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最終章『白の島』-1

 二年生に上がる時に、英とはクラスが分かれてしまった。


 僕は文系に、彼女は理系にそれぞれ進んだのが理由だったが、そうでなくても僕らの道は分かれていたのではないかと思う。


「あーあ、窓際の席、譲ってもらえなくなっちゃった」


 残念そうにそうぼやいていた彼女だったが、どこまで本気だったのかはわからない。


 もしかすると、彼女にとっては些事だったのかもしれないし、本当に、世界が終わるほどの大事だったのかもしれない。


 それがわからない程度に、僕らの距離は離れていたから。


 だから、僕はつまらない軽口を叩いてしまう。


「そうだな、残念ながら、季節の気配とやらは、しばらくお預けみたいだ。僕みたいに、友達になるなんて交換条件で替わってくれる物好きなんて、そうはいないからな」


 言葉に重みなどない。

 重みを持たせるだけの背景が、僕にはない。


 だから、彼女の気持ちも考えずに、そんなことが言えるのだろう。


「……そうだね、確かに、君みたいな物好きはそういないよ」


 それが、言葉以上の意味を持っているであろうことにも、僕は気が付くことができない。


 物好き、という単語の響きの悪さに眉を顰めることくらいしかできなかったのは、今思い返せば、大きな不覚だ。


「まあ、でも、いいだろ」


 僕は少しだけ悪くなった空気を払拭したくて、大きめに声を張る。そんなことで、何が変わるわけでもない、自分を慰めるためだけの虚勢だ。


「……何が?」彼女が怪訝そうに目元を歪める。

「何がって、今まで通り、飯は屋上で一緒に食うだろ? そうしたら、季節の香りなんていくらでも感じられるさ。春の花びらも、夏の暑さも、秋の落ち葉や冬の寒さだって、あの場所には降ってくるんだから」


 僕の言葉に、英は一瞬だけ目を見開いた。驚いたのだろうか、それとも、僕はよほど変なことを言ったのか。 


 それを推測するよりも早く、悪戯っぽい笑みが返ってくる。


「そうだね……確かに、夏、君の頭の上に蝉が降ってきたときは、私も随分笑わせてもらったしね」

「そんなことは覚えてなくていいんだよ! もっと、こう、あるだろ、色々!」

「うん、あるよ」


 今思えば、この時の彼女の横顔は、見たことがない色をしていたような気がする。


 けれど、当時の僕にそれを指摘するような余裕はなかったし、しなくてよかったとも思っていた。


 僕が余計なことを言えば、この心地良い関係が終わってしまうかもしれなかったから。


 空っぽと不適合の二人は、そうしてしか、この世界に存在が許されなかった。


 許されないと、思っていた。


「じゃあ、まあ、なんだ、これからもまた、よろしくってことで」

「なんかそれ、気取った感じで面白いね」 

「もう、お前には二度と優しくしないからな!」


 そんなやり取りも、喧騒の花弁に埋もれてゆく。


 四月。

 出会いと別れの時期。


 僕と彼女の世界が、致命的に分かれてしまった分岐点。


 そうして、彼女が屋上から飛ぶまで、あと、三ヶ月。


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