた」
「リス、、、リス、、、」
男の子の手には木の実。そして傍にはリス。
「リスだ、、、」
「ふふ。君こそどうしたの?菜羽ちゃん」
男の子はにっこりと笑った。何で名前を知っているのだろうか?
「僕はロシア。好きな食べ物はポルシチ。菜羽ちゃんは食べたことある?」
なるほど、この子も私が描いたキャラ、、、そういえば描いた記憶がある。
「ポルシチはね、ビーツを使った赤いスープが特徴的なロシアで定番の家庭料理なんだよ」
「へ〜、、、」
このロシアくんはポルシチ?が好きということが分かった。
ロシアくんと一緒にリスに木の実をあげていると、いつの間にか遅刻ギリギリの時間になっていた。
「、、、やばい!じゃあね、ロシアくん!!」
我に返って立ち上がり、手をブンブン振って学校まで走り出した。
「あ、、、」
ロシアくんが何かを言った気がしたが、私の耳には聞こえなかった。
教室に入るとクラスの女子達が騒いでいた。
「ねぇねぇ、知ってる?今日ね、格好良い子見付けちゃった!」
「格好良い子?」
友達のみっちゃんはキャアキャア言っている。
「そう!不思議な感じで、でも優しい感じがもう!!」
みっちゃんは、サラサラと紙に絵を描く。
トンっと見せてもらったのは、、、紛れもなくロシアくんだった。
「え、、、この子、、、」
「知ってる?ロシアからの転校生!転校生だってー!職員室で見た」
ロシアくん、つい先ほど会ったけどそれきり見てない、、、もしかして、迷子になってた!?
そして朝のホームルーム。先生に紹介されて教室に入って来たのはロシアくん。
ロシアくんは私を見つけると、嬉しそうに笑う。
「あ、菜羽ちゃんだ、、、!」
「何だ、三原。ヴォルコフと知り合いなのか?」
「、、、ヴォルコフ?」
ロシアくんは黒板に綺麗にチョークで『Николай Волков』と書いた。
「|рад встрече《初めまして》ニコライ・ヴォルコフです。好きな食べ物はポルシチだよ」
どうやら黒板に書いたのは名前だったらしい。、、、読めない。
「ニコライくん、日本語上手だね〜」
「やっぱりロシアって寒いー?」
などとクラスから質問されるロシアくん。
「ロシアは寒いよ、でも、シベリアの冬は寒すぎて雪すら降らないんだ。雪が降ってるうちはまだ暖かい」
この日、私はロシアの凄さを知った。
「まぁ、首都のモスクワ方面は雪が降るけどね」
「菜羽ー!迎えに来たんだぞー!!」
校門前で叫ぶのは、今日も元気なアメリカくん。
「、、、裏門から帰ろうかな?」
ロシアくんとコソコソと裏門から帰ろうとすると、買い物袋をぶら下げた中国くんとイタリアくんに出会った。
「マリア様!」
目を輝かせているイタリアくん。そして中国くんはと言うと、、、
「あれ、、、こっちじゃないあるか?」
スマホのナビ片手に呟いている。
どうやら迷子中らしい。
「僕も買い物について行きたいな」
「ロシア、おめーも行くのあるか?」
「うん。正門前にはアメリカくんがいたし」
ロシアくんと中国くんが話している隙に、マリア様、、、と呟いているイタリアくんに小声で尋ねた。
「ロシアくんとアメリカくんは仲悪いの?」
「はい、昔、冷戦という冷たい戦争をしていたので仲が悪いんです。それよりマリア様、ピッザァは好きですか?」
「ピザ?」
「はい!」
嬉しそうに目を輝かすイタリアくん。
「そうだ、みんなで買い物に行けば良いある!!」何やら考えていたら中国くんが名案と言うようにポンっと手を打った。
そんな訳で、近くのスーパー。
「ねぇねぇ、このピザまんってやつ、ピザじゃないよね?」
「これは包子じゃないある。日本は魔改造が大好きあるねー」
「僕もピッザァとは認めない」
冷凍コーナーで、五個入りピザまん片手に何やら話している様子。
ロシアくんはパンコーナーでじっと何かを見ている。
「何見てるの?」
「ピロシキ」
ロシアくんが指差したパンの商品名『ロシアの美味しいピロシキ』
ピロシキ、、、また新しい名前。
トングでピロシキを掴み、トレーに乗せてお会計。一個百十円だった。
そして買ったピロシキをロシアくんに手渡す。
「、、、良いの?」
ピロシキと私の顔を交互に見ながら申し訳なさそうに言う。
「うん。昨日の夜ご飯、食べてないと思うし」
その時、イタリアくんがピザまんを持って来た。
「マリア様、これは何ですか?」
「ピザまんだよ。豚まんの中身がピザに―――」
「ピッザァじゃないですよね?」
イタリアくんが怖い顔をしながら言葉を遮る。
「ピザが入って―――」
「ピッザァじゃないですよね?」
「、、、ピザじゃないです」
とうとう私は折れることにした。
だって、笑顔なのに目が笑ってなかった!!
「ロシア、おめーの手に持っているのは何ある?」
ロシアくんの手には『vodka』と書かれたラベルが貼られている瓶。
「ウォッカだよ。僕の家ではよく飲まれているんだ。第二次世界大戦時では兵士の士気を高める為にウォッカが前線に送り込まれたこともあるんだ」
ウォッカを持ちながら満面の笑みを浮かべているロシアくん。しかし、私達はまだ学生。成人済みではないので、お酒は買えない。