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四章『黒の島』-14

 外に出てみれば、痺れを切らしたように足をパタつかせるアキレアと、腕を組み黙想するエーデルが待っていた。


 僕らの姿を認めると、アキレアの顔が悪戯っぽく歪む。


「お、戻ってきたな」彼は、どことなく下品な表情で。「急かして悪いが、まあ、なんだ、乳繰り合うのはまた、旅が終わってからにしてくれや」


「ち、ち……」モネが顔を赤らめ、目を背けようとする。髪が白くなったからか、赤面が酷く目立つようになってしまった。


「おい、アキレア。あまりモネをからかうなと言っているだろう」


 嗜めるエーデルに、頷きながら同調しておく。


「そうだぞ、アキレア。いつかお前、セクハラで訴えられるからな」

「……ふふ、ああ、『せくはら』は良くないぞ」


 少しだけ、エーデルの頬が緩む。

 彼女もまた、旅の初めの頃に比べれば、幾分柔らかい表情を見せるようになってきたと思う。


 それが、打ち解けられた証拠なのか。

 それとも、旅の終わりが近いからなのかは、わからないが。


「ちぇっ、俺の味方は一人もいねぇのかよ。はいはい、どうせ俺は一人だけ、オッサンですよっと」

「そう拗ねるな。モネも、本気にはしていないさ」


 ええ、とモネは、今までで一番自然に笑いながら。


「……次にからかったら、また、光魔法を使いますから」

「げっ、光魔法ってえと、あの、黒い熱線?」

「……土魔法も、前より強くなりました」


 ジトッとした目で彼女が言い放てば、そこで一同は笑いに包まれる。


 温かい、人間同士の関係の和。

 現実世界では僕が属することができなかったそれが、確かにここにはある。


 エーデルも、モネも、アキレアも。誰もが僕の、掛け替えのない仲間だ。


「……色々あったが、全員でここまで来られて良かったな」


 しみじみと呟くエーデルの言葉に、僕も首肯する。


 『赤の島』では、まだ他人同士だった。

 『黄の島』を経て、絆を深めて。

 『青の島』では、運命に立ち向かった。


 そして、この『黒の島』でも、僕らは別離の運命を打ち破ることができた。


 僕らなら、どこへでも行ける。

 どこへでも行ける、はずなのだが。


「そうしたら、とっとと出航しようぜ。俺たちを、『白の島』が待ってるんだからよ!」


 アキレアが、威勢よく声を上げる。それにモネも、エーデルも頷き、歩み出す。


 しかし、僕の足は少しだけ重かった。頭の端に残る、僅かな懸念。質量はそこまででもない引っ掛かりが、歩みを鈍重なものに変えていく。


 僕の異変に最初に気が付いたのは、エーデルだった。


「……カナタ、どうかしたのか?」


 その声に、皆が僕の方を振り向く。そうなってしまえば、彼女らの前で隠し事ができるほど、僕は器用ではない。


 だが、それを差し引いても、『これ』を口にするべきではない。それだけは確かだったから。


「……なんでもないさ、早く行こうぜ。出発が遅れたら、海が荒れるかもしれないしな」


 適当に肩を竦めて、誤魔化すことにする。そうして、早足で、先頭を行くアキレアを追い越すくらいに勢いよく、僕は歩を進めた。


「あ、ちょっと待てよお前、今何か言いかけて――」


 アキレアがどこか訝しげに声をかけてくる。しかし、何を聞かれても答えるわけにはいかないのだ。


 だから、僕はたぶん、いつもと同じように怯えていたのだと思う。仲間たちの誰かから、『こう』問われるのではないかと。


 そして、その時に僕は必ず、嘘を吐かなければいけなくなってしまうから。


「おい、カナタ。逸る気持ちもわかるが、皆に歩調を合わせよう。なあに、次の島は逃げたりしないさ」


 次の島。

 旅の終着点、『白の島』



 ――そんなものは、最初から無いのだ。



 だって、祖父はそれを描く前に命を落としてしまったたのだから――。


「……ああ、そうだな。ゆっくり行こう、今まで通り、今までよりも、ゆっくり――」


 僕らの、旅の次のページは。


 どうしようもないほどにまっさらな、白紙なのだ――。


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