エピローグ2『めでたし、の後に』
エーデルひめたちはぼうけんのすえ さいごのしまにたどりつきました
そこは なにもかもがまっしろな おしまいのしま
せかいのはしっこにある さいごのばしょだったのです
しまのてっぺんに いにしえのいぶつをささげたひめさまは いのりました
みんながへいわにくらせるくにを
あらそいのない りそうのくにを
そうして ひめさまはみごと うしなわれたくにを よみがえらせることができたのです
アキレアは そんなくにをまもるためのしょうぐんさまに
モネは そんなくにでいきるためのほうりつかになりました
そして きょうは そんなあたらしいくにの あたらしいおうさまがおめみえするひなのです――。
***
「よう、姫様。そろそろ、準備はできたかい」
一人の男が、カーテンの向こうに呼びかける。豪奢な一室。そこを見つめながら、男は溜め息を吐いた。
先程、ドレスのフィッティングにと消えていった『彼女』が、中々出てこないのだ。窓から外の様子を伺いつつ、彼は呆れるように続ける。
「姫様ぁ、ぼちぼち行かねえと、皆を待たせちまってるぜ。折角、国が建て直せたってのに、反感を買っちまったら仕方ねえ」
しきりに足をパタつかせる男がそう口にすると、瞬間、勢いよくカーテンが開かれる。
「うるさいぞ、アキレア。今日はたった一度の戴冠式なのだ、身なりには気をつけなければなるまい」
現れたのは、金色の髪をはためかせた女。精緻な彫刻品のような整った顔と、白磁の肌に肩の出た赤いドレスを纏っている。
彼女はかつかつとアキレアの下に歩み寄ると、さらに捲し立てる。
「それともなんだ、将軍様は、主君がみっともない姿でも気にしないというのか?」
「みっともなくなんかねえでしょう。その服でももう十分美しい。俺ぁ、もうちっと脚を出したほうが好きだけどよ」
「……それは、『せくはら』だな。無礼だぞ、貴様」
眉を寄せた女に気圧されるように、アキレアは一歩後退る。そんな彼を見て、女は一つ息を吐いた。
「それに、だ。『姫様』はもうやめろ」
彼女の言葉に、男はどこか納得したように頷いた。そして、その場に膝をつき、礼をしながら言うのだった。
「――そりゃあ悪かったですね、女王様」
女がにやりと笑みを浮かべる。年相応にも見える、悪戯っぽい表情だ。それに付き合うように、アキレアの表情も緩んだ。
そんなやり取りをしていれば、勢いよく部屋の扉が開く。
飛び込んできたのは、エナン帽を目深に被った白髪の少女だった。礼服に身を包んではいるものの、威厳は感じられず、まだ拙さを思わせる。
そんな彼女は、半ば悲鳴のように、二人に向かって声を張る。
「ひ、姫様! アキレア! そろそろ急がないと、臣民の皆さんがご立腹ですよ!」
女とアキレアが、顔を見合わせる。
そうして、同時に吹き出した彼らは、ゆっくりと、部屋の出入口に向かって歩き始めた。
「おう、悪い悪い。姫様が、服選びに手間取っちまってよ」
「む、貴様、まだ言うか……それに、また姫と……」
「け、喧嘩は後にして、とにかく、行きましょうよ!」
そうして、彼女らは歩んでいく。
誰もが、自分の人生という物語の主役だ。
それは、絵物語の彼女らですら例外ではない。『めでたし、めでたし』の後にも、人生は続いていく。
「……それでは、行くか。私たちの旅の、続きに――」
これは、後悔の物語。
そして何よりも、それを乗り越える物語。
これから千年続く王国の、最初の女王となった彼女の、ありふれた人生の物語だ――。




