2話
あれから一週間後、私は暗い気分で帰り道を歩いていた。
実は、ちょっとした事件が起こったんだ。
『菜羽、本当にごめん!!ママ、海外転勤が決まったの』
そう、お母さんが海外に転勤することになった。
期間は約二年。私が中学を卒業するまでの間。
『それで、菜羽にはお願いがあって、、、』
『お願い?』
『その転勤先が凄く治安が悪い場所らしくて、何かあっら嫌だから、菜羽は日本に残ってほしくて、、、勿論、ちゃんと生活費や学費は毎月振り込んでおくから、、、!!』
『、、、え?』
お母さんの爆弾発言に私は大パニック。
そんな私を他所に、お母さんはマイペースに話し出す。
『私が帰ってくるまでの間、ナオちゃんが菜羽の保護者代わりになってくれるから、バッチリよ!』
ナオちゃんはお母さんの妹、、、つまり私の叔母に当たる人。
『いやいや、そういうことじゃなくてね!?てか、もうちょっと早く言ってほしいんだけど!!』
思わず、力いっぱい叫んだ。
『ね、菜羽。お願い!』
『〜〜〜っ、分かったよ』
えーえー、私は大人だから折れますよ。
半ばヤケクソだった。それに、お母さんは私の為に働いてくれているんだ。
我儘を言って、困らせたくない。
こうして渋々、私は一人暮らしすることをOKした。
『おー?寝てるぞコイツ』
誰かの声が聞こえた。知らない声だ。
『紙の裏に何か描いていますね』
誰かがノートを捲る。
傍らに複数の気配を感じた。一体、何の話をしているのだろう?
でも今は、瞼を開けることすら億劫だ。会話の内容は気になるものの、瞼の重みがそれを拒否する。
『は、、、?俺達じゃねぇか』
『僕達を作り出してくれたマリア様ってこと?』
『よく分からねーある』
冷たい、冷たい指先が、すっと―――首筋を撫でた。
「うわぁぁっ!!」
氷のような感触に、眠気が吹っ飛んだ。
悲鳴を上げながら飛び起き、辺りを見渡す。
「あ、、、あれ?」
寝ぼけていた、、、?
「あ、起きた」
知らない人が私の顔を覗き込んでいた。紫色の着物を着た黒髪の男の子。
「、、、誰?」
「僕は日本。よろしくお願いします」
何処かで見たことあるような、、、。
「僕達を作ってくれたのが、貴方なんです」
「、、、え?」
日本くんを凝視する。言われてみれば落書きしたキャラに似ているような、、、。
「あ、信じていませんね」
「まぁ、、、はい」
そんな疑問を口に出すまでもなく、部屋の扉が思いっきり開かれた。
扉を破壊するような勢いで来たのは、日本くんと同じく十八歳くらいの金髪の男の子だった。
数秒、私はその子と目を合わせる。
「お、お、起きてる!!」
満面の笑みで、その子は無理やり手を握り、握手した。手を大袈裟に振る。
「俺はアメリカ!よろしくな!!」
「よ、よろしくお願いします、、、?」
アメリカと名乗る少年は、ニコニコと笑っていた。
机に置いていたノートに描いていた絵と見比べる。、、、似てる。
つまり、、、さっき日本くんが言っていたことは本当だったってこと?
「珍しい、、、アメリカくんが抱き着かないなんて、、、」
ボソリと日本くんが言う。
「日本にはそういう文化がないから、びっくりさせちゃうからね!」
アメリカくんはパチンとウインクする。星が飛んでるのが見えた気がした。気のせいだろうか?
「マリア様!ようやく起きたのですね!!僕、マリア様に出会えて嬉しいです」
銀髪の男の子が私を見た瞬間、感動している。
、、、って、マリア様!?
「マリア様って、、、もしかして私、、、?」
「そうです!!」
即答で答えられた。
「ジャ―――いや、Dame、さぁ俺の手をお取り下さい」
青緑色の髪を三つ編みに結った男の子が銀髪の子を押しのけて、私の顔を覗き込む。
頭の中でパラパラと歴史のノートが開かれる。芸術の国って呼ばれている、確か名前は、、、
「君は、、、フランスくん?」
「Oui」
ウインクをして、私の手を取る。
(個性豊か、、、)
「フランス!マリア様に触るな!!」
「えー、良いじゃん。イタリアー。Dameは綺麗な花のように愛でてこそ意味があるんだよ?」
「それは理解出来るけど、、、マリア様は別でしょ!?」
口喧嘩を始めようとするフランスくんとイタリアくん。フランスくんは私の手を握ったまま、
「菜羽ちゃん、イタリアは放っておいて俺と一曲」
そう言って踊り出す。
「わ、わわ、、、!!」
クルクルとおぼつかない足取りで、フランスくんに引かれるままに踊る。、、、リビングで踊るダンス、、、見たことないかも。なんて呑気にそんなことを考えていたら、キッチンの方からとんでもない匂いが漂ってきた。
「こ、、、これは!?」
キッチンから現れたのは、二人の男の子。金髪に緑色の目の子と、ションボリした子。
「あー、、、、君、死んでも大丈夫あるか?」
「大丈夫じゃないです!!」
ションボリした子は私を見るなり、そんなことを言った。
「じゃあ、かなりヤバいある、、、」
「え」
それに割り込むように、金髪の子がお皿を差し出す。お皿に乗っていたのは、パイの上に魚がぶっ刺さった食べ物だった。
「、、、何これ」
「イギリスの伝統料理のスターゲイジーパイだ!たんと食え!!」
「全てあへんのせいある」
、、、パイからは嗅いだことのない匂い。
「この魚はニシンな。かぼちゃやホワイトソースの甘くてまろやかな味わい。 その甘味がニシンの持つ苦味とよく合うんだ!!」
ほら!と近付けてくる多分、イギリスくん。
「冷静下来、あへん」
助け舟を出してくれたのは、パンダのぬいぐるみを肩に乗せている子(多分、中国くん)
「我は中国。同じアジア同士よろしくある!」
そして、中国くんはソファに座りながらネトゲに勤しんでいる白衣姿でセンター分けの黒髪の少年を振り返った。見た目年齢だけなら私と同じくらいだろうか。
「ほら、韓国。おめーも自己紹介するある」
「ん?俺、なんか話す説出てる?、、、あぁ、自己紹介!えーっと、韓国。正式名称は大韓民国、よろしく〜」
韓国くんはヒラヒラと手を振ってから、またパソコンに視線を落とした。
その日の夜ご飯は、中華とスターゲイジーパイだった。