表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/82

四章『黒の島』-4

 接岸してみれば、僕らを待ち受けていたのは、黒色の地面と生い茂る黒い木々だった。


 絵本の挿絵に違うことなく、目に入るもの全てが黒々とした景色に、思わず言葉を失いそうになる。


 辺りには霧が立ち込め、どこか不気味な雰囲気だ。

 そんな島の砂浜に、僕らは上陸することになった。


「やっぱ、人っ子一人いねえな」錨を下ろしながら、アキレアが口にする


 辺りを見渡す。彼の言う通り、人の気配は全く感じない。目に入るのは海、土、森――。


「ああ、どうやら、前の島で食料を買い込んできたのは正解だったようだ」


 エーデルも、下船の準備をしている。この島には町は愚か、宿もない。荷物は最小限にしているところを見る辺り、まずは島内を見て回るつもりなのだろう。


 大した荷物はないが、僕も船を降りる準備をしよう――そう考えて、振り返ったところで。


「……」黙したままこちらを見つめている、モネと目が合った。


 彼女の瞳には、見たことがないような暗い輝きが宿っているように見えた。どこを見るとも判ぜぬ眼の縁は、一瞬だけそのまま固まっていたが、すぐにその視線を解いた。


「お、モネ。そろそろお前も下船の準備を――」


 声をかけようとしたが、彼女は黙したまま船室の方に歩いていってしまった。


 ……嫌われて、しまったのだろうか?


「……すまないな、カナタ。気にしないでやってくれ」


 エーデルは、僕の隣に並びながら言う。


「お前の言った、『外の世界から来た』という話。あいつは受け入れるのに、少し時間がかかるようだ」


 それは、当然のように思えた。


 この世界を生きる人々からすれば、相当に突飛な話だ。全員が全員、エーデルのように飲み込めるとは考えづらい。


「……そうか。それは、悪いことをしたな」


 僕は彼女の去っていった扉から、目が離せなかった。


 モネとは、仲良くなれたつもりだ。


 『黄の島』で二人で行動したり。

 『青の島』で調べ物をしたり。


 少しくらいは打ち解けられたと思っていた分、彼女に要らぬ心労をかけてしまった事実に、心が重くなる。


「……言わないほうが、よかったのかな」


 思わずぽつり、呟いた。誰かを傷つけるつもりなんてなかった。むしろ、自分が傷つきに行くつもりで、打ち明けたというのに。


 けれど、僕の言葉はすぐに、アキレアの大声で否定される。


「がっはっは、何言ってんだお前。仲間に秘密を打ち明けられて、隠しごとのない間柄になれて、嫌なやつなんていやしねえよ」

「私も、それには同意だ。よく話してくれたな、カナタ」


 だが――と、エーデルの表情が少し、鋭さを帯びる。


「私たちは、仲間だ。これからはくれぐれも、自分のことを大切にしてくれ。傷つくのならば言わなくてもいいし、お前に無理をしてほしいとも思っていない」


 それに、何より。

 お前が傷つくことで、悲しむ人がいるのだと。


 エーデルの言葉は、酷く胸に染み入った。ただ頷くことしかできなかったが、それはもしかすると、僕がずっと欲しかった言葉なのかもしれない。


 空っぽの僕が。

 何も無い僕が、そのままでもここにいていいのだと。この仲間たちは、そう言ってくれるのだ。


 ならば、僕にできることは、この旅の終わりまで。彼女らと共に歩むことなのだろう。


 と、僕がそこまで思考したところで、エーデルが両手を打ち合わせた。


「……さて、と。そろそろ島に降りないか。明るいうちに、島内の状況を把握しておきたい」


 今回ばかりは聞き込みというわけにはいかないからな、と言い添えて。


「おう、それには俺も賛成だ。危険な獣や魔物がいねえとも限らねえからな、とっとと降りて……」


 アキレアの言葉は、そこで途切れた。


「どうした、アキレア、何か――」


 彼の方に視線を向けて、僕も同じように言葉を失う。


 見えたのは、島の正面、真っ黒な森の切れ間の辺りだ。遠くから見ているときには気が付かなかった、それは――。


「……人工物、だと?」エーデルが僕たちの驚愕を言語化する。「馬鹿な、この島は完全に無人島のはずだ!」


 彼女の言葉に、僕は絵本の描写を思い出す。



 ***


 ひめさまたちは つぎにくろのしまをおとずれました


 きも つちも なにもかもがまっくろなこのしまには だれもすんでいません


 ただ ぶきみになくとりたちが ひめさまたちをむかえるのでした


 このしまのしんでんには のぞみをうつすかがみがありました 


 えーでるひめは しんでんにむかい いぶつをてにしたじぶんをのぞみました


 かがみはくもりをうつすものでした


 くもりは のぞみをくだくため のぞんだものをころそうとするのです


 しかし じゅんすいなひめさまには くもりなどありませんでした


 かがみのまえにたつ かのじょのまえに さいごのいぶつがあらわれました


 これで すべてのしまのいぶつがあつまり ひめさまはさいごのしまにむかいます


 それが なにもかもがまっしろな おしまいのしまだとはしらずに――




 ***


「……なんで」僕は、思わず口にしていた。

「カナタ、どうかしたのか?」


 エーデルが尋ねてくる。それに相槌を打つ余裕もないままで。


「この島は、無人島で合ってる。でも、問題はそんなところじゃないんだ」


 僕の声は震える。


 だって、仕方がないじゃないか。僕に見えたのは、この世界にあるはずが無いものたちだったんだから。

 喉がカラカラに渇く。頭の芯が、じいんと痺れるような痛みと、皮膚がピリつくような緊張が、あらゆる感覚を遠くしていく。


 そして、生唾をひとつ飲み込んでから、それを口にするのだった。



「あれは、僕の爺ちゃんが住んでいた町だ――」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ